欠落した父性愛
1992年2月。少し前にバブルが崩壊したけれど、まだ実感はない。相変わらず男たちはお札をばら撒いてくれる。余ったお金の使い道は草。薬は試してみたけれど、自分には合わなかった。どちらにしても家宅捜索されたら御用だ。だから、口の軽そうな女友達には秘密だ。男友達には・・・。
ガチャ・・・
佐村『はあ・・・なんだよ、この散らかりようは・・・。』
人見『おい、白瀬。』
私『はあ〜い。』
人見『いつまで、こんな生活続けるつもりなんだ。』
私『生活できなくなるまで続けるよお〜ん。あはは(笑)』
佐村『結婚出来なくなるぞ。』
私『結婚?結婚なんてしても家に束縛されるだけじゃない。あっ、何すんの!?』
人見『稼ぎ方については何も言わない。ただ、稼いだ金をこんなモンのために使うのは違うんじゃないか。』
私『吸ったことがないから、わからないんでしょ。吸ってみる?あっ・・・もう・・・邪魔するだけなら帰ってよ。』
人見『このライター、部長からのプレゼントか(笑)』
私『う〜ん・・・いちいち覚えてないよ。それにしても、なんで定期的にアパートに来るのよ。』
人見『俺たちが来るのが嫌で、定期的に来んのがわかってんなら、鍵くらいかけとけよ(笑)』
私『・・・佐村?』
佐村『なんだよ。』
私『何しに来たの。』
佐村『なっ・・・。』
私『人見は積極的に話をしてくれるから、居てもいいけど。佐村は・・・ただ胡座かいてるだけじゃん。』
佐村『お前みたいな女を見ていると、いらいらするんだよ。お前といい、麻里といい、最近の女は・・・ぶつぶつ・・・。』
私『あーうるさい!!私は麻里と違って料理くらい出来るもん!!』
佐村は勝手に私のすっからかんの冷蔵庫を開けた。
佐村『・・・これで、よく料理上手なんて、大嘘言えるな。』
私『ちょ、人の冷蔵庫を勝手に開けるなんて馬っ鹿じゃないの!!』
佐村『馬鹿はお前だろ!!なんだよ、この部屋!!臭えし、足の踏み場もねえし、ヤバいモノも転がってるしよ!!』
人見『佐村、我慢しろって・・・。』
私『もう、帰って!!』
佐村『ああ、帰るよ!!本当に結婚出来ないぞ!!』
ガチャ!!
佐村が出て行った。勝手に来て、勝手にキレて出て行った。
人見『ははは・・・あいつも今、悩んでるんだよ・・・。』
私『そんなこと、私には関係ない!!あームカつく!!ぐわあがあああああぐわああ!!』
人見『料理の材料買いに行こうか。料理の腕前見せてくれよ。』
私『がああああ・・・え?』
人見が買い出しに付き合ってくれるらしい。私は久方ぶりに真昼の太陽を浴びた。
私『こんな時間に外なんか出てなかったから太陽が眩しいよ・・・。』
人見『腕、貸してやるよ。』
私『あ〜ナンパの手口でしょ(笑)』
人見『あれ、眩しいんじゃなかったのか(笑)』
人見といると楽しい。佐村なんかより全然楽しい。
ウィーン・・・
人見『何が得意なんだ?』
私『えーっとね・・・人見が食材を選んでくれたら、なんでも作ってあげるよ。』
人見『マジで?レタスだけでなんか作れるか?』
私『だけだと、サラダにもなんないよ(笑)』
私たちは適当な材料を揃えて自宅に戻った。今のはデートですか?ただの買い出しですか?
私『何を作ろうかな。』
人見『本当に草だけにしか手を出してないんだな。』
私『・・・。』
人見『出かける前は、聞き取れたけど呂律が回ってなかったぞ。テンションもおかしかったし。』
私『・・・草だけにしたいけど、売人に試してみろって言われて、試すことはあるよ。昨日も何なのかわからない錠剤を貰って飲んじゃった(笑)』
人見『いつかツケが回ってくるぞ・・・。』
私『若いうちはやりたいことやらなきゃ。自分もやりたいことやってるでしょ?』
人見『俺は合法の範囲内で好き勝手やってるんだ。煙草も・・・あ、俺が煙草やめたら、草もやめてくれるんだったな。』
私『そんなこと言った覚えないけど・・・。』
人見『おっ、忘れたのか?ヤバいな・・・脳が侵食されてるんじゃないのか。』
私『の、脳が!?』
人見『40代で物忘れとか・・・。』
私『やだ、やだ!!そんな中年になりたくない!!』
人見『なりたくないなら改善しようぜ。もう手遅れだったりして・・・。』
私『わああああ!!やめてえ!!』
人生の折り返し地点でボケてるなんて絶対にやだ!!でも、やめられないのが依存症・・・。
ガチャ!!
麻里『あ、歌詞が出来たんだけど、見て・・・。』
佐村『どうせ、薄っぺらい歌詞なんだろ。』
仲谷『そんな言い方ないよ。ボーカルが麻里だから、歌詞を書けって言ったのは自分じゃない。』
佐村『まず・・・なんで文字がカラフルなんだよ!!読む気なくすだろ!!』
麻里『じゃあ、読まなくていいよ。もう歌詞なんて書かない。』
ガチャ・・・
仲谷『あ、もう・・・みんな、売れる気あるの?』
佐村『売れる気がないなら、とっくに解散してるだろ。そっちも俺たちばかりに構ってたら損するぞ。』
仲谷『いや、ここまで、どうしようもないと逆に興味が湧いてくるよ。鈴木と人見は?』
佐村『鈴木さんはライブの日以外と曲が出来るまで休み。人見も同じだけど、今はどうしようもない女友達の家にいる。』
仲谷『どうしようもないって?』
どうしようもない女友達。その日暮らしで、部屋が散らかってて、パジャマのまま買い出しに行くような・・・。
私『ふわあ〜・・・食後なんだから昼寝させてよ。どうせ、また散らかるし。』
人見『下着とか落ちてるじゃないか・・・今、ノーブラ?』
私『見る?』
私は綺麗な谷間をチラつかせてみた。
人見『なんだ、着けてんのか。』
私『あ、ひどーい。寄せてるって思ってるでしょ。』
人見『豊胸?』
私『もっと、ひどーい。天然だよ。』
人見『本当に?』
私『私の処女を奪ったとき、『以外に大きいんだな』って言ってくれたじゃない。』
人見『そんなこと、覚えてねえよ(笑)』
私『うっわ、うっわ、ひどすぎる。私はずっと覚えてるよ、あの痛み。』
人見『どんな痛みだったんだ(笑)』
私『ズキズキ・・・かな?』
人見『今の生活を改善しないと、あの時のズキズキから離れていくだけだぞ。』
私『どういうこと?』
人見『言いたくないけど、女の体は消耗品なんだよ。だから、男親は息子より娘の方を心配するんだ。』
私『私、母子家庭・・・。』
人見『あ・・・で、でも、どこかにいるはずの、お前の親父が今の生活を知ったら・・・。』
私『お父さんがいたら、こんな生活してないよ!!くぅ・・・ああ、もう!!』
ガシャーン!!
お皿を割った。それを無言で人見が片付けた。私は頭が痛くなってきて、独り言をつぶやき続ける。
私『うう・・・お父さん・・・私のお父さんはどこ・・・私の・・・。』
人見『欠落しているのは父性愛か・・・。』




