10.やっぱり僕は平凡
「ただし! 僕が少しでも危ないと思ったら、その時点で冒険は即やめる! これは絶対に約束だからね!」
僕が人差し指を立てて強い口調で念を押すと、ルナは「うん、うん!」と、あからさまに適当な様子で何度も頷いた。完全に右から左へ聞き流している。本当に大丈夫なのだろうか、この現人神様は……。
「じゃあ、明日からさっそく冒険の開始ね!! 武器はこっちでちゃんとお手頃なやつを用意してあるし、酒場のおじさんにももう私から話してあるから!」
「……え、ガルバさんに? もう?」
つまり、彼女は僕が断るという選択肢を最初から考えていなかったわけだ。すべて外堀を埋められた上で自分が承諾する前提で動いていたのだと知り、僕はどっと疲れが押し寄せて、深いため息を吐いた。
--そして、次の日。
お世話になったガルバさんとアーリさんに挨拶を済ませ、僕が酒場『荒鷲の拠り所』の扉を開けて外に出ると、まばゆい朝日のなかでルナが満面の笑顔を浮かべて立っていた。
昨日のような豪奢なローブではなく、少し動きやすそうな、けれど気品溢れる冒険者風の装いだ。
大通りを行き交う人々は、そんな彼女の姿を見つけるなり、遠巻きにヒソヒソと騒ぎ始めている。
「……おい、あれってまさか現人神様か?」
「え、本当だ……。でも、お隣にいるのは誰? 新しい護衛かしら?」
「にしては、ずいぶん細くて弱そうね……。何者なんだろう」
確かに、今の僕は客観的に見てもめちゃくちゃ弱そうだ。心の中でまた一つため息をつく。レベル1の人間が、現人神の隣に並んでいるのだから、そう思われても仕方がない。
「ほらリンくん、はいこれ! 適当な剣を持ってきたよ!」
ルナは周囲の視線など一顧だにせず、手元にあった一振りの剣を僕に手渡してきた。
僕は受け取ったその剣を、無意識にじっと注視する。すると、脳内にすっとテキストボックスが浮かび上がった。
【騎士剣】
解説:一般的な騎士や熟練の冒険者が好んで使用する、均整の取れた鉄製の長剣。扱いやすく、耐久性に優れる。
手渡された本物の剣を腰のベルトに携えると、カチャリと心地よい金属音が響いた。昨日まで乾いた木の枝を振り回していた自分からすれば、これだけでも一気に『冒険者』になったような気がして、胸の奥から少しだけワクワクした感情が込み上げてくる。
いかんいかん、命懸けの場に行くんだから気持ちを切り替えなきゃ。
僕は頭を軽く振り、並んで歩き出しながら、ずっと気になっていたことをルナに尋ねてみることにした。
「そういえばさ、ルナ。昨日、僕のステータスを見てるって言ってたよね。それって普通の人は教会の魔導具がないとできないって聞いたんだけど……」
「んふふー、気づいちゃった?」
ルナは歩幅を合わせながら、自慢げにふんぞり返って胸を張った。
「これは私の特殊能力なのだ〜! 私はね、教会の道具なんか使わなくても、相手の名前やレベル、スキル、それに細かい能力値まで全部直接見ることができちゃうんだから!」
「……えっ」
僕は驚きで思わず足を止めそうになった。
実は、僕も頭の中に自分のステータス画面を浮かび上がらせることができる。だからこそ、彼女も自分と同じような見え方をしているのかと思ったのだ。
しかし、僕が確認できる自分のステータスは、名前、HP、MP、スキル、魔法の項目が並んだだけのものだ。筋力などの数値までは見えていない。
ルナの能力は、僕が自分自身を見ている画面よりも、もっと詳細な部分まで完全に網羅されているのか?
そう思った僕は、ルナの持つ能力と、自分の見え方との精度の違いを確かめるため、僕は酒場から持ってきたメモ用紙の切れ端とペンを取り出した。
「ルナ。もし本当に僕のステータスが細部まで見えているなら……ちょっと、この紙に書いてみてくれない?」
「え? いいよー、お安い御用!」
ルナはペンを受け取ると、迷うことなくサラサラと流れるような文字で、僕のステータスを書き写し始めた。
書き終えたルナから紙を受け取り、僕はその内容に目を落とす。
そこには、僕が頭の中で見ている簡易的な画面を遥かに超越した、圧倒的に詳細な情報が書き連ねられていた。
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Name: リンドウ リン
HP: 20/20
MP: 20/20
Level: 1
Strength: 1
Vitality: 1
Dexterity: 1
Agility: 1
Intelligence: 3
mana: 2
Status: なし
Experience: 80 / 200
Equipment:
・白い異界の服
・異界の靴
【Skills】
・剣術
・無詠唱
・観測者
【Magic】
雷魔法
・ライトニング
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本当に僕の知らない僕の筋力や素質、経験値の数値まで、全部完全に把握されていた。
紙に書かれた詳細な数値を指でなぞりながら、僕は目の前の黒髪の少女を改めて見つめ直した。彼女が扱っている『ステータス表示』の規格外な完成度に、やはり僕はチートなんてない平凡な人間というのを自覚した。




