第9話 広がる信頼
「おい、ちょっと来てくれ」
作業場で粘土の試作品を確認していると、ガルドに声をかけられた。
「どうしました?」
「紹介したい奴がいる」
「紹介?」
「ああ。お前の考えを聞いてみたいという奴がいてな」
そう言うと、ガルドは作業場の外へ歩き出した。
俺も慌てて後を追う。
連れてこられたのは、村の中央にある広場だった。
そこには、一人の中年男性が立っていた。
「こいつが例の子供か?」
「ああ。最近、俺の作業を手伝ってもらっている」
「へえ……」
男性は俺を上から下まで眺めた。
「俺はバルド。村で畑を管理している」
「よろしくお願いします」
「それで、ガルドから聞いたんだが、お前は色々と無駄を減らす方法を考えているそうだな」
「はい。まだ大したことはできていませんけど」
「そうか。なら、一つ相談したいことがある」
バルドは少し困ったような表情を浮かべた。
「最近、畑の仕事がどうにも進まなくてな。特に収穫の時期になると、人手が足りなくなるんだ」
「人手不足ですか?」
「ああ。作物を収穫する奴、運ぶ奴、保管する奴。全部同じ人間がやっているから、どうしても時間がかかる」
なるほど。
以前、俺が提案した作業の分担と似た問題だ。
「一度、畑を見せてもらえませんか?」
「構わんぞ」
────────
バルドに案内され、俺は村の畑へ向かった。
そこでは数人の村人が作業をしていた。
一人が作物を収穫し、ある程度集まると、それを抱えて少し離れた場所まで運んでいる。
そして、運び終えると、また収穫場所へ戻っていく。
「……なるほど」
「何か分かったか?」
「少し気になることがあります」
俺は作業している村人たちを見ながら説明した。
「収穫した作物を運ぶたびに、作業が中断されていますよね?」
「そうだな」
「それなら、収穫する人と運ぶ人を分けてみませんか?」
「分ける?」
「はい。収穫する人は収穫だけを続けて、運ぶ人がまとめて運ぶんです」
俺は地面に簡単な図を描いた。
「例えば、三人で作業するなら、一人が運搬を担当して、残り二人が収穫を続ける。そうすれば、収穫する人が何度も作業を中断する必要がなくなります」
バルドは図を眺めた。
「確かに、理屈は分かる。だが、運ぶ役を一人にして、本当に間に合うのか?」
「そこは実際に試してみましょう」
「また実験か」
ガルドが横から口を挟んだ。
「実験が一番確実ですから」
俺が答えると、ガルドは小さく笑った。
「まあ、そうだな」
バルドは少し考えた後、頷いた。
「よし。一度やってみよう」
────────
それから俺たちは、畑の一角で作業方法を変えてみた。
最初は、運搬役の男が忙しそうに動き回っていた。
収穫する二人は、作業を止めることなく手を動かしている。
しばらくすると、運搬役が作物をまとめて保管場所へ運んだ。
「どうだ?」
バルドが尋ねる。
「まだ判断するには早いです。もう少し続けてみましょう」
俺たちはしばらく作業を観察した。
やがて、作業を終えた村人たちが集まってくる。
「いつもより、収穫が進んでいる気がするな」
「運ぶ回数が減ったからじゃないか?」
そんな声が聞こえてきた。
もちろん、今回だけで完全に効果を判断することはできない。
作物の量や畑の状態によっても結果は変わる。
それでも、作業の中断が減ったことは確かだった。
「なるほどな……」
バルドは腕を組み、畑を見渡した。
「こういう方法もあるのか」
「はい。ただ、人数や作業量によって、一番いい分担は変わると思います」
「そうか。なら、次は人数を変えて試してみるのもよさそうだな」
俺は頷いた。
すると、バルドがこちらを向いた。
「ありがとう。助かったよ」
「いえ。こちらこそ、試させてもらえてよかったです」
その言葉を聞いたガルドが、少し得意げに口を開いた。
「だろう? こいつは、思ったより面白いことを考えるんだ」
「お前がそんなことを言うとはな」
「うるさい」
二人のやり取りに、俺は思わず笑ってしまった。
────────
帰り道。
ガルドが俺の隣を歩きながら口を開いた。
「お前、最初に会ったときより随分と印象が変わったな」
「そうですか?」
「ああ。最初は、ただ口だけの子供かと思っていた」
「ひどいですね」
「実際、そう見えたんだから仕方ないだろ」
ガルドは笑った。
「だが、今は違う。少なくとも、お前の考えを聞いてみる価値はあると思っている」
「ありがとうございます」
「勘違いするなよ。まだ全部を信用したわけじゃない」
「分かっています」
俺はそう答えた。
それで十分だった。
最初は話を聞いてもらうことすら難しかった。
それが今では、村人の方から相談を持ちかけてくれるようになった。
小さな変化だ。
けれど、俺にとっては大きな一歩だった。
俺は村の景色を眺めながら考える。
この村には、まだまだ無駄がある。
そして、それを変えるための協力者も、少しずつ増えてきている。
「うん。悪く無いな」
そうして、俺は少しの満足感で満たされながら、再び、この村の改革のために、頭を働かせ始めた。




