第3話 非効率を変えただけですよ
「……間に合わない?」
村長の言葉に、俺は首を傾げた。
「何がですか?」
「収穫だよ。今のままでは、冬が来る前にすべての作物を収穫することができない」
村長は深刻そうな顔で畑を見つめていた。
話を聞くと、この村では毎年、収穫の時期になると人手が足りなくなるらしい。
村人総出で作業をしているものの、それでも間に合わないことがあるという。
「人手を増やすことはできないんですか?」
「難しいな。他の村も同じような状況だから、手伝いを頼むこともできん」
「なるほど……」
俺は畑を見渡した。
そこでは村人たちが、一生懸命に作業をしていた。
一人が作物を収穫し、別の一人がそれを運ぶ。
そして、運び終えた人間が再び畑に戻る。
……ふむ。
これは、かなり無駄が多い。
「村長。少し質問してもいいですか?」
「何だね?」
「今、収穫した作物って、どこに運んでいるんですか?」
「村の倉庫だが」
「じゃあ、運ぶ場所を一か所に決める必要はありますか?」
「……どういう意味だ?」
「例えば、畑の近くに一時的な置き場を作るんです。そこに作物を集めて、まとめて倉庫に運べばいい」
「しかし、それでは余計に手間が増えるのでは?」
「逆ですよ」
俺は畑の端を指さした。
「今は収穫する人が、毎回倉庫まで運んでいますよね?」
「そうだな」
「その間、収穫する人は作業を止めています。だったら、収穫する人と運ぶ人を分けた方がいい」
村長は黙り込んだ。
「収穫する人は収穫だけ。運ぶ人は運ぶだけ。作業を分担するんです」
「……そんなことで変わるものなのか?」
「やってみれば分かります」
俺は村人たちを集め、簡単な作業の分担を提案した。
収穫する人。
集める人。
運ぶ人。
それぞれの役割を決め、作物を一時的に集める場所も用意する。
さらに、昨日作った荷車も使うことにした。
最初は戸惑っていた村人たちだったが、村長の許可もあり、ひとまず試してみることになった。
そして――
「お、おい! もうこんなに終わったぞ!」
一人の村人が声を上げた。
それまでよりも、明らかに作業が早く進んでいる。
収穫する人間が運搬のために手を止めることもなくなり、荷車によって運搬の負担も減った。
もちろん、すべてが順調というわけではない。
作物を集める場所が狭くなったり、運ぶ順番が重なったりもした。
だが、そのたびに配置を変え、問題を一つずつ解決していった。
「すごい……」
村長が呟いた。
「まだ終わってませんよ」
俺は畑を見ながら答える。
「ここからが本番です」
作業を始めてから数時間。
村人たちの表情は、朝とはまるで違っていた。
疲れていないわけではない。
それでも、先ほどまでのような焦りはない。
そして何より、収穫の進み具合が明らかに違っていた。
「君は一体、どうしてこんなことを思いついたんだ?」
村長が尋ねてきた。
俺は少し考えてから答えた。
「別に、大したことじゃありませんよ」
「大したことではない?」
「だって、今までのやり方が非効率だっただけですから」
俺にとっては当たり前のことだった。
わざわざ一人で全部やる必要はない。
同じ作業を何度も繰り返す必要もない。
仕組みを変えれば、もっと楽に、もっと早くできる。
それだけの話だ。
「努力するのはいいことだと思いますよ。でも、努力しなくても済む方法があるなら、そっちを選ぶべきです」
村長は何も言わなかった。
ただ、目の前で作業を続ける村人たちを見つめていた。
やがて、彼はゆっくりと口を開いた。
「……君は、この村を変えてしまうかもしれんな」
「そうですか?」
「ああ。少なくとも、私たちは今まで、こんな方法を考えもしなかった」
俺は笑った。
変える。
いい響きだ。
この世界には、まだまだ無駄がある。
改善できることも、便利にできることも、山ほどあるはずだ。
そして、それを一つずつ解決していく。
考えただけで、胸が躍った。
「村長」
「何だね?」
「次は、もっと大きなことをやりませんか?」
「もっと大きなこと?」
「ええ。この村、まだまだ発展できますよ」
俺は村の向こうに広がる土地を眺めた。
この世界の常識なんて知らない。
そんなものは、必要になったら覚えればいい。
俺が求めるのは、ただ一つ。
最小限の労力で、最大限の成果を得ることだけだ。




