ご挨拶
こんな傷モノの私で良ければ・・・テーマパークで指輪を渡された私はサムと結婚することになってしまった。ルンルン気分も、車に乗って、夢の国を出ると急に現実に押し潰されそうになった。
私『結婚式とか、どうすんの・・・母さんも、もういないし、何より大勢の人が集まる場所も苦手だし・・・。』
佐村『両親が不在っていうのも居心地が悪いだろうから、俺の実家で食事会を開くだけで済まそうと思う。』
私『実家かあ・・・。』
佐村『あ、ウエディングドレスの写真くらいは撮るぞ!!』
私『ドレスなんてどうでもいい。私の場合は普通の生活に戻れるだけで、どれだけ幸せか・・・佐村のお母さんって厳しい人?』
佐村『俺は息子だから親父の方が厳しかったイメージがあるんだよ。お袋は音楽やることを許してくれたし、そんなに気負う必要はないと思うぞ(笑)』
私『はあ・・・気楽でいいよね・・・私のお父さんは行方不明だから『娘さんを僕にください!!』なんて言って土下座することを免れてラッキーと思ってるくせに・・・。』
佐村『・・・そうだ!!一度、電話で会話してみろよ。』
私『電話?面と向かっての自己紹介よりはマシかな。』
全然マシなもんか。胸がドキドキしてる。電話なら声も作らなきゃいけない。可愛い声でいくのか、おしとやかな声でいくのか、陽気な声でいくのか。初対面の人とは距離を取って話したいがために暗い声になってしまう私には荷が重そう・・・。
家に帰ってきた。
私『今日はありがとう。一生、この日を忘れないよ。』
サムは笑っていた。でも、翌日には現実的な話し合いをすることになる。
私『子供は何人だとか、家計の管理だとか、本当に今の時期に結婚していいのかということだとか・・・。』
佐村『金のことばっかりだな(笑)』
私『笑い事じゃないよ。私は失敗したくないの。母さんや公子みたいになりたくないの。』
佐村『安心しろって、お前のところや、柳田のところは男がしょうもないやつだったんだろ?その点、俺は・・・な、なんだよ、その疑いの目は。』
私『結婚してから失望したって公子が言ってたの・・・妊娠中の約束をことごとく破られたって。』
佐村『俺はお前を失望させるような男じゃない。だから、心配するなって。)
私『サム・・・。』
いや〜この時ばかりは騙されたね。私の不安を綺麗に吹き飛ばしてくれたね。この時ばかりは。
後日、電話でサムのご両親とお話をした。幸いなことに優しそうなお母さんで安心した。そして、予定通り、結婚式は開かずにサムのご両親と結婚祝いの食事会を開くことになった。
ガチャ・・・
佐村『ただいまー。』
民子『おかえりなさい。色葉さんも上がって。』
私『あ、はい。お邪魔します・・・。』
佐村『恐縮しなくていいって。な?』
民子『そうよ。お母様の不幸はヨシから聞いてるから。』
それが恐縮の原因だ!!
リビングに入ると、民子さんがお茶を用意してくれた。
佐村『親父は?今日は仕事休みだろ?』
民子『お父さんね、色葉さんに会うのが恥ずかしいって。だから、今、打ちっ放しに行ってる。晩ごはんには戻ってくるわよ(笑)』
民子さんはそう言いながら、晩ごはんの準備を始めるみたいだ。
私『あ、私も手伝います。』
民子『色葉さんはゆっくりしてて、今日の主役なんだから。』
主役・・・主演!?
よ、幼稚園のお遊戯会で桃太郎をやったとき荒れ狂う波の役だった私が主役!?
小学校の修学旅行の集合写真で運悪く目を瞑ってしまった私が主役!?
中学校の合唱コンクールの日、唯一の自慢だった歌声を響かせようとわくわくして、眠れなかったのが原因か、風邪を引いてしまった私が主役!?
佐村『高校のとき、帰宅部だったお前が主役だってよ(笑)』
私『ねー・・・でも、本当に手伝わなくて良かったのかな。』
佐村『いいんだって。俺が結婚するって言ったとき、お袋喜んでたぞ。娘が欲しかったみたいだから、嬉しいって。』
私『へー・・・。』
じゃあ、どういう顔をして接するのが吉なんだろう。お転婆な感じがいいのかな。でも、お嫁さんだよ。しっかりしたところを見せないと、意地悪されちゃうかも。
私『私、手伝ってくる。』
ガチャ・・・
佐村『あ・・・まあ、いいか。色葉が手伝った方が美味しくなりそうだし。』
民子さんはお鍋の材料を切っていた。
私『すいません、やっぱり手伝いたいです。』
民子『あら、ゆっくりしてていいのに。それじゃスープの味を見てちょうだい。』
私『は、はい。』
鍋は恐らく醤油ベースのスープで満たされていた。多くないか・・・?
私はスープを飲んでみた。
私『(う、薄っ!?なにこれ!?マズくはないけど、薄っ!?ぺっ!!ぺっ!!)』
民子『どう。』
私『お出汁は何ですか?』
民子『昆布よ。』
私『昆布なら・・・。』
私は『ちょっと薄いですね。』なーんて、言いながら、さりげなく色々加えてみた。サムの味覚が幼稚なのは、この人の仕業か・・・私の子供には味がわかる大人に育てなくちゃ。恥をかかせないように。
民子さんと台所に立っていると、玄関の扉が開いた。
民子『お父さんが帰ってきたみたい(笑)』
私『あ、吾郎さんですか。私と会うのが恥ずかしいって言うのは・・・?』
民子『元々、恥ずかしがり屋なんだけど、特に若い娘が苦手なの。それもヨシのお嫁さんときたら、恥ずかしくて堪らないんだと思う。』
ガチャ・・・
吾郎『あ・・・。』
私『は、初めまして、色葉です。この家に嫁がせてもらうことになりました。』
吾郎『・・・義一をよろしくお願いします。何せ不器用な息子ですから。』
吾郎さんはそう言い、部屋へと消えていった。不器用なのは自分じゃないか・・・?
お鍋の準備と簡単な料理を作り終え、それらを食卓に運び、結婚祝いの食事会が始まった。お酒が入ると吾郎さんは饒舌になるみたいだ。
吾郎『二人の馴れ初めは?』
私『あはは・・・ね。』
佐村『高校のときクラスは違ったけど同級生だったんだよ。俺が刺される少し前から気になりだして・・・。』
民子『1年間、看病してくれたんでしょ。ありがとうね。』
私『い、いえいえ、私も落ち込んでいたので、サ・・・義一さんに励まされました。』
これは、お世辞ではなく本音。傷ついた私の心を不器用にも癒してくれたんだ。
民子『色葉さんは今まで何かしてたの?』
あー・・・こんな時代だから私も聞かれるんだ・・・どうしよう・・・。
私『は、はは・・・い、色々、やってました・・・。』
佐村『バンドの手伝いをしてくれてたんだよ。な?』
私『・・・そ、そうなんです!!』
18歳から10年間の人生は、人に語ることが出来ないほど醜いものだったから、助け船を出してくれるサムがいると助かる。
食事会は無事に終了して、お風呂で今日の疲れを流させてもらうと、二階に新婚部屋が用意されていた。私は布団の上にダイブした。
私『あー、疲れた。』
佐村『疲れたか(笑)入籍届けは、いつにする?』
私『麻里や人見に知らせてからの方がいいよね。』
というか、麻里はともかく、人見には知らせておきたい。
私『お義母さんたちって、隣の部屋?』
佐村『ああ。』
私『そっか。電気消すよ。』
カチッ




