警備員さん
一日中ドライブをした私たちは、海岸沿いに停めた車の中で眠ることにした。まるで、彼氏が初めて車を買って、車なんか興味はないけれど、それに彼女が付き添っているみたい。
私『こんなはずじゃなかったよね。』
佐村『でも、楽しかっただろ?』
私『うん・・・ねえ・・・。』
シートバックを倒して、見つめ合う二人は夫婦というより、恋人みたいだった。でも、中身はやっぱり夫婦。
佐村『考え過ぎてもいけないんだな・・・愛があれば自然に子供を授かれるんだ。』
私『まったく考えないのもいけないよ・・・もう一人授かれば、自分の立場が危うくなると思ったんでしょ。大丈夫、それも愛で解決できるから。』
佐村『色葉・・・。』
私『今夜は長く・・・長く・・・昔みたいに・・・。』
コンコン・・・
ん?
警備員『ちょっと、お二人さん。』
佐村『はい?』
警備員『服脱いだら、公然わいせつだから。』
はあ・・・ドラマみたいにはいかないか・・・警備員さんも大目に見てよ・・・窮屈な現代だなあ・・・。
佐村『明日は宿に泊まろう。』
私『しょうがないね。おやすみ。』
ロマンティックは止まっちゃった。久しぶりにドキドキしたのに。少女に戻ってみたのに・・・。
チリリリリリリリ!!
カチ
バサッ!!シャーッ!!
母『色葉!!』
私『なーに・・・。』
カレンダーを見ると日曜日だった。
母『今日は用事があるから起こしてって言ったのは色葉じゃない。早く歯を磨いて、顔を洗って、朝ごはん食べて、服を着替えなさい。』
私は母の言う通りにした。今日は何かあったっけ・・・誰かと約束?
ピンポーン
母『ほら、もたもたしてるから・・・。』
母はパジャマ姿の私を外に出した。そして、家の鍵を閉めた。
私『ちょ、ちょっと!?なんで鍵まで閉めたのよ!!パジャマ姿なのに・・・。』
理不尽な扱い・・・私は悟った。こいつは夢だな。
佐村『よっ。』
私『あ・・・おはよう。なにか、約束してたっけ?』
佐村『今日はお袋さんにご挨拶に行くって言ってたじゃないか。』
私『でも、鍵をかけられちゃった。』
鍵をかけられちゃった・・・鍵をかけられちゃった・・・鍵をかけられちゃった・・・。
私『あ。』
現実に戻った。もし、母さんが健在だったらサムとの結婚は許してくれたのだろうか・・・。
ガチャ・・・
潮風が気持ちいい。私のための休暇だけど、サムより早く起きちゃった。あの警備員さえいなければ・・・って、まだいるよ。ちょっとトイレに行こうかな。
私『すいませーん!!』
警備員『どうしました?』
私『お手洗いはどこ・・・あ・・・ああーっ!!』
夜は暗くて見えなかったけれども、朝になって改めて警備員の顔を見ると・・・
私『もしかしたら、室伏くん?』
室伏『ん・・・白瀬?』
私『びっくりしたよ!!』
室伏『こ、こっちもびっくりしたよ・・・謝ってすむような問題じゃないけれど、あのときは本当にすまなかった・・・怖かったろ?』
私『もっと怖いことに巻き込まれまくった人生だから、気にしてないよ。少年院を出てからは・・・?』
室伏『色々やったな・・・法に触れるようなことはしていないけど、親にも勘当されて生きるために仕事を転々としたよ。』
私『人見のことは知ってるよね。』
室伏『ああ・・・早すぎるよな・・・一緒につるんで悪さをした相棒に先立たれるなんて、思いもしなかった。』
私『そうだね・・・結婚はしてないよね。』
室伏『俺は結婚出来るような人間じゃないしな・・・。』
私『いい人を紹介してあげるよ。』
室伏『俺の収入じゃ、子供を育てられない。』
私『使い道がないから、貯金をたっぷり溜め込んでる人がいるのよ・・・麻里。もしも結ばれたら美男美女カップルだよ(笑)』
私は室伏に麻里の番号を教えた。室伏が私の全身を見てる。なんでだろ。
室伏『しっかし、ダサいな、その服(笑)』
そういえば、そうだった・・・室伏と別れた私はトイレに行くのを諦めて、車の中で着替えることにした。
ガチャ・・・
プカプカ〜
私『・・・外で吸ってよ。』
佐村『灰皿を探し回るのが面倒なんだよ。』
私『そうですか。タイムスリップは終わり。私、着替えるから、窓を隠してくれないかな。』
佐村『結局、外に追い出されるのか・・・。』
サムは渋々出て行った。煙草のせいだと気づかないのか。数分後、着替えが終わったことをサムに知らせるために窓を叩いた。
私『サムは着替えないの?』
佐村『腕捲りを普通に直して、シャツインをやめれば、おかしくないだろ?』
私『・・・腕捲りはやめないで。』
佐村『なんで?』
ギターやってるから自然に付いた、二の腕の筋肉が好きなのだ。更にライブの為に自主的に鍛えてもいるから、やっぱり好きなのだ。その二の腕をつんつんとするとわかってくれた。
プルルルル・・・プルルルル・・・
私『麻里だ。朝早くから、どうしたんだろ。』
ピッ
麻里『何、勝手に人の携帯番号を教えてんのよ!!今日、暇だから説教しにいくからね!!』
私『ざーんねんでした。私たち、休暇中なの。』
麻里『休暇中・・・んなこたあ、どうでもいいんだよ!!どこで、室伏に会えたの!?』
私『実家に帰ってきてるんだけど、海岸沿いの駐車場で警備員してたよ。』
麻里『へえ・・・スケジュールは・・・よ、よし。』
ピッ
麻里も焦ってるんだね。室伏のことで聞きたいことはある気がするけど。
佐村『麻里はどうしたんだ?』
私『内緒。そんなことよりも、はやく旅館を探そうよ。』
はやく離れないと、麻里がやってきて、夫婦水入らずの時間を邪魔されちゃう。最近、麻里は行動力MAXだから、きっと既に電車の中だろう・・・ごめん、言い過ぎた。




