不安
私はウエディングドレスを着たまま、お化粧をした。メイクさんが上手いからか、まるで別人みたい。
公子『すっごいね、プロって(笑)』
私『逆に恥ずかしいよ(笑)・・・さっきはごめん・・・情緒不安定気味なの・・・。』
公子『全然、気にしてないよ。佐村くんから聞いたの。色々、大変だったんだね。でも、これからの新しい人生で失われた10年間を取り戻そうよ。』
私『ああ・・・10年間分も聞いちゃったんだ・・・。』
公子『よくわかんないけど、私なら話しても大丈夫だろうって言われて・・・聞いちゃった。』
私『そう・・・自業自得みたいなものだけどね・・・。』
公子『そんなことないよ。ほら、また沈んじゃってる。変わろう。最初は意識しないと変われないよ。』
私はハッとした。人見にもサムにも言われたことがなかった”意識しないと変われない”という言葉にハッとしたんだ。
私『そうだね。私、甘え過ぎていたのかもしれない。結婚するんだから、もうちょっと強くならなきゃ。』
公子は笑いながら首を横に振った。
公子『ダメダメ。もうちょっとじゃなくて、とことん強くならなきゃ。佐村くんを尻に敷いちゃいなよ(笑)』
私『カーテン越しだから、聞こえちゃうって(笑)』
そういえば、カーテン越しにサムが待ってるんだ。
シャーッ
佐村『俺を尻に敷くとかなんとか・・・。』
サムが目を丸くしてる。
私『・・・い、いつもより綺麗に仕上がりました。どう?』
佐村『ほ、本当に色葉?』
公子『すごいでしょ、化粧の力って。本物の色葉だよ。』
私『メイクさんがすごいんだけどね。土台は私で間違いないよ(笑)』
佐村『ありきたりなこと言っていいか。』
私『それを待ってるの。』
佐村『・・・綺麗だ。』
私はありきたりな言葉を貰った。容姿のことで褒められるなんて滅多にないから弱いんだ。サムに惚れたのも何気ない一言だった。
『お前、いい女だな。』
お肉が焦げちゃうから、サムのお皿に押し付けただけなんだけど、いい女って言われて、そんなことないと否定したら・・・。
『その謙虚さも、可愛いな。』
だって。酔っていたからか、一瞬でキュンときて・・・今日という日を迎えちゃった。元々、そこまで相性も良くなかったのになんでだろ。
公子『色葉、撮影始めるって。』
私たちは数枚の写真を撮って貰った。そういえば、この10年間分の思い出の写真は数える程しかない気がする・・・残りの人生で素敵な思い出を残さないと。
私『公子は、今日どうするの?』
公子『実家にあと一泊する。優も楽しんでるみたいだし。・・・佐村くんが車を取りにいってるから聞くけど、本当に佐村くんでいいの?』
私『え・・・もう、写真も撮っちゃったし・・・。』
公子『婚姻届けはまだなんでしょ?』
私『まだ・・・だけど・・・指輪も貰ったし・・・。』
公子『ははは(笑)うーん・・・『サムでいいの!!』って言って欲しかったんだけどなあ。』
私『サムでいいの・・・。』
恥ずかしいから言葉に詰まるのか・・・本心ではないから言葉に詰まるのか・・・指輪を貰ったとき、確かに人生で一番嬉しかったのに、本心ではないなんて、ありえない・・・ありえない・・・はず。
公子を実家に降ろして、またサムと二人きりになった。
佐村『・・・どうした?』
私『え!?い、いや、別に・・・。』
佐村『外ばかり見てたから、どうしたのかなって思っただけだ(笑)美知ちゃんに会わなくて良かったのか。』
私『うん・・・帰ったら、パーティーするんでしょ?そのときに呼ぼう。』
外ばかり見てたと言われたけど、景色じゃなくて、故郷の灯りを見てたんだ。多分、ゲームセンターや映画館がある通りの灯り。
佐村『帰り深夜になりそうだけど、なんか食う?』
私『そうだね・・・ははは(笑)な、なに食べようか?』
佐村『・・・なんで、泣いてるんだ?』
私『な、泣いてなんかないよ(笑)』
佐村『そうか?なら、いいんだけど。』
人見と比べちゃうのはいけないかもしれないけれど、鈍感なんだよね。私の言葉をそのまま鵜呑みにしちゃう。結婚してトラブルを持って帰って来なければいいけれど・・・ああ・・・どんどん心配になってくる。
後日、私は朝から人見に相談しようと、人見のアパート前に来ていた。サムには内緒。
ピンポーン
私『・・・あれ。』
ピンポーン
私『ん・・・。』
コンコン、コンコン
ガチャ・・・
私『あ、開いた・・・人見・・・。』
ちょっと誰よ!!この娘!!
人見『ふわああ・・・あん・・・なんだよ朝から・・・ぶわっ!!』
浮気!?浮気でしょ!?もう、帰る!!携帯番号消して!!
私『あちゃー・・・。』
ふんっ!!
私『痛っ・・・。』
わざと肩をぶつけられた。痛い。
私『ひ、人見・・・大丈夫?』
人見『大丈夫な訳あるかよ・・・ああ・・・久しぶりにいい娘だったのに・・・なんかよう?』
私『あ、あのさ・・・私たち、結婚することになったの・・・。』
人見『マジで?良かったじゃん(笑)な、更生して良かったろ(笑)俺は半分しか更生に手を貸せなかったけど。』
私『うん、感謝してるよ。でも・・・本当にサムと結婚して上手くやれるかな。それだけが心配で相談に来たの。』
人見『なんでまた俺に?』
私『一番、相談に乗ってくれそうだったから。』
人見『そうか。でも、それは佐村と話し合った方がいいんじゃないか?』
私『もうサムは結婚する気でいるの。私も指輪を貰ったし、サムの実家にもご挨拶に行ったし・・・なんか・・・既成事実を作られてるみたいで・・・ウエディングドレスの写真も撮っちゃったの。』
人見『・・・それはもう逃げられないんじゃないか。実家に行く前に話し合えただろ、なんで、そのときに、ここに来なかったんだよ。』
私『まだ、そのときは指輪を貰ったことが嬉しくて堪らなかったの。麻里からの手紙も入ってたし・・・。』
サムのことは大好きだけど、夫婦になっても、それを維持出来るかはわからない。だから不安なんだ。
人見『だから、俺と話してもな・・・佐村を連れてこいよ。』
私『私が悩んでると知ったら、サムが結婚を諦めちゃう。』
人見『・・・一体、何しに来たんだよ(笑)それじゃ、結婚しろとしか言えないじゃないか。』
私『そ、それはそうだけど・・・。』
人見『わかった。父親がいないから、背中を押して欲しいんだろ?』
私『そうかもね、お母さんもいなくなってしまったし・・・。』
そうか・・・私は父親の言葉が欲しかったんだ・・・やせ我慢のあの言葉・・・。
人見『行ってこい。辛くなったら・・・いつでも、帰ってこい。』
私『・・・はい。』
人見『・・・こんなんでいいか?フォークシンガーみてえだな(笑)あー痒い。』
私『そう、その言葉。辛くなったら戻ってこいって自分が寂しいだけだよね(笑)』
人見『そうそう。照れ隠しなんだよ、親父なりの。佐村のことで悩みがあったら、いつでも相談しに来いよ。あ、電話ぐらいは入れろよ。』
私『うん。ありがとう。お陰で決心がついたよ。私はサムと結婚する。』




