第2話 神獣様、王宮へ
王宮へ招かれたエレナとロブ。普段通りのロブに対し、王宮の人々の反応は?
王宮へ向かう馬車の中、エレナは落ち着かなかった。
柔らかい座席と足元には毛足の長い絨毯。窓には薄いレースのような布がかかり、外の強い日差しをやわらげている。
私が日本で乗ったことのある一番豪華な乗り物は、仕事で一度だけ使ったリムジンだった。
後部座席が本革だっただけで緊張したのに、今は国王陛下が用意した馬車に乗っている。
「……馬車って思ったより揺れないね」
膝の上で眠そうにしているロブへ問いかける。
ロブは片目だけ開けた。
「わん」
「王宮って、みんなドレスとか着てるのかな。まあ、今さら考えても仕方ないか」
私が着ているのは、ルークが持ってきてくれた淡い青色のワンピースだった。
昨日まで着ていたスーツよりはずっと着心地がいい。
今の私は洋服を買うお金もない。宿代もルークが貸してくれた。不安しかない。
でも、私の不安をよそにロブはいつもどおりだった。
朝は宿でもらった干し肉を食べ、馬車の中を一通り確認し、私の膝が一番安心だと結論づけたらしい。
今は大きな耳をぺたりと寝かせて、私の腕に顎を乗せている。
「ロブはいいよね。どこへ行っても、ロブだもんね」
「わふ」
「ロブといると安心するよ」
外から、馬の蹄の音が規則正しく聞こえる。
馬車の前後には、十人ほどの騎士がついていた。
昨日、街を救った――正確には、ロブがブラックドラゴンを助けた――神獣を王宮へ連れていくための護衛らしい。
騎士たちは何故かみんな、ものすごく緊張していた。
最初に馬車へ乗り込むときも、私に手を貸してくれた若い騎士は、ロブを見た瞬間に背筋をぴんと伸ばした。
「し、神獣様、段差にお気をつけください!」
「ロブは犬なので、段差はむしろ好きですよ」
「そ、そうでございますか!」
「でも足が短いので、高すぎると危ないです」
「た、ただちに台を!」
「いや、抱っこするので大丈夫です」
そのあとも大変だった。
馬車の中に水皿が置かれていたので、私は「ありがとうございます」と言った。しかし騎士たちはなぜか一斉に頭を下げた。
「神獣様のお水は、王宮の泉から汲んだものを用意いたしました!」
「ロブは水道水でも飲みます」
私としては、ロブが喉を潤せればそれでいい。
けれど、この世界の人たちにとって、ロブはただの小さな犬ではないらしい。
神獣。
三百年ぶりに現れたという、伝説の存在。
それを理解しようとしても、ロブが私の膝の上であくびをしていると、どうしても現実味がなくなる。
「ねえ、ロブ。神獣様って呼ばれるの、嫌じゃない?」
ロブは、あくびの途中で口を閉じた。
そして私の指をぺろりと舐める。
「……よくわからない、って顔だね」
たぶんロブは、自分が神獣だなんて考えたこともないだろう。
おやつが好きで、私が好きで、気になる匂いがあれば確かめて、怖いものがあれば私のそばに隠れる。ただそれだけの、私のロブだ。
馬車が小さく揺れた。
ロブが急に身を起こす。
「どうしたの?」
ロブは窓のほうへ移動した。
ついさっきまで半分眠っていたのに、急に耳をぴんと立てている。前足を窓枠にかけ、外をじっと見つめた。
その瞬間だった。
馬車の外で、馬がいななく。
「止まれ!」
誰かの鋭い声がした。
車輪がきしみ、馬車がゆっくりと止まる。
「えっ、何?」
私はロブを抱き上げた。
ロブは窓の外を見たまま、尻尾を静かに揺らしている。
扉の外から、かすかに緊張した声が聞こえた。
「ルーク団長! 神獣様が窓から顔を出していらっしゃいます!」
「何かお気に召さないことでも……!?」
「騒ぐな。刺激するな」
