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第7話 ロザリーと入学式と歓迎パーティー

 ロザリーたちは何事もなくガーデンドール学園へと到着する。近年は野良の魔獣も珍しく無いので、とても幸いなことであった。

 ジュールやテスカが護衛としているとはいえ、要らぬ戦闘は避けるに限る。


「壮観ですわねぇ……」


 ロザリーは入り口から学園を見上げて思わずそう感嘆の声を漏らした。

 まるで城を思わせるその外観は美しく、重厚で悠然としている。

 この国の貴族は、敢えて外国の学園へ行くような物好きを除けば、皆この学園へと通うのが通例であった。

 だが、決して貴族偏重ということはなく、平民の者たちにも門戸を開いている。

 平民出身は学費が貴族出身よりも安く、更に奨学制度もあり、学園を卒業すれば、王城からの雇用も夢ではないため、毎年多くの平民も入学するのだ。


「では、また後ほどですわ」


 入学式は新入生のみ参加のため、使用人は外で待機となる。

 ロザリーはジュールとテスカに一時的な別れを告げると、期待と不安を抱いて緊張した面持ちの新入生たちと並ぶように入学式を行う中央の大講堂へと向かった。


 大講堂の中は椅子が並べられていた。

 ざっと見て百席は超えているだろうか。

 入り口に立つ教師と思わしき女性から新入生用の簡易的なブローチを貰うと、彼女が指定した席へ向かい着席する。

 暫く待つと入学式が始まり、学園長と紹介された老人が出て来た。

 

「え〜、只今ご紹介にあずかりました。このガーデンドール学園で学園長を務めさせて貰っておりますクリフヴァルツと申します」


 クリフヴァルツ学園長は白く長い髪、長い眉毛、長い髭が特徴的で、その優しげな声から柔和な印象を与える老人であった。

 だが、一方で只者ではないという雰囲気も微かに纏わせており、伊達に王国最大の学園を預かると思わせる。

 そんな彼の話はとても長かった。

 ただ長いだけでなく、話の途中で脱線して別の話が始まったと思ったら、また脱線し……を繰り返すので、一向に終わが見えぬ状態であった。


「〜〜〜〜!」


 今日に限って寝不足気味なロザリーは欠伸を噛み殺しつつ、眠りそうになるのを精神力で何とか堪える。

 居眠りなど貴族にあるまじき行為。大分考えが軟化したロザリーでも、そのくらいの矜持は持っていた。


「……であるからして、……といえばあの時は〜」


(うう……、学園長の語り口が穏やかでそれもまた眠気を誘発しますわ。このまま一点を見つめていたら夢の世界へ行ってしまいますわね……。そうですわ!)


 ロザリーはなるべく頭を動かさず視線だけで周囲の観察を試みる。気を紛らわし、少しでも眠気を覚まそうという健気な努力であった。


(それにしても、新入生の数が多いですわね)


 王国最大の学園は伊達ではないといったところか。

 ジュールの話だと、一学年の人数比では貴族よりも平民の方が多いらしいが、皆学生服を着ているため、一見しただけでは貴族と平民の区別はつかない。

 だが、よく見るとその所作で差異は見られる。

 無論、ロザリーも座る姿勢一つを取っても美しくあるように努めていた。


(あの辺は平民出身が多いのかしら?……ん?)


 ロザリーは視線の先の数多いる同級生の中から一人の人物を見つける。


(うっ、アレは……いや、あの御方は!)


 平民たちの中にいる凡庸な顔立ちの少年。

 取り立てて注目すべきでないように思える。


(忘れようにも忘れられない。カール殿下!)


 彼こそが、未来のロザリーを処刑に追いやった張本人。レオバード王国の第一王子カール・ラッセ・レオバードであった。

 尤も、未来のロザリーが処刑されるに至ったのは彼女の行いが主な原因であり、彼が陥れたりしたなどというわけではない。

 だが、それでも「天啓」でその顛末を見たロザリーにとっては会ってもいないのにトラウマに近い存在になっていた。


(そうですわ。ワタクシと同級生なのだから、この場にいても全然不思議では無いんですわね……)


 未来のロザリーが王子であると知らず彼に手を出すのは今から二年後のことである。

 したがって、未来においてもこの時点での接点は無い。


(それに、あそこまで完璧に平民に溶け込んでいたならば、気付かなくても当然ですわね)


 生まれも生まれなだけに本来であれば隠し切れない気品がその顔にも溢れているのだが、そういった外見的な部分は恐らく魔法によって抑えているのだろう。

 パッと見ただけでは、平民にしか見えない程に上手く装っている。


(今のワタクシは平民の迫害なんて絶っっっっっっ対にしないですけれども、下手に接触するのも怖い存在ですわね……)


 大国の王子がわざわざ平民を装ってこの学園へ入学した理由については「天啓」の中でも分からなかった。

 何れにせよ、触らぬ神に祟りなし。と、ロザリーは彼には深く関わらぬよう肝に銘じる。


「……長くなりましたが、私の話はこの辺にしておきましょうか。今日の主役は私ではなく皆さんなのですからな。ホッホッホ」


 漸く学園長の話が終わった。


(自分で長くしておいて、配慮しました。みたいな言い方なさらないで欲しいですわ!)


