12.キノコはお好き?
「今回、冒険者ギルドから受けてきた依頼はね、シンドラーの森での『薬用キノコ』の採取と、あと『シンドラーベアー』の討伐だよ!」
並んで森へと歩きながら、ルナは嬉々としてそう告げた。
できれば僕はキノコ採取だけを平和にやって、そのまま速やかに街へ帰りたい。けれど、隣で早く魔物出ないかなぁと言わんばかりに目を輝かせている彼女の様子を見るに、そんな訳にはいかないだろう。道すがら必死に話し合った結果、とりあえずは先にキノコ採取を終わらせて、それから討伐に向かうという順序に決まった。
生い茂る木々をかき分け、シンドラーの森へと一歩足を踏み入れる。その瞬間、あの時お腹を突き破られた一本角の兎の記憶が鮮明に蘇り、僕は思わずブルッと身体を震わせた。
そんな僕の様子に気づいたのか、ルナは励ますように僕の肩をぽんぽんと叩く。
「大丈夫だよ、リンくん! 私、『採取』のスキルも持ってるからキノコ集めなんて余裕、余裕! ササッと終わらせちゃおう!」
彼女の後を追って森の奥へ進むと、少し開けた湿気のあるエリアに出た。そこはまさにキノコの群生地で、切り株や地面のあちこちに、大小様々な見たこともないキノコが生えまくっていた。
「うわぁ、いっぱいあるね。……ねえルナ、この中からどんなキノコを採取すればいいんだっけ?」
「ええっとね……『マノガサタケ』っていう名前のキノコだよ!」
「『マノガサタケ』ね。見た目の特徴とかは?」
「……名前以外、知らない!」
ルナは両手を合わせて、実に申し訳なさそうな顔で言った。本当にキノコ採取には興味が無いようだ。
「はぁ……。じゃあ、僕の能力で探してみるよ。ルナ、言うのを忘れていたけど僕にはじっと物を見つめると、その名前とか解説が見える能力があるんだ」
「えっ、そんなのあるの!? すごい! 私、他人のステータスは細かく見れるけど、物単体をじっと見て詳しく文で鑑定するような力はないよ〜!」
どうやらルナの製品版能力でも万能というわけではないらしい。少しだけ自分の能力に自信が持てた僕は、さっそく目の前のキノコたちを片っ端から注視していった。
【毒ドクキノコ】
解説:食べると激しい腹痛を起こす。
【シンドラーシメジ】
解説:一般的な食用キノコ。バター炒めにすると美味しい。
【マノガサタケ】
解説:微細な魔力を吸って育つ薬用キノコ。傷薬の材料になる。
「あった、これだ! ルナ、これが『マノガサタケ』だよ。傘の裏がほんのり青く光ってるやつ!」
「なるほど、これね! よーし、見た目が分かればこっちのもの!」
見た目の特徴を教えた瞬間、ルナの『採取』スキルが本領を発揮した。彼女は凄まじい手際の良さで、草むらや木の根元から次々とマノガサタケだけを的確に見つけ出し、瞬く間にカゴへと放り込んでいく。無駄のない滑らかな動き。やっぱり『スキル』ってずるいなぁ、と僕は自分の手元にある数本のキノコを見つめながら内心で少し羨んだ。
「うん! これで依頼分の数はばっちり取れたね!」
ルナはふぅ、と一息ついてカゴの中身を満足そうに眺めた。ノルマ達成だ。
「よし! キノコも集まったことだし、もうこのまま安全に街へ帰ったりしない……?」
僕は淡い期待を込めて帰還を提案してみた。
しかし、ルナは僕の言葉を完全に無視して、満面の笑みで腰の剣に手をかけた。
「じゃあ次は、シンドラーベアーの討伐に行ってみよ〜〜〜!」
「で、ですよね……」
嬉々として森のさらに奥へと突き進んでいくルナの背中を見送りながら、僕は恐怖のあまり、本気で泣きそうになっていた。




