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6.異世界説明お兄さん

酒場『荒鷲の拠り所』の朝は早い。


日が昇る前に起き、店内の床を掃き、木机を何度も雑巾で拭く。重い酒樽を運ぶのは筋力のない僕には重労働だけど、現世でのファミレスでのバイト経験が意外なところで役に立っていた。


注文を効率よく取る手順や、客への愛想の良い受け答え。そうした「接客の基本」を意識して動いていると、最初は不審な目で僕を見ていた荒くれ者たちも、次第に普通に声をかけてくれるようになった。


「おい、リン! こっちにエール追加だ!」


「はい、ただいまお持ちします!」


大きなトレイにジョッキを載せ、笑顔で席を回る。


店主のガルバさんは口こそ悪いけれど、約束通り三食の温かい飯と、狭いけれど一人が寝るには十分な物置部屋を貸してくれた。


先輩店員である獣人のお姉さん、アーリさんも僕にとても良くしてくれる。


「リンちゃん、本当に筋が良いわね。こんなにすぐ店に馴染むなんて思わなかったわ」


「ありがとうございます、アーリさん。前のところで少し似たようなことをやっていたので」


そう言って苦笑いする。まさか異世界の酒場で、現代日本のファミレスのノウハウが生きるとは思わなかった。


夜の喧騒が少し落ち着いた頃、カウンターの端に座っていた常連客のケニーさんが、僕に手招きをした。ケニーさんはこの街で暮らすベテランの冒険者で、いつも軽口を叩きながらも僕を気遣ってくれる優しい人だ。


「よう、リン。少し休めよ。ガルバの親父も今は奥で仕込み中だろ」


「あ、お疲れ様です、ケニーさん。じゃあ、お言葉に甘えて……」


僕はトレイを脇に抱え、ケニーさんの隣の席に腰を下ろした。


数日働いてこの世界、ギルガニアでの生活にも少しずつ慣れてきたけれど、まだまだ分からないことだらけだ。僕は思い切って、ずっと気になっていたこの世界の『仕組み』について尋ねてみることにした。


「あの、ケニーさん。少し聞きたいことがあるんですけど……この世界の人って、みんな『レベル』とかを気にして生きているんですか?」


「あん? なんだよ急に。そんなの当たり前だろ」


ケニーさんはエールをゴクリと飲み干し、不思議そうな顔で僕を見た。


「この世界に生きる生物は、全員が魔力を体に吸い込んで生きてる。だから、特別なことをしなくたって、生きているだけで自然とレベルは上がる仕組みになってるんだ。お前くらいの歳の人間なら、普通は何もしてなくてもレベル3にはなってるもんだぜ」


僕はレベル1だがこれは低すぎるのか。内心の動揺を隠しながら、僕はさらに話を促した。


「やっぱり、戦ったりするともっと上がるんですか?」


「おうよ。効率の良さを求めるなら、圧倒的にモンスターを討伐することだな。奴らは体内に溜め込んでる魔力の量が人間とは違う。強い魔物を倒せば、その分だけ成長の効率が跳ね上がるんだ」


ケニーさんは自慢げに自分の胸を叩いた。


「ちなみに、この世界じゃレベル10に達すれば『一人前』って呼ばれる。20を超えれば一目置かれる『熟練』だ。そして30に到達した奴は、『英雄』とかその類の化け物として歴史に名が残るレベルだな。まぁ、そこから先の上限がどこにあるのかは、俺たち一般人には分からねえよ」


「レベル30で英雄…でも、自分のレベルってどうやって確認するんですか?」


ケニーさんは呆れたように笑った。


「お前、そんなことも知らねえでよく生きてこれたな…普通は教会に行くんだよ。セレスティア教の教会には専用の魔導具があってな、そこで祈りを捧げると、自分のレベルや持ってるスキル、魔法が確認できる。まあ、俺たちみたいな冒険者は定期的に通って、自分の成長を確かめるのが日課みたいなもんだ」


「教会、ですか。……自力で見たりはできないんですか?」


「ははっ、何言ってるんだよ。自分の頭の中に直接ステータスを浮かび上がらせるなんて、そんな器用な真似ができたら苦労しねえよ」


ケニーさんは笑い飛ばし、新しく届いた料理に手を伸ばした。


「……そうですよね。変なことを聞いてすみません」


僕は愛想笑いを浮かべながら、背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。


あの時、僕の視界にははっきりと自分のステータスが表示されていた。HPの減少も、自分が持っている『ライトニング』の魔法も、すべて自力で観測できていた。


これは話さないことにした。下手に喋れば、不審がられるどころか、どんな面倒に巻き込まれるか分からない。


「リン! サボってねえで運べ!」


「あ、はい! 今行きます、ガルバさん!」


奥から響いた店主の怒鳴り声に、僕は慌てて立ち上がった。僕は再び、活気に満ちた酒場の喧騒の中へと戻っていった。

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