 ロザリーは思わず心の中でそう突っ込んだが、表情には一切出さず、皆に合わせてにこやかに拍手する。


 そうして入学式が終わった後は、教師の引率の元、各授業で使う教室に食堂や図書室といった施設など学園内の案内が始まった。

 何処も伝統のある趣きでありつつも、まるで古臭さを感じないのは、それだけ手入れが行き届いているということなのだろう。


 最後に学生寮の紹介。

 大まかに言えば貴族寮と平民寮で分けられている。

 また、貴族は一室に一人と使用人が入り、平民は一室に数人の平民の生徒が入ってシェアするという形になっていた。


 それらの説明を終えたところで本日の入学式は終了となる。

 今日から三年も世話になるであろう自分の部屋に入ると、ロザリーはふうと一息吐いてから椅子に座った。


「はぁ、疲れましたわ」


「お疲れ様です。お嬢様!」


 そう出迎えてくれたのはテスカであった。


「お紅茶でも飲まれますですか?」


「ええ、頂きますわ」


 ロザリーはテスカが淹れてくれた紅茶を口元へ持って行く。


「……いい香りですわ。ワタクシの好きな香り」


「ハイ!お嬢様の好みはバッチリです!」


「頼もしいですわね」


 テスカが専属メイドになって早三年。

 本人曰くカムフラージュも含めて失敗が多かったが、今や大体のことはこなせるレベルになっていた。

 この成長性を鑑みるに彼女は基本的には飲み込みが早いのだろう。


「改めて、これからもよろしくですわテスカ」


「ハイ!これからもよろしくです!」


「……さて、ですわ」


 十分心を落ち着かせたロザリーは、ふと先程見かけたカールのことを思い出していた。


(……そう言えば、どうして未来のワタクシはカール殿下にそんなことをしたのかしら?)


 「天啓」では断片的にしか見えなかったため、そうなった経緯については現状は想像するしかない。

 未来のロザリーはカールを平民として迫害しただけでなく、闇の力で攻撃しようとしていた。

 何がそうさせたのかは分からないが、客観的に見ても凡そ正当性のない行為であることは間違い無い。


(自分で言うのも何ですが、そりゃ処刑されて当然ですわね……。というか、何をやってるんですの未来のワタクシは!)


 そうは思いながらも、今こういう考えが出来るのは「天啓」のお陰であることもロザリーは分かっていた。

 そして、「天啓」を受けた日にジュールという存在が居てくれたお陰であることも。

 もし仮にそれらが無ければ、平穏無事に今日この日を迎えることは絶対になかったとロザリーは確信している。


(いくら未来のワタクシが荒みに荒み切っていたとしても、平民相手にこの闇の力を向けたのは少し引っ掛かりますわね。未だによく分かってはいない力ですけれども、言い伝えなどを聞いても殺傷力が高い印象を受けますわ。他の魔法ではなくこの闇の力を使うということは……)


 それはつまり、相手を殺そう(・・・)としたに他ならない。


(未来のワタクシとカール殿下に一体何が……?何れにしても、あまり関わらなければ良いだけですわね)


 改めてそう肝に銘じると、ロザリーは頭を切り替えた。

 この後は新入生の歓迎パーティーがある。


(それまではテスカの淹れてくれたこの紅茶を嗜みながら、ゆっくりと待つこととしましょう)



 ──数時間後。



「これは思っていたよりも凄いですわね」


 先程まで入学式を行っていた大講堂はすっかり様変わりし、パーティー会場となっていた。

 貴族の淑女たちはそれぞれ華やかに着飾り、平民出身の人たちもせめて場の雰囲気を壊さぬようにと学生服で参加している。


「まるでお城の舞踏会ですわ」


 ロザリーもジュールが選んでくれた漆黒の髪と目にとてもよく合うドレスを着ていた。

 入学式と学園案内では他の新入生との交流の機会はあまり無かったため、ここからがその本番と言える。


(友達……とまではいかなくとも、気軽に話せるような方々と知り合いたいですわね)


 ロザリーがコミュ力に自信が無いのは相変わらずであった。


「あの……」


 そんなロザリーに神が手を差し伸べたのか、背後から声を掛けられる。


「なんです……の!?」


 振り返ったロザリーは思わず表情を凍らせてしまった。

 災厄というのは向こうから近付いてくるのか。

 そこにいたのはカールであった。


 

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