第5話 無いなら作ればいい
「困ったことになったぞ……」
村長の家を訪ねると、彼は頭を抱えていた。
「どうしたんですか?」
「隣町からの物資が届かなくなった」
「物資?」
「ああ。塩や鉄製品、それに農具の材料などだ。普段は商人が定期的に運んできてくれるのだが、ここしばらく姿を見せていない」
なるほど。
俺は少し考えた。
「どうして届かなくなったんですか?」
「森の魔物が増えて、商人たちが道を通れなくなったらしい」
「それって、いつ解決するんですか?」
「分からん。冒険者に依頼するにも金が必要だし、王都に助けを求めても、すぐに対応してもらえるとは限らん」
村長は深いため息をついた。
「このままでは、村の生活にも影響が出るだろう」
「……ふむ」
俺は腕を組んだ。
つまり、この村は外部からの物資に依存している。
そして、その供給が止まった途端に困ってしまう。
「村長。一つ聞いてもいいですか?」
「何だね?」
「今、村にある物資はどれくらいですか?」
「そうだな……。塩はしばらく持つだろうが、鉄製品は厳しい。農具が壊れれば、修理することも難しくなる」
「じゃあ、まずは何が必要なのか整理しましょう」
「整理?」
「はい。何がどれくらい残っていて、何が不足しているのか。それを把握しないと、対策の立てようがありません」
俺は紙とペンを用意してもらった。
そして、村長から聞いた情報を一つずつ書き出していく。
食料。
塩。
鉄製品。
木材。
布。
薬。
必要なものと、村で生産できるもの。
それぞれを分けていく。
「……こうして見ると、意外と何とかなるものもありますね」
「そうなのか?」
「ええ。例えば、木材や食料は村で生産できます。布も材料さえあれば作れるでしょう」
「だが、鉄や塩はどうにもならん」
「そこは外部から調達する必要がありますね」
俺は紙に書き込みながら考えた。
全部を自給自足する必要はない。
自分たちで作れるものは作る。
作れないものは外から手に入れる。
そして、限られた物資は無駄なく使う。
それだけでも、状況は大きく変わるはずだ。
「村長。この村に、使われていない建物はありますか?」
「使われていない建物?」
「はい。倉庫でも、空き家でも構いません」
「それなら、村の北側に古い倉庫があるが……」
「そこを使わせてもらえませんか?」
「何に使うつもりだ?」
「物資の管理場所です」
俺は簡単に説明した。
今までは、各家庭がそれぞれ物資を保管していた。
そのため、村全体で何がどれだけ残っているのか把握できていない。
ならば、共同で管理する物資を決め、必要に応じて分配できる仕組みを作ればいい。
もちろん、何もかも一か所に集める必要はない。
各家庭で保管するものと、村全体で管理するものを分けるのだ。
「そんなことをして、本当にうまくいくのか?」
「少なくとも、今よりは状況を把握しやすくなるはずです」
村長はしばらく考え込んでいた。
やがて、ゆっくりと頷く。
「……分かった。試してみよう」
こうして、俺たちは村の北側にある古い倉庫を整理することになった。
埃を払い、棚を作り、物資を分類する。
そして、何がどれだけあるのかを記録していった。
作業を終える頃には、村人たちも少しずつ協力してくれるようになっていた。
「おお、これなら分かりやすいな」
「今まで、こんなに物が残っていたのか!」
「こっちの道具は修理すればまだ使えるぞ!」
思っていた以上に、無駄になっていた物資が多かったらしい。
使えるものを捨てていたわけではない。
ただ、どこに何があるのか分からず、必要なときに見つけられなかったのだ。
……もったいない。
「村長」
「何だね?」
「これからは、物資の出入りも記録しましょう」
「記録か?」
「はい。何を、誰が、どれくらい使ったのか。最低限それだけでも分かれば、無駄遣いを減らせます」
「なるほど……」
村長は感心したように頷いた。
だが、俺はまだ満足していなかった。
物資を整理したところで、供給が止まっている問題は解決していない。
それに、今後も同じようなことが起きる可能性はある。
「……やっぱり、根本から変える必要があるな」
「何か言ったか?」
「いえ。ちょっと考え事です」
俺は窓の外を見た。
この村には、まだまだ足りないものが多い。
技術も、設備も、仕組みも。
けれど、逆に考えれば、伸びしろだらけということだ。
「村長。今度、村の周辺を案内してもらえませんか?」
「周辺を?」
「ええ。使えそうな資源がないか調べたいんです」
「資源……?」
「この村だけで作れるものを、もっと増やしたいんですよ」
村長は驚いたように目を見開いた。
そして、少しだけ笑った。
「君は、本当に先のことばかり考えているな」
「当然です」
目の前の問題を解決するだけでは、また同じ問題が起きる。
だったら、問題そのものが起きにくい仕組みを作ればいい。
それが一番効率的だ。
「さて、次は何が見つかるかな」
俺はそう呟きながら、村の地図を広げた。




