幕間①
人間と魔族の争い。
それは太古の昔から繰り返されて来たという。
だが、今行われてるその争いが起きたのは約五十年前と長い歴史で見れば最近のことであった。
始まりは一つの村が魔族と思わしき怪物に襲われたことであった。
本能のままに破壊の限りを尽くす……というのではなく、民家の破壊などはなるべく抑え、若く使える住人たちは生かして奴隷の如く扱い、また次の村を襲う。
計画的且つ明確な侵略行為に他ならなかった。
事態を重く見た世界一の大国レオバードはすぐに討伐隊を結成し、その魔族たちを討ち滅ぼすことに成功する。
だが、それで全てが終わったわけでは無く、すぐに新たな魔族の襲来が確認された。
今も続くこの戦いはその日から始まったのである。
魔族の影響は大きく、元々その世界に存在する自然界のモンスターとは別に、魔の力を帯びた『魔獣』が跋扈するようになり、各地で被害を出した。
やがて、魔族のことは一般の人々にも知れ渡り、皆恐れるようになる。
民の不安を取り除くため、そしてこの戦いに勝つために王国が見出だした希望。
それが「勇者」であった。
──???
「魔王様、『勇者』についての報告がございます」
「良い。話せ」
「魔王」と呼ばれた者が答える。
「は!……『勇者パーティー』を名乗る一行が王国より出立したとのことです」
「そうか。……それでその勇者は本物か?」
「勇者を名乗るだけあって実力はあるようですが、本物かどうかを断言するにはまだ情報が足りないかと」
「良い。引き続き監視を怠るな」
「は!」
即座にそう返した後、報告した何者かは闇へ溶けるように消えた。
(闇を極め、今や神をも凌駕するであろう力を持ったこの我を唯一滅ぼし得る存在、『勇者』)
元はレオバード王国で語り継がれる伝説の中に登場する存在であった「勇者」。所詮はお伽噺と一笑に付すことも出来るだろう。
だが、魔王はそうは思わなかった。
(ククク…力自慢のあやつならば、正面から叩き潰すとでも言いそうだな。無論、この我が正面から迎え撃ったとて敗北するなど万に一つも無いだろうが、それでも可能性の芽は育つ前に摘むべきであろう。我は強者であることよりも勝者であることを望む)
故に、魔王は勇者についての情報は見逃さぬようにしている。
実在が疑わしいからといって無視していい理由にはならないと考えているからだ。
(とはいえ、優先すべきものは他にもある。地上の世界を征服するに当たり、目下の障害はかの王国。流石に国一つともなれば、この我でも滅ぼすのはコトだ。だが、それではいかぬ。我一人での……『個』の勝利では意味がないのだ。我々、『魔族』の勝利で無ければな。そうでなければ、奴らは報復として同胞の中から弱き民、幼き民を狙ってくるに違いないからな)
魔族とて、誰もが強いわけではない。
また、魔王が如何に優れていても末端まで全てを守りきれるわけでもない。
だから、「魔王」一人だけではなく「種」全体が脅威であると思わせることが、少なからずその抑止力となる。と、魔王は考えていた。
(……だが、敵もさるものだ。『勇者』という存在が我らへの牽制になることを知っているからこそ、こうして『勇者』の存在を喧伝するかの如く広めてくる)
事実として勇者パーティーの存在は魔王の侵攻の手を止めている。
(件の勇者パーティーとやらは、かの王国の作り出した偽物かも知れん。しかし、放置も出来ぬ。悩ましいことだ)
伝説によれば、勇者は人間の中で唯一光の力を使うことが出来るという。
(だが、火の魔法を応用すれば光の力に見せることも可能。故に、慎重に見極めねばならぬ。我々が勇者を討ち取ったと油断している間に何処かで真の勇者が育っていたなどあれば、それが致命的な一手になり得るからな。それに、下手にその勇者パーティーとやらに手を出せば、かの王国も重い腰を上げ、我々との全面戦争に打って出る可能性もある。まだその時期ではない)
魔王たち魔族の本拠地は地上とは別の世界にあり、そこから地上へ転移魔法を用いて同胞を送り出していた。
だが、その転移魔法では大規模な軍隊を送ることは出来ないので、まずは地上の何処かへ拠点を作る必要がある。
(拠点にすべきは『国』が望ましい。それ程大きな国でなく小国で十分だ。その方が、民が全員魔族に入れ替わっても他国から気付かれにくいからな)
そのための調査や準備は最終段階に入っている。
(……戦いに犠牲はつきものだ。如何に強くともそれは避けられぬ。だからこそ、その犠牲は少ない方がいいに決まっている。我は王。民を愛しているのだ)
負けられぬ戦い。
だからこそ、決して抜かりがあってはならない。
(四年……いや、五年か。現状の進捗を鑑みれば、それが本格的な侵攻を開始するに一番適した時期であろう)
魔王の唇が、凶悪な弧を描く。
(何れにせよ『勇者』だろうが王国だろうが、結局は打ち倒さねばならぬ相手というだけのことだ。ククク、貴様らの命運が尽きるのもそう遠い未来ではないぞ?)




