巫女のミコちゃん 4
「はぁっ! これで終わりです!」
「………………」
表現するならば……そうだな、二週目のゲームだ。終盤のステータスを全て引き継ぎ、本来ならば苦戦するはずの敵を薙ぎ倒していく。七色の短刀を振るうその姿は女神のようだ。
そんな覚醒したミコちゃんの戦い方は、まさに一騎当千。トラウマや年の頃を感じさせない無双っぷりだった。もう完全に別ゲーと化している。
「ふぅ……悠さん、終わりました!」
「お見事です、巫女様。惚れ惚れする戦いっぷりでした」
「えへへ……じゃあ、ご褒美、貰っても良いですか?」
「……承知しました」
異界と化した東新美村を彷徨って、はや三日。俺とミコちゃんは順調にその歩みを進め、山に巣くうあの怪異を祓うための準備を進めていた。
村の神域を復活させ、汚染された地区を清め、物資を集める。怪異も段々と強力になるが、今のミコちゃんには相手にならない。
反撃の狼煙は、着々と上がり始めていた。
何か見落としを疑いたくなるほど順調なのだが、問題はそこでは無い。ほんと、そこじゃないのだ。
「んっ……♡ ふぅ~~~……はぁぁ♡」
「良く頑張りました、巫女様。偉いです」
「えへへ……♡ もっと撫でてください♡」
「っっっっっっ……!?!? はい……!!!」
ミコちゃんの距離が、びっくりするぐらい近いのだ。ここ最近はずっと、こんな感じで甘え倒してくる。
その度に俺は千切れそうになる理性を繋ぎ合わせ、必死に念仏を唱えるのだった。これがマジでキツい。彼女の妖艶な笑みに、何度意識を飛ばしかけたことやら。
もちろん、対策を打たなかった訳では無い。むしろ俺は頑張った。年頃の娘が所在の知れぬ男との距離が近いのは如何なものかと、俺にしては酷く真面目なことを言ったのだ。
『……すみません。実は私、両親からこうやって抱きしめて貰ったことがなくて……だから、こういうスキンシップに憧れていたのです』
そんなさぁ! こんな可愛い美少女がさぁ! こんなに信頼してくれてさぁ! 頼ってきているんだからさぁ! 無理だよぉ!!!
と言うわけで、あんな物寂しげな顔をされては、断れるはずがなかったのだ。そして今も、妙に距離の近いスキンシップは継続している。むしろ増えているくらいだった。
おはようからおやすみまで、全てがミコちゃんで埋め尽くされている。もう過剰なほど、ミコちゃんという存在を脳髄に刻まれるのだ。理性がバグりそうになる。
「んむぅ……悠さん? あれ、聞こえてない?」
朝起きればおはようのハグ、朝食は有無を言わせず、ミコちゃんからのあーんで食べさせられる。もちろん、俺からも同様のことをしなければミコちゃんは食事を一切しない。
「悠さーん? 何をブツブツ言っているのですか? それ以上無視するなら、私にも考えがありますからね?」
移動中だって、ミコちゃんは恋人繋ぎがデフォになっている。今はもう腕に抱き着いてくる始末だ。
鉄の意志で何とか正常を保つが、内心はもう叫びまくってる。ミコちゃん、触り方が俺のツボを完全に理解してるんだよほんとえっちなんだよ!
「んー……ちゅ♡」
「へひゃあぁ!? みみみみみ巫女様一体何を!?!?」
「そう驚かないでください。ただ、ほっぺにちゅー♡ ってしただけですから♡」
Oh……何だコレは? 此処はもしかして天国か? いや、俺は地獄行きだろうからそれは無い。つまり……これは現実?
クソみたいな問答をしながらも、俺は危機感を覚えていた。
このままでは、ミコちゃんがミコさんになってしまう……! ワンランク上のレディーへと昇華してしまう……!