「ですが、もし神獣様がご機嫌を損ねておられたら……!」
私は思わず、馬車の窓を開けた。
外では騎士たちが、敵襲でもあったかのように周囲を警戒していた。
先頭にいたルークが、馬上からこちらを見る。
「エレナ。ロブはどうした?」
「ただ外を見てるだけです」
「……それだけか?」
「たぶん」
「たぶん?」
「ほら、犬って窓から外を見るのが好きなんです。風の匂いとか、知らない景色とか」
ロブは私の腕から少し身を乗り出し、風に耳の毛をなびかせている。
それを見た騎士たちは、固まった。
「神獣様は……外の景色を楽しまれている?」
「たぶんそうです」
「なんと深遠なお心……!」
「いや、普通の犬でもやりますよ」
「普通の犬……」
騎士たちが一斉にロブを見る。
ロブは、街道脇に咲く黄色い花を見つけたらしく、鼻をひくひくさせていた。
ルークはしばらく沈黙してから、片手を上げた。
「進め。神獣様は問題ない」
「はっ!」
馬車が再び動き出す。
私は窓を閉めながら、小さくため息をついた。
「ロブ、あんまりみんなを驚かせないでね」
「わん」
返事は軽い。絶対にわかっていない。
でも、それでいい。
ロブが周りの顔色をうかがうようになったら、私はきっと悲しい。
◇
馬車は王宮に近づくにつれ、ゆっくりと速度を落とした。
窓の外には、昨日遠くから見た城壁が大きく迫っていた。白い石を積み上げた高い壁。壁の上には見張り台があり、青と金の旗が風に翻っている。
門を通り抜けると、王都のにぎわいが一気に押し寄せてきた。
石畳の大通り。果物や布を売る露店。魔法の灯りが並ぶ店先。空を飛ぶ小さな鳥のような魔獣。魔術師らしいローブ姿の人も、剣を腰に下げた冒険者らしい人もいる。
日本で暮らしていた頃なら、こんな光景は映画のセットだと思っただろう。
でも、馬車の窓に映った私の顔も、膝の上にいるロブの温かさも、全部現実だった。
「すごいね、ロブ」
「わん」
ロブは興味津々で窓の外を見ている。
しかし、通りを歩く人たちは馬車を見つけると、次々に道を空けた。
騎士団の紋章を見たからではない。
馬車の窓から見えるロブに気づいたからだ。
「神獣様だ……!」
「本当に、犬のお姿をしていらっしゃる」
「昨日、ブラックドラゴンを鎮めたという」
「王宮へ入られるのか」
昨日の一件はすでに王都にも伝わっているらしい。
ささやき声が聞こえるたび、ロブの耳がぴくりと動く。
私はロブの背中を撫でた。
「気にしなくていいよ」
ロブは私を見上げた。
「みんな、ロブのことを知らないだけだから」
本当は、私も知らない。
ロブの中にどんな力があるのか。これから何が起きるのか。神獣という存在がこの国にとって何を意味するのか。
知らないことばかりだ。
不安にならないと言えば嘘になる。
でも、私の隣にいるのはいつものロブだ。
まずは目の前のことをひとつずつ片づければいい。
今すぐできることは、ロブが怖がらないようにすること。
それから、王宮では失礼のないように。
そして、できれば美味しいごはんを確保したい。
「よし」
私は小さく頷いた。
「王宮でも、普通に頑張ろう」
「わふ」
ロブの尻尾が揺れた。
やがて、王宮の門前で馬車が止まった。
その瞬間、ラッパの音が空へ響き渡った。
ぱあん、と高く、華やかな音。
思わず肩が跳ねる。
「な、何?」
馬車の扉が開いた。
そこには、長い赤い絨毯が敷かれていた。
その両側には、騎士たちがずらりと並んでいる。さらに奥には、豪華な服をまとった人々が見えた。
国王一家だろうか。中央には、金の冠をかぶった男性、その隣には、優しげな雰囲気の女性。
