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11.『体験版』と『製品版』


「やっぱり、僕のステータス表示は簡易的なものなんだ……」


自分の能力の不完全さを突きつけられたようで、僕は内心がっくりと肩を落とした。僕の持つ力は、言うなればただの「体験版」で、目の前で胸を張っている彼女の持つ力こそが、完全無欠の「製品版」といったところだろう。


僕はため息混じりに、苦笑いを浮かべながらルナに告げた。


「……実はさ、ルナ。僕もステータスを表示させることができてたんだ。ここまで詳細に数値化されたものでは無いけどね」


「えっ! 本当に!?」


ルナは驚いたように目を丸くした。それから急に、両手で自分の身体を隠すようにして、大袈裟に身をよじり始めた。


「ってことは、何!?リンくん、私のステータスも覗き見してたってこと!?やだ、恥ずかしいっ!」


「いや、見てないって!そんな暇なかったし…」


そこまで言うなら、本当にルナのステータスが見られるのか試してみよう。僕はそう思い、目の前ではしゃぐ彼女に意識を集中した。ここ数日、街の人や冒険者のステータスを見てきた時のように、心の中で念じる。


『-表示』


しかし、彼女の頭上にいつも通りの半透明の枠は現れなかった。代わりに、視界の真ん中に、冷徹な文字がぽつりと浮かび上がる。


『error』


「え……?」


エラー? 思わず声が漏れた。


この数日間、八百屋のお姉さんから狼人の冒険者まで、街ですれ違った他人のステータスは、名前こそ分からずともレベルや簡易的なスキル、魔法まで確実に表示できていた。それなのに、ルナに対してだけは、読み込むことすら拒絶される。


「どうしたの、リンくん?」


「いや……他の冒険者や街の人のやつは表示できたのに、ルナのやつを見ようとすると『error』って出ちゃって、何も見えないんだ」


「あらら、そうなの?」


ルナは「うーん」と人差し指を顎に当てて小首を傾げたが、すぐにまぁいっかといつもの調子に切り替えた。


「しょうがないなあ、じゃあ私のステータスも書いてあげるよ!」


ルナは僕の手からペンとメモ用紙をひったくると、再びサラサラと楽しそうに文字を走らせ始めた。「はい、これ!」と手渡された紙を覗き込んだ瞬間、僕は言葉を失った。


--


Name:ルナ・セレスティア

HP:435/435

MP:654/654

Level:10

Strength:8

Vitality:7

Dexterity:8

Agility:9

Intelligence:8

Mana:21

Status:なし

Experience:105/3000


Equipment:

・封剣アーク

・聖女の衣


【Skills】

心願 剣術 体術 槍術 採取 索敵 カリスマ 無詠唱 鑑定 料理 裁縫 魔力操作 観察眼 聖属性耐性 受け流し 魔力感知 洗濯 威圧


【Magic】

火魔法

・ファイアボール

・イグニッション

・ヒートウェイブ

・インフェルノ


水魔法

・ウォーターボール

・アクアニードル

・ウォールオブウォーター


雷魔法

・ライトニング

・ボルトチェイン

・ショックウェーブ


【光魔法】

・ヒール

・ホーリーレイ

・ピュリフィケーション

・セイクリッドヒール

・ライト

・ブレッシング


--


ええとこっちが、本物の『チート』なのでは?


それが、僕の率直な感想だった。


この数日間、酒場で働きながら、僕は本当にたくさんの人のステータスを盗み見てきた。レベル10を超えた熟練の冒険者だって見てきた。だけど、これほどまでに狂ったような数のスキルと、複数属性にまたがる膨大な魔法のリストなんて、ただの一度も見たことがない。レベル10で持っていい手札の量じゃない。おまけに『洗濯』や『料理』まで網羅しているあたり、隙がなさすぎる。


驚愕のあまり、僕の顔は完全に引き攣っていたのだろう。


ルナは僕の反応がよほど嬉しかったのか、ふんぞり返って、これ以上ないほど自信満々にエッヘンと胸を張った。


「ふふーん、どう? 頼もしいでしょ!」


彼女は腰の剣の柄に手を当てると、街の門の向こうに広がる緑の地平線を指差した。


「さあ、記念すべき最初の冒険! シンドラーの森へ出発だよ〜!」


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