表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/19

第9話 ロザリーと初授業と教師マグミス

 そんなこんなで慌ただしい初日が終わり、翌日には通常の授業が始まる。

 授業はクラス別で行われ、ロザリーは入学試験の成績上位者が集められる特待クラスに入ることとなった。


(そう言えば、未来のワタクシも特待クラスでしたわね)


 クラスメイトたちもよく見ると「天啓」の中で見たことのある顔ばかりであった。

 そのことにロザリーはふと疑問を浮かべる。


(……少なくとも、『天啓』を受けてから学園に入るまでの二年間は本来の未来とは大きく変わった筈ですわ。それならば、クラスメイトの顔ぶれが少しは変わってもいいと思うのだけれども、そこは変わらないのですわね)


 ロザリーは以前、ジュールから聞いた話を思い出す。

 それは一匹の蝶の羽ばたき一つが原因で、世界の何処かで大災害が起こるというものであった。

 些細なことが世界に大きな影響を与え得るという話である。


(勿論、それが全てに当てはまるわけでは無いのでしょうけれども、ワタクシの場合は逆に何も変わらなさ過ぎ(・・・・・・・)だと思いますわ)


 テスカが屋敷へ来たこと。

 学園に特待クラスで入学したこと。

 クラスメイトの顔ぶれが同じであったこと。


 細部に大きな変更があっても、こういった全体の流れについて、現状は「天啓」で見た足跡(そくせき)と大きく変わってはいない。

 運命力とでも言うのか。そういったものが、本来の道筋へと引き戻そうとしているようにさえロザリーは感じていた。


(……でも未来を変えることは出来る。それは、テスカの件でも確かでしたわね)


 本来であれば、ロザリー自らの手で即刻クビにしたことで、以降は関わることのなかったテスカ。

 そんな彼女は今は学園にも一緒に来てくれる程に親しい存在となっている。

 これは「天啓」の中には明確に存在しない光景であった。


(つまり、ワタクシがその都度何かを変えない限り、取り敢えずは『天啓』の通りに進んで行く……ということなのかしら?)


 カッセルの予期せぬ接触に関しても、本を正せばロザリーの不注意から生まれた一幕。

 ある意味では、ロザリーの行動が未来を変えたとも言える。


(……だとすると、ただ漫然と過ごしていたら元々の処刑される展開が訪れてしまう可能性もあるってことになりますわね)


 ロザリーはげんなりする。

 まだそうと決まったわけではないものの、場合によってはこれまでの努力や行動が無に帰すかも知れないのだ。


(……それでも、ワタクシは最後まで抗うしかない。死ぬなんて絶対に嫌ですもの。せっかく大切に思える人たちも出来たというのに、死んでたまるもんですか!それにこのクラスの方々とも仲良くなれるかも知れないですしね)


 ロザリーは改めてクラスメイトの顔を見回す。

 この中に「天啓」の中にも登場する程に未来のロザリーと交友関係のあるような人は残念ながら見当たらない。

 さも当然のようにいるカッセルを除いては。


「はい、皆さん注目!」


 よく通る声がロザリーの耳に入ってきた。

 声のした方を見ると一人の教師がいつの間にか入って来て、教壇に立っている。


(……おっと、ついつい考え込んでしまいましたわ。今日は初授業。集中しないと先生にも失礼ですわね)


 ロザリーは一旦悲観的な考えは引っ込め、切り替えるように教師へ視線を向けた。

 教師は四十代くらいの女性で、優しそうな顔つきでありながらも、その声には力強さを感じる。

 厳しくも優しい……といった人なのだろうかとロザリーは思った。


「ふふ、流石は特待クラス。授業が始まる前は各々リラックスしていたようですが、授業が始まった後はきちんと切り替えてますね」


 そう言って教師はロザリーの方へチラッと視線を向けた。

 どうやら、先程まで考えにふけてボーッとしていたのを見られてしまっていたようだ。

 ロザリーは少し恥ずかしさを感じる。

 それを見てか、教師はくすりと小さく含み笑いした。


「まずは、自己紹介から。私の名はマグミス。本日から皆さんに魔法を教えます。よろしくお願いしますわね」


 マグミスは丁寧に頭を下げる。


「あ、皆さんについては一人一人ちゃんと存じ上げておりますわよホホホ。……では、早速ですが、その皆さんに魔法についてお尋ねしましょうか。ミス・プール。魔法の基本属性は何だったかしら」