少し後ろには、見目麗しい二人の若い男女が立っていた。王子と王女かしら。
その周囲には、年配の貴族らしい人たちや、ローブ姿の魔術師らしい人たちがいる。
全員が、こちらを見ている。
いや、正確には、ロブを見ている。
「……もう、いいから」
私は反射的に呟いた。
「ロブ、私、もうすでに帰りたいよ」
「わん?」
ロブは私の腕の中で、のんびりとあくびをした。
ラッパの音が終わる。
「神獣ロブ様、ならびにそのご加護を賜るエレナ・カンダ様。アルディア王国王宮へ、ようこそお越しくださいました」
『ご加護を賜る』ってなんだか、ものすごく大層な肩書きになっている。
私が恐る恐る馬車を降りると、国王一家と貴族たちが深く頭を下げた。
「えっ、やめてください!」
思わず声が大きくなった。
「国王様たちが頭を下げる必要なんてありません!」
周囲が静まり返る。
やってしまった、と一瞬思った。
けれど国王は顔を上げ、穏やかに笑った。
「エレナ殿。気にしなくてよい。これは我らが神獣へ捧げる、長年の敬意だ」
「でもロブは……」
私の腕の中で、ロブは国王を見ていた。
国王は、ゆっくり近づいてくる。そしてロブの前で膝をついた。
「改めて歓迎しよう、ロブ」
ロブは少し迷ったあと、国王の顔をじっと見た。
その場にいる全員が息を止めているのがわかる。
ロブは国王を見て、少しだけ近づいた。
くん。
国王の服の匂いを嗅ぐ。
くん、くん。
「ロブ」
私は小声で呼んだ。
「国王様の靴は嗅がないの」
しかしロブは、もう一度だけ国王の膝元の匂いを確かめた。
それから満足したように、尻尾を振った。
「わん」
王妃が、ほっとしたように微笑む。
「歓迎を受け取ってくださったのですね」
「そう、みたいです」
国王も笑った。
「光栄だ」
その後ろで、何人かの大臣が胸を撫で下ろしていた。
ロブが鳴いただけで、王宮の空気が変わるとは。
それが少し怖い。
私はロブを撫でながら思った。
この子は、誰かを試しているわけじゃない。ただ、知らない相手を確認しているだけだ。
それなのに人間は、ロブの何気ない仕草に勝手に意味を見出す。
「エレナ様」
若い女性が、そっと近づいてきた。
近くで見ると、柔らかそうな美しい金髪と、澄んだブルーの瞳が印象的だ。ドレスは華やかだが、目元はとても親しみやすい。
「わたくしはセシリア。アルディア王国の第二王女です」
「エレナです。よろしくお願いします」
「ロブ様にも、お会いできて嬉しいですわ」
セシリア王女は、ロブへ手を伸ばしかけた。
けれど途中で止めた。
「触れてもよろしいでしょうか?」
私に尋ねてくれたのだ。
「ロブが嫌がらなければ」
「ロブ様」
セシリア王女はしゃがみ、無理に近づかずに待った。
ロブは私の腕から顔を出し、王女を観察する。
しばらくして、自分から鼻先を近づけた。
王女の指先をくん、と嗅ぎ、
「わん」
ロブが尻尾を振った。
「まあ」
セシリア王女の顔がぱっと明るくなる。
「ありがとう、ロブ様」
彼女がゆっくりとロブの頭を撫でると、ロブは目を細めた。
大人しく撫でられており、王女様をかなり気に入った様子。
「セシリア様、ロブはおやつをくれる人が好きです」
私が言うと、セシリア王女は真剣な顔になった。
「ロブ様のお好みを、ぜひ教えてください」
「鶏肉です」
「承知いたしましたわ」
本当にメモを取りそうな勢いだった。
その様子を少し離れたところから見ていた青年が、わずかに眉をひそめた。
王女殿下と同じ金髪、碧眼。
美しく整った顔立ちだが、王女とは違い、どこか近寄りがたい雰囲気がある。
彼は私たちへ近づくと、丁寧に礼をした。
「第一王子、アレクシス・アルディアだ」