「巫女様!」
「はい、どうかしましたか?」
「~~~!!! そのですね! 巫女様の寵愛を賜るのは大変光栄なことです! 私も、何度失神しそうになったことかもう数えきれません!」
「まぁ、それは良かった。では、もっとしてあげますね♡」
「ありがとうございます! ではなくてですね!」
「まぁまぁ、落ち着いてください。ほら、お茶でもどうぞ?」
暖簾に腕押し、という奴だろうか。何だか、本部にて保護している生意気なあの子のことを思い出してしまう。
『ぷーくすくす♡ ザコのおにーさん♡ なんでそんなこともできないのぉ? ザコ? ザコだからなのかな♡ ほんと、あたし無しじゃ駄目なんだから♡』
憎たらしくも愛らしい顔で煽りまくる子なのだ。ロリコンにそんなことをすればどうなるのか、何度分からせようかと思ったことだが……今となっては挑発してくれて本当にありがとう。君のおかげで、俺はまだ耐えられる。
「むー……悠さん、他の女のこと考えてましたね?」
「何故分かるのです? もしかして、巫女様くらいの歳の子は皆エスパーなのですか?」
これまでも、俺が今まで出会った少女のことを思い出していると、同じようなことを言われたことが何度もある。その度に、今のミコちゃんのようなジトッとした視線で、こちらを見てくるのだ。
「悠さんの顔がだらしなくなりますからね。一目で分かります」
「……本当ですか? え? そんなに分かり易いですか?」
「えぇ、それはもう緩みまくってます。私以外にそんな顔しちゃ駄目ですよ。通報されてしまいます」
なんてこった。俺は今まで鉄仮面を保てているとばかり思っていたのに、実際は間抜けにも丸見えだったらしい。
ガチで恥ずい。俺、今までエロいこと考えてるのバレバレだったんだ……
「悠さんが変態さんなのは周知の事実です。それはもう仕方ありません。ですが、そうやって少女に欲情するのはいけないことなのですよ? 分かっていますか?」
「はい……それはもう、反論の余地もありません」
「ですが、私にはそういった視線を浴びせても構いません。おーるおっけーです」
「……? 矛盾していませんか?」
ミコちゃんの言い分では、少女の顔を妄想して悦に浸るのは駄目だと言う。それはもう、真っ当すぎて何も言い返せない。
だが、それはミコちゃんに対しては適用されないらしい。いや駄目だろ。本来、ミコちゃんに触れることすら重罪なのだ。いくら妄想とはいえ、それをバレバレの状態で開けっぴろげにするなんて、普通にアウトだろうに。
「私が良いと言っているのですよ? 何か問題ありますか? いいえありません」
「では、他の少女を思い浮かべるのは何故駄目なのですか?」
「……本気で言ってます? 私にその理由を言わせるのですか?」
うぐっ……! み、ミコちゃんの視線が痛い……!
「ばか……ばかばかばか」
「いた、痛いれふ……ひゃめてくらはい」
「っ……! もう! ほんと鈍ちんなんですから!」
ミコちゃんは俺の頬を思いっきり引っ張ると、その顔を不満げに膨らませた。何ソレ、ちょー可愛いんすけど。ぐへへ……この光景だけで白飯三杯はいけるな。
「私以外の女に目移りしないでくださいよ……ばか」
「へぁ? え? え、え~っと……」
……正直に言おう。普通にプロポーズしようと思った。
だが、自分の気持ち悪さと矮小さ、その他色々な人物にぶっ殺されそうな未来が、ギリギリ俺の言葉を塞き止めた。
「……巫女様のお気持ち、とても嬉しいです。ですが、巫女様はまだ13歳です。可能性を狭めるべきではありません」
「幼い私が好きなのでしょう? 育った私なんて、貴方にとってはデメリットでしかない。それは困ります」
「確かに事実です。けれど、幼くない巫女様が嫌い、なんてことはありませんよ」
確かに俺はロリコンだ。だが、少女が成長し立派な女性へと至った時、その成長を劣化、蛹のままが良かったなどと宣う輩はロリコン失格だ。俺がぶっ飛ばしてやる。
成長するからこそ、未成熟な少女は美しい。それを履き違える奴に少女を愛でる資格などありはしないのだ。
「もっと色んな世界を知ってください。もっと色んな人と出会ってください。貴女の可能性は、これからドンドン広がっていきますから」
「私は……そんなの、欲しくありません」
「だとしても、です。答えを出すのは、これからでも遅くはありません。私は巫女様の未来を尊重します」
酸いも甘いも知り、立派な大人になった時にそれでも、こんな俺を好いてくれると言うのなら……俺も、その時はしっかりと答えを出す。そのつもりだ。
「はぁ……そうやって、色んな女の子を誑かしてきたのですね?」
「そそそそ、そんな訳ないじゃあないですか、アハハ……」
嘘です。この先延ばし、片手では足りないほど言った記憶があります。
「もう良いです。悠さんはどうしようもない変態さんで、人を誑し込む癖に餌をあげない、さいてーなスケコマシということは良く分かりました」
うぐ……言葉による抵抗不可の暴力は辞めて……
「でも、私はそんな貴方が欲しいです」
「巫女様、ですから――」
「分かってます。問題は山積みですからね。この異界に、まだ見ぬライバルに、悠さんの性格まで矯正しなくてはなりません」
ミコちゃんはこの数日間でとても変わった。もう、異形に怯え、守られるだけだった少女の姿は何処にも無い。
「私、諦めが悪いのです。とても面倒な女なのです。なので、覚悟しておいてください」
きゅっと……ミコちゃんの手が、俺の手を包み込んだ。それは縋るようなものではなく、自分の方へと引っ張っていく力強さがあった。
「絶対に逃がしません。悠さんの隣に寄り添うのは、私です」
その姿は俺の趣向云々を超越していた。ただ、美しいその姿に感涙してしまう。彼女の後ろから後光が差しているようにも見えてきた。
「はい……その時が来ることを楽しみにしていますね」
俺にそんな幸福が許されないと分かっていても……今は否定の言葉を口にできなかった。
それほどに、ミコちゃんの全てが輝いて見えていた。
「はい♡ だって私は……欲張り、ですから♡」




