第7話 初めての壁、それは信頼
「窯を作りたい?」
翌朝、俺がそう切り出すと、ガルドは眉をひそめた。
「昨日見つけた粘土を使うためです。うまくいけば、レンガや壺を作れるようになります」
「話は分かった。だが、窯を作るには材料がいる。場所も必要だ。それに、失敗したときのことは考えているのか?」
「もちろんです。だから、最初は小さなものを作ろうと思っています」
「小さくても、作る手間はかかるんだぞ」
ガルドの言うことはもっともだった。
窯を作るには、石や土、燃料が必要になる。
それらを集めるだけでも、村人の手を借りなければならない。
ただでさえ、今の村は人手に余裕がない。
「そもそも、今まで誰も成功していないんだ。お前の思いつきに、村の貴重な時間を使うわけにはいかん」
「……」
正論だ。
いくら効率的な方法を思いついたところで、実現できなければ意味がない。
そして、相手に納得してもらえなければ、そもそも始めることすらできない。
「分かりました。では、まず実験だけさせてください」
「実験?」
「窯を作る前に、粘土を焼いてみたいんです。失敗しても、使うのは少量の粘土と薪だけで済みます」
「それで何が分かる?」
「どのくらいの温度で焼けばいいのか。それと、焼いた後にどれくらい硬くなるのかです」
ガルドはしばらく俺を見つめていた。
「……まあ、それくらいならいいだろう。だが、薪を無駄にするなよ」
「ありがとうございます!」
まずは小さく試す。
いきなり大きな設備を作るより、失敗したときの損失を小さくした方がいい。
これも効率を考える上では重要なことだ。
⸻
その日の午後。
俺はガルドと一緒に、村の空き地へ向かった。
持ってきた粘土を小さく丸め、いくつかの形に整える。
「何を作っているんだ?」
「焼き比べをするための試作品です」
「焼き比べ?」
「同じ粘土でも、乾燥の具合や焼き方によって結果が変わるかもしれません。だから、いくつか条件を変えて試します」
「なるほどな」
ガルドは興味深そうに試作品を眺めた。
俺たちは乾燥させた粘土を、薪の上や火の近くなど、異なる場所に置いて焼いてみることにした。
しばらくして火が落ち着くと、試作品を取り出す。
結果は――。
「……割れてるな」
「はい」
いくつかは大きくひび割れ、形を保っているものも、少し触れただけで崩れてしまった。
期待していたほどの成果はない。
「やっぱり、簡単にはいかないか」
ガルドが肩をすくめた。
「ですが、全部が失敗というわけではありません」
「どういうことだ?」
俺は比較的形を保っていた試作品を手に取った。
「これだけは、ほかより硬くなっています。少なくとも、焼き方によって結果が変わることは分かりました」
「確かに……」
「次は乾燥の時間や焼く場所を変えてみましょう」
一度で成功させる必要はない。
何が原因で失敗したのかを調べ、少しずつ条件を変えていけばいい。
ただし、ここで一つ問題がある。
「ガルドさん。もう一度、試してもいいですか?」
「構わんが、薪はどうする?」
「……」
そうだった。
薪も無限にあるわけではない。
実験を繰り返すほど、村の生活に必要な燃料を消費してしまう。
「薪を無駄にしない方法を考えないといけませんね」
「だから言っただろう。簡単じゃないんだ」
ガルドは苦笑した。
俺は試作品を見つめながら考える。
材料も、技術も、燃料も足りない。
それでも、今回の実験で分かったことはある。
少なくとも、何も考えずに窯を作るよりは前進している。
「……次は、薪の使い方から改善しましょう」
「まだやるのか?」
「当然です。ここで諦めたら、今までの実験が無駄になりますから」
俺は立ち上がった。
効率を求めるなら、失敗も無駄にしてはいけない。
失敗した理由を見つけて、次に活かす。
それを繰り返せば、いつか必ず答えにたどり着けるはずだ。
……もっとも。
「まずは、薪を節約する方法を考えないとな」
どうやら、まだまだ先は長そうだった。