「はい、『火』『水』『土』『風』の四つです」


 プールと呼ばれたメガネを掛けた少女が答えた。


「正解!ふふふ、特待クラスの皆さんにする質問としてはあまりに簡単過ぎたかしら?」


 マグミスは上品に微笑むと、満足げに頷く。


「しかし、この基本中の基本。初歩中の初歩こそ、最も疎かにしてはいけないことですのよ。どんな偉大な魔術師も……いや、それだけの魔術師だからこそ、そこを大事にしているものです。魔法とはその四属性の応用や組み合わせによって如何様にも変わっていくのですからね」


 そう言うとマグミスは試すような視線で教室を見回した。


「では、次にその基本属性とは異なる属性。何か分かるかしら?ミス・ロザリー」


 今度はロザリーが名指しされる。


「……『光』と『闇』ですわね」


「正解!流石は世界で唯一の『闇』の使い手ですわね!」


 マグミスは涼しい顔でそう言った。


教師マグミスの言葉に教室の中は少しざわめき立つ。


(……まあ、そういう反応にはなりますわね)


 ロザリーが闇の力を持っていることについて、この学園の教師たちにはジュールによって事前に開示されていた。

 隠していたところで何れバレてしまうだろうし、何よりもロザリー本人が自身の闇の力について知る必要があると思ったからだ。

 人間の使い手こそロザリーただ一人であるが、闇の力については各地で研究が進んでいるという。

 そして、王国最大の学園には当然世界からも有数の魔法の専門家が集っている。故に何かしら有益な情報が得られる可能性があるのと専門家に調べて貰うことで新たな発見があるかも知れないという期待に加え、「天啓」で見た未来のロザリーはその秘密を暫く誰にも明かさずにいたので、それとは異なる行動を取りたいという意図もあった。


(とはいえ、まさか初日からこうしてバラされるとは思いませんでしたけれども!)


 闇の力は、言い伝えによれば魔族の力の源ということになっている。

 真偽はともかく、そういう風に伝え広まっている中で「闇の力を使うことが出来る人間」が現れたら、まず良い印象は抱かないだろう。

 クラスメイトの奇異に満ちた視線が自分へ集まっていることをロザリーは強く感じていた。


「……おっと、気を悪くされたら失礼、ミス・ロザリー。決して、貴女を貶める意図があったわけではございませんことよ。それに、『闇』と言っても、あくまで力に過ぎませんわ。その方の本質というわけではありませんし、人間(・・)の『闇』の使い手が災厄をもたらした事実もございません。言い伝えはあくまで言い伝えですことよ」


 教室内の空気を察してか、マグミスは慌ててそう付け加える。そこに明確な悪意などは感じず、フォローもしてくれたため、本当にそんな意図は無かったのだろう。


「……いいえ、気にしていませんわ。ワタクシが闇の力を持ってるのは事実ですもの」


 とは言いつつも。


(そう思うなら、そもそも言うなって奴ですわ!)


 と、心の中で憤慨するロザリー。

 だが、表向きは気にしていませんという表情を装う。


「そう言って頂けると助かりますわ。……さて、件の『光』と『闇』。これは特殊なもので、単なる魔法の属性というわけではございません」


 そう言ったマグミスが指先で何かを描くような動きをすると、空中に何かの図が浮かんだ。

 それは、各属性の相性を記したもののようであった。


「例えば、魔法の属性には相性があります。基本的に『水』は『火』に強く、『土』には弱いといったように。ですが、『光』は『闇』に強いわけではなく、また弱いわけでもございません。その逆も然り。そして、効果も特殊なものが多く、それ故に『光』と『闇』は『魔法』ではなく『力』と呼称されることが多いのです」


 マグミスの解説はロザリーにとっては初めての情報が多かった。

 自身に備わってる力とはいえ、ロザリーが知り得る情報源は物語や言い伝えが主であったからである。

 なので、こうした何かしらの研究に基づいたであろう情報というのはロザリーにとっては大きい。


「先生、一つよろしいでしょうか?」


 そう質問をしたのは長い銀髪が特徴的な美しい少女であった。

 ロザリーも同年代の中では大人びている方ではあるが、彼女もまた顔も体も十四歳とは思えぬ程である。


「はい、勿論ですよ。何でしょうか、ミス・グレアー?」


「『光』と『闇』の力を持つ者はそれぞれこの世界にただ一人……偶然にもその内の一人がここにいるわけですが、彼女を検体にしたというわけでもないのに、何故その力について解析が出来ているのでしょうか?」