低く落ち着いた声だった。
「エレナ・カンダです」
私は慌てて頭を下げる。
ロブも、私の腕の中で首をかしげた。
アレクシス王子はロブを見た。
その碧い瞳には、警戒と、疑念が混じっている。
「貴女が、神獣の世話役だと聞いている」
「世話役というか、飼い主です」
「飼い主」
王子が、その言葉を繰り返した。
「神獣を、犬として扱うのか」
「ロブは犬です」
「ドラゴンを鎮めたと聞いたが?」
「ロブです」
私はつい、少し強い口調になってしまった。
「ロブが何者でも、私にとっては家族です。神獣だから急に扱いを変えるつもりはありません」
周囲の空気が、ぴんと張る。
やっぱりまずかったかな、と内心で思った。
相手は第一王子だ。
日本で言えば、会社で一番偉い人の、そのまた上くらいの立場かもしれない。
けれどロブのことだけは、譲れなかった。
アレクシス王子はしばらく何も言わなかったが、しばらくして、ふっと目を細めた。
「……なるほど」
「え?」
「少なくとも、媚びる者ではないらしい」
褒められたのか、警戒されたのか、よくわからない。
ロブへ一歩近づいた王子をロブは、じっと見上げる。
また、王宮の人たちが緊張し始めた。
「神獣様が、殿下を見ていらっしゃる」
「何か啓示を……?」
「静かにしろ」
大臣のひとりが小声で制する。
ロブは私の腕からするりと抜け出した。
「あ、ロブ」
地面に降りると、ロブはアレクシス王子の足元まで歩く。
王子は動かない。
ロブはその靴の前で止まった。
くん。
くん、くん。
王子の靴、服、手袋の匂いを順番に嗅ぐ。
「ロブ」
私は少し恥ずかしくなって呼んだ。
「犬の挨拶だから、気にしないでください」
「構わない」
アレクシス王子は答えたが、表情は相変わらず硬い。
ロブはもう一度、王子を見上げた。
それから、ぺろりと王子の手袋を舐めた。
「わん!」
突然、ロブがはっきりと鳴いた。
同時に、アレクシス王子の顔色が変わった。
彼はその場で、ゆっくりと片膝をついた。
「殿下⁈」
周囲がざわめく。
王子はロブの前で頭を垂れた。
「……失礼をした」
その声は、先ほどよりもずっと低かった。
「私は、伝承の神獣など信じていなかった。今も、すべてを理解したわけではない」
ロブは首をかしげる。
「わふ」
そして、そっと前足を王子の膝へ乗せた。
それだけで、アレクシス王子の肩から力が抜けた。
彼はロブを見つめ、ゆっくりと頭を下げた。
「歓迎する、ロブ。ようこそアルディア王国へ」
さっきまでの疑い深い目は、少しだけ変わっていた。
国王が、静かに息を吐く。
「アレクシス」
「父上。私はまだ、神獣を理解してはおりません」
王子は立ち上がった。
「ですが、目の前の命に敬意を払うべきだということは理解しました」
「それで十分だ」
国王は頷いた。
ロブは王子を見上げて、尻尾を振った。
どうやら王子も、ロブ審査に合格したらしい。
私は少しほっとした。
王宮の応接室で、国王は改めて私たちを迎えてくれた。
ロブ用には低い椅子と水皿が用意されていたが、ロブは椅子には座らず、私の足元に丸くなった。
大きな窓から庭園が見える。花壇には色とりどりの花が咲き、庭師たちが作業をしていた。
部屋には国王、王妃、アレクシス王子、セシリア王女、ルーク、それから数人の大臣と魔術師がいる。
正直、私は少し息苦しかった。
会議室は苦手だ。
前の世界でも、会議室に入ると「このあと何か無茶な仕事を振られるのでは」と身構えてしまった。
でもロブが私の靴に背を預けている。
大丈夫。
「エレナ殿」
国王が口を開いた。
「まず、神獣について簡潔に話そう」
「お願いします」
