第8話 小さな一歩
「おい、まだやっているのか?」
作業場の隅で粘土をいじっていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
顔を上げると、そこにはガルドが立っていた。
「はい。昨日の実験で、いくつか分かったことがあったので」
「ほう。どんなことだ?」
「焼く前に、もっとしっかり乾燥させた方がいいみたいです。それと、急に火を強くするのも良くないのかもしれません」
俺は昨日の試作品を見せた。
いくつかはひび割れていたが、一つだけは比較的きれいな形を保っている。
「なるほどな。確かに、乾燥が足りなければ割れることもあるだろう」
「なので、今回は乾燥時間を変えて試してみようと思います」
「……それなら、少し手伝ってやる」
「え?」
「勘違いするなよ。お前の考えが正しいと決まったわけじゃない。ただ、試すだけなら悪くないと思ったんだ」
そう言いながら、ガルドは近くにあった木の板を手に取った。
「これを使え。粘土を乾かすなら、地面に直接置くよりいいだろう」
「ありがとうございます!」
昨日までなら、こんなふうに手を貸してくれることはなかっただろう。
小さな変化だが、確かな前進だ。
⸻
俺たちは、粘土をいくつかに分けて乾燥させることにした。
一つは短い時間。
もう一つは、それより長い時間。
残りは、さらに長く乾燥させる。
「これで違いが分かるはずです」
「同じ粘土なのに、そんなに変わるものか?」
「実際に比べてみれば分かりますよ」
乾燥が終わると、前回と同じように火を使って焼いていく。
今回はガルドにも協力してもらい、火の様子を確認しながら慎重に進めた。
そして、しばらくして。
「よし、取り出してみるか」
ガルドが試作品を一つずつ取り出した。
短い時間しか乾燥させなかったものは、やはりひび割れている。
一方、長く乾燥させたものは、比較的きれいな形を保っていた。
「おお……」
ガルドが思わず声を漏らした。
「乾燥時間で、これだけ違うのか」
「はい。少なくとも、今回の実験ではそうなりました」
俺は試作品を手に取った。
前回よりも硬く、簡単には崩れない。
まだ実用品として使えるかは分からないが、確実に前進している。
「やりましたね!」
「まだ成功とは言えんぞ」
ガルドはそう言いながらも、どこか嬉しそうだった。
「だが、昨日よりはずっといい。お前の言っていたことも、少しは分かってきた」
その言葉を聞いて、俺は自然と笑みを浮かべた。
⸻
その後、俺たちは試作品を作業場に置いておくことにした。
すると、近くで作業していた村人が興味深そうに近づいてきた。
「それは何だ?」
「粘土を焼いて作ったものです」
「へえ。こんなものが作れるのか」
「まだ試作品ですけどね」
村人は試作品を手に取り、軽く叩いてみた。
「確かに、普通の土とは違うな」
「焼き方を工夫すれば、もっと丈夫にできるかもしれません」
「そいつは面白いな」
そう言って、村人は作業に戻っていった。
大した反応ではない。
けれど、昨日までは誰も興味を示さなかったものに、少しずつ目を向けてもらえるようになった。
それだけでも十分な成果だ。
「なあ」
ガルドが声をかけてきた。
「次はどうするつもりだ?」
「もう少し焼き方を調べたいです。その後、小さな窯を作れないか考えようと思っています」
「そうか。なら、窯に使えそうな石がないか、俺も探しておいてやる」
「本当ですか?」
「ああ。ここまでやったんだ。途中で投げ出すのももったいないからな」
俺は思わず頭を下げた。
「ありがとうございます」
ガルドは少し照れくさそうに視線を逸らした。
「礼なんかいらん。まだ成功したわけじゃないんだからな」
そう言いながらも、その表情は昨日よりずっと柔らかかった。
俺は改めて試作品を見つめる。
一歩ずつでいい。
ドパガキには辛いが、小さな成果を積み重ねて、少しずつ協力してくれる人を増やしていく。
それが、今の俺にできる最善の方法だ。
「さて、次は何を試そうかな」
村を変えるための道のりは、まだ始まったばかりだった。