 それはロザリーも気にはなっていたので、マグミスの返答を待つ。


「いい質問です!確かに『光』と『闇』の力を持つ者はただ一人だけです。ですが、その者たちが生まれる前にそれぞれの力を持った者が存在しなかったわけではないのです」


「なるほど……。つまり、先代の『光』と『闇』の力を持つ方の協力があった。そういうことでしょうか?」


「素晴らしい!ですが、それだけでは完璧な解答ではございませんわね」


 グレアーへ賛辞を送りつつ、マグミスは含みを持たせる。


「『闇』の力ってのは魔族も使うんだろ?」


 そう声を上げたのは、赤い髪の目付きが悪い少年であった。

 制服を着崩しており、一見すると不良のようで、特待クラスには浮いているように見える。


「って、ことはぁ、その魔族を捕まえたら研究なんかやりたい放題だろ?」


「ミスター・ダイル。正解です。しかし、発言をする時は手を挙げて欲しいですわね」


「そうかい?次からは気を付けるよ」


 ダイルと呼ばれた少年は悪びれる様子もなくそう言って笑い、そのままグレアーへ視線を向けた。

 グレアーは不愉快そうな表情を隠さない。


「……平民か貴族かは存じ上げませんけど、特待クラスにいる以上、品性というものには気を付けた方がよろしいんじゃなくて?」


「そういうアンタは実に貴族らしくていいね。嫌いじゃないぜ?」


「…………フン!」


 グレアーはこれ以上は無意味とそこで会話を打ち切り、そっぽを向いた。

 それを見てもダイルはニヤニヤとその不遜な態度を崩さない。


「おほん。活発な議論は歓迎ですけれど、私語であるならば、それは授業の後にお願いしますね?ミス・グレアーにミスター・ダイル」


「……申し訳ございません」


「はいはーい。気を付けまーす」


 グレアーはダイルを一瞬睨みつけるとすぐに授業へと集中し始める。

 一方でダイルは相変わらずであった。


(……ああいう方もいらっしゃるんですわね)


 ロザリーは今までずっと屋敷の中で過ごしており、自分と同世代の子たちについては知る由もなかったので、教室内のやり取りなどは色々と新鮮であった。


「……ミスター・ダイルの言うように、『闇』の力に限りましては魔族から情報を得るという手段がございます。とはいえ、流石に非人道的なことはやっていませんので誤解なきよう」


「……本当かねえ?」


 ダイルの呟きがロザリーの耳に入る。

 ふと視線を向けると、先程までのニヤニヤとは打って変わり、真剣な表情であった。

 マグミスの言ったことに何か思うところがあるのだろうか、とロザリーは思った。


「……さて、話を戻しますと、このように魔法について学ぶことが私の授業の主な内容となります。その歴史など、知識を増やし、理解を深めることこそ魔法を極めるための近道であると私は信じております」


 マグミスはそう言うと、教室へ入ってきた時と同じように丁寧に頭を下げた。


「それでは、皆様。教科書の方を開いて下さい。最初の方は、優秀な皆様には当たり前のような情報かと存じますが、それこそが大事であるということは先程申し上げましたね?」


 そんな感じでマグミスの授業は進んで行き、鐘の音と共に終了する。

 初日の授業後半は魔法の基礎中の基礎のおさらいのような内容ではあったが、それでも専門家であるマグミスの口から聞くと、また違うようにロザリーには聞こえていた。


「ミス・ロザリー、ちょっとよろしいですか?」


「?」


 次の授業を行う教室へ向かおうとするロザリーにマグミスがそう呼び掛けてきた。

 そして、短く「あちらで」と言って歩き出したのでロザリーはその背中に従う。


「先程は失礼なことを言ってしまって……改めてお詫びさせて頂きますね」


 二人きりになると、マグミスはそう言ってロザリーに頭を下げる。

 どうやら皆の前でロザリーが闇の力の使い手であるのを明かしたことへの謝罪のようであった。


「……いえ、本当に気にしていませんので」


 ロザリーはそう返答するに留めた。

 自分よりも遥かに年長にこうして面と向かって謝られると、文句があったとて表に出しづらいものである。


「それでも貴女に不愉快な思いをさせてしまったであろうことは確かでしょう。本当ならば事前に相談した上で段階を踏んだ方が良かったのかも知れませんけれども、特待クラスの皆様は聡い子が多いものですからね。今の時点でミス・ロザリーの違和感に既に辿り着いている子もいたようでしたので、先んじて明かさせて頂きましたの」