「この国では、神獣は人と魔獣の境をつなぐ存在として語られている」
国王の言葉に合わせて、老魔術師が一冊の古い本を開いた。
ページには、さまざまな獣の絵が描かれている。翼のある狼。角を持つ馬。海を泳ぐ巨大な魚。そして、長い耳を持つ、小さな犬のような生き物。
「三百年前、この国には神獣がいた」
国王は続ける。
「神獣は、魔獣の心を聞き、人間の恐れを伝えた。争いが起こりそうなときには、その間に立っていたとされる」
「昨日のロブみたいに?」
私が尋ねると、国王は微笑んだ。
「おそらく」
「でも、ロブは何も話せません」
「言葉だけが、心を通わせる方法ではないのだろう」
ロブは眠そうに目を細めている。
自分の話をされているとは、まったく思っていない顔だ。
「やがて神獣は姿を消した」
老魔術師が言った。
「最後の神獣が世を去ってから、三百年。以後、魔獣と人との関係は不安定になりました」
「それでも、今までは平和だったんですよね?」
私の質問に、ルークが答えた。
「大きな戦いはなかった。魔獣は街道や森に現れるが、騎士団や冒険者が対処できる範囲だった」
「けれど最近、様子が変わってきている」
アレクシス王子の声は、冷静だった。
「各地で魔獣の出現数が増えている。森にいた魔獣が人里近くまで降り、普段は温厚な獣まで荒れている」
国王は重い表情で頷く。
「そして、古い伝承にはこうある。魔獣たちが心を乱すとき、神獣が現れる、と」
部屋の空気が少し冷えた気がした。
「つまり……ロブが現れたから、魔獣が暴れるかもしれないと?」
「まだ、はっきりしたことは言えない」
国王はすぐに言った。
「我々も、ロブに何かを背負わせるつもりはない。だが、ドラゴンが毒矢で傷つけられたこと。昨夜、王都近くで魔獣の気配が確認されたこと。無関係とは思えぬ」
ロブの耳が、ぴくりと動いた。
私はすぐにロブの背中を撫でる。
「ロブに、危険なことはさせません」
自分でも驚くほど、はっきりした声が出た。
「この子は、誰かのために戦う道具じゃない。神獣だからって理由で危険なことをさせるなら、私は協力できません」
大臣たちが視線を交わす。
けれど国王は、静かに頷いた。
「もっともな言葉だ」
「陛下」
年配の大臣が一歩前へ出た。
「しかし、国の危機に神獣の力を頼らぬというのは……」
「頼ることと、利用することは違う」
国王の声は穏やかだったが、強かった。
「ロブは我が国の所有物ではない。エレナ殿も同じだ。彼女たちが助けたいと思ったときに、我らは支える。それが正しい関係だ」
私は少し驚いた。
権力を持つ人ほど、何でも命令できると思っていた。
職場では、立場が上の人の言葉は絶対だった。断れば「仕事ができない」と言われ、引き受ければさらに仕事が増えた。
でも、この国王は違うらしい。
「ありがとうございます」
私は頭を下げた。
国王は優しく笑った。
「こちらこそ。ロブを守り、彼の心を見てくれてありがとう。そこで提案なのだが、しばらくは王宮に滞在してくれないだろうか」
「王宮に?」
「ロブが何かを感じるなら、その声を聞かせてほしい」
私はすぐに答えられなかった。
王宮にいれば安全かもしれない。ごはんの心配もしなくて済む。
けれど、ロブは誰かの道具ではない。
神獣だからという理由で、危ない場所へ連れていくことはできない。
「条件があります」
私の声に、国王が静かに頷いた。
「言ってほしい」
「ロブが嫌がることはさせないでください。ロブに危険があるなら、私は行きません」
「約束しよう」
「では、しばらく、ここにいます」
ロブは私の腕の中で、私の頬を舐めた。
それは、たぶん賛成の印だった。
――第二話おわり