「え?そうなんですの?」


「魔法の素質のある子は、その分異質な力も感じてしまいますから。こういうのは、余計な不信感を溜める前に早めに原因を理解させた方が良いと私は判断いたしました。ミス・グレアーが私にした質問を覚えていますか?」


「ええ。確か『闇の力の使い手は一人だけなのに、何故解析が進んでいるのか?』でしたわね?」


「ええ。何故、彼女はそんな質問をしたのか。それは『闇』の力に良い意味での興味を抱いたからに他なりません。『闇』への不信感があったならば、もっと違う聞き方をしたと思います。例えば、『魔族と同類の化け物が人間の皮を被って一人混じっているというのに、何故駆除もせず呑気に解析などしているのですか?』とかですね」


「ううっ、ワタクシはグレアー……さん?とは今日が初対面ですし、彼女の性格を知っているわけじゃありませんけれども、そのくらいは言われても仕方ない気はしますわね……」


 もしもロザリーが闇の力を持っておらず、他の誰かが闇の力を持っていたと仮定して。

 その闇の力を持つ者と相対した時に、ロザリーは何も気にせず接することの出来る自信は正直無かった。

 少なくとも、恐怖を感じているだろうなと思っている。

 なので、そういった忌避についてもある程度想定はしていた。


(とはいえ、実際そういう態度を取られて平気なんてことはまっっっっっったくありませんけれども!)


「ですが、ミス・グレアーからは憎悪などは全く感じられませんでした。純粋な興味からくる質問だったのでしょう。純粋な興味を抱くということは『闇』を、そしてその力を持つ貴女を必ずしも悪しものとはしていないのだと私は思います」


「……でも、軽く皮肉っぽいことは言われた気がしますわ」


「それはミス・グレアーの元々の性格なのでしょう。ふふふ、知れて良かったじゃないですか、ミス・ロザリー。きれから仲良くなっていくのであれば、重要な情報ですよ?」


「そ、そうなんですの?てっきりグレアーさんはワタクシを嫌っているのかと思っていましたわ」


 振り返ると、ロザリーも会話の折にそういった軽口を添えたことは一度や二度ではないだろう。

 何となくウィットを感じさせるような言葉をと無意識にやっていたことで、相手を傷付ける意図などは無いのだが、言われた側がどう受け取るかまで深く考えたことはなかった。


「いいですか、ミス・ロザリー?」


 マグミスは真剣な眼差しでロザリーを見つめた。


「貴女はこれから様々な人と出会い、様々な言葉を投げ掛けられるでしょう。でも、その全てを悪いようには考えないで下さいましね?そうしてしまったら、やがて暗闇の鬼に魅入られ、本当ならば味方になっていたかも知れない者まで遠ざけることになります」


 その言葉はロザリーには深く刺さった。

 「天啓」で見た未来のロザリーがまさにその通りに孤立していったからである。


「私でよろしければ、魔法のことや『闇』の力のことだけでなく、人間関係のことでも困ったことがあったならば、何時でも相談に乗ります。頼りにして下さいましね?これでも教師ですので」


 そう言うとマグミスは、またも深くお辞儀をし、微笑みながら去って行った。


(マグミス……先生)


 最初は正直無神経な人だとロザリーは思ったが、こうして面と向かって会話をするとその印象は変わっていた。

 少なくとも、ロザリーのことを思っているということは彼女にも伝わっている。


(全てを悪いようには考えないで……とは、なかなか難しそうですわね。けれども、胸に刻まれましたわ)


 こうした教師との会話は当然「天啓」の中には無い一幕であった。


(やはりワタクシが『天啓』と違った行動を取れば、未来は変わっていくのですわね)


 これから訪れることは恐らく「天啓」で見たものと大きくは変わらない。

 だが、その都度行動すれば変えられる。


 それが今後の行動の指針であるとロザリーは一先ず決めていた。

※エピソードの構成について調整を行わせて頂きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