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怪異蔓延るこの現世にて、ロリコンは依存される  作者: 椿


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3/13

巫女のミコちゃん 3

 「####???」


 「……周囲に他の敵影無し。行きますよ、巫女様」


 「は、はい……頑張り、ます」


 「無理はしないでください。大丈夫、私が傍に居ます」


 落ち着いて聞いてくれ。俺は今、ミコちゃんのお手々を握っている。


 白くて柔らかい、シルクのような手触りが癖になる。一生触ってたい。今も顔の緩みを抑えるのに大変で、必死に歯を食いしばっている。


 だが、今はミコちゃんの初陣の方が大切だ。そちらに集中しろ、ロリコンめ。


 「では、行きますよ!」


 「……っ!」


 本当に名残惜しいが、ミコちゃんから手を離して肉塊に接近する。足を引っかけて、怪異に刺さった刃物を軸に地面へと叩きつけた。


 今なら、覚悟さえあれば簡単に肉塊を抹殺することができるだろう。


 「巫女様! お願いします!」


 「や、やぁ!!!」


 ミコちゃんの手には、俺の短刀が握られていた。清められたそれは、適正の無い俺のような俗物の手にあっても、魔除けの効果を得ることができる代物だ。それを本職に近い人間が振るうのだから、効果は覿面だった。


 「ひっ……!?」


 振り下ろされた短刀が、肉塊に突き刺さる。怪異は締められた魚のようにビチビチと跳ねると、最後には溶けて消えてしまった。


 「お疲れ様です、巫女様。……巫女様?」


 「はぁっ……! はぁっ……! うっ……!?」


 顔が真っ青だった。冷や汗を滲ませながら、ミコちゃんは自らの手に握られた短刀を凝視していた。


 「巫女様。巫女様!」


 「ひぃ!? ごめんなさい! ごめんなさい!」


 「大丈夫です! 私です、悠です! 落ち着いてください!」


 強く声を掛けると、ミコちゃんは短刀をブンブンと振り回しながら、何かへと謝罪の言葉を口にしていた。


 俺はその手を押さえて、ゆっくりと指を柄から外していった。手に爪が食い込むほど、強い力で握っていたようだ。


 「巫女様! しっかりしてください、巫女様!!!」


 「ぁ……ぅ……」


 短刀が地面に落ちた瞬間、ミコちゃんの力もそれに倣うように抜けていった。未だ焦点の合わぬミコちゃんを起こすために、俺は何度も彼女へと声を掛け続けた。


 「ゆ、う、さん……? 私は、一体……」


 「はい、私は此処に居ます。少し深呼吸をしましょう。ゆっくり、息を吸って、吐いてください」


 「ふぅ……ふぅ……はぁ……」


 「大丈夫、大丈夫ですから」


 物陰に潜み、ミコちゃんの精神を安定させていく。背中を一定のリズムで優しく叩きながら、何度も大丈夫と言い続けると、次第に呼吸が安定してきた。


 「ありがとう、ございます……」


 「落ち着きましたか?」


 「あっ……! まだ、もう少しぎゅってしてください。お願いします……!」


 流石の俺もこの状況に欲情することはできなかった。ただ、この少女の不安を少しでも取り除きたくて、俺は少女の身体を抱き寄せ続けた。


 「悠、さん……私、人を殺してしまいました」


 「違います。アレは人のような形をした怪異です。貴女は人殺しなどではありません」


 「でも……! あの人を刺した瞬間、確かに聞こえたのです……! 『痛い』『助けて』『苦しい』『ミコちゃん、なんで』って……!」


 ミコちゃんの身体はぶるぶると震えていた。俺の背中に手を回し、縋るように強く抱き着いている。全くもって不快な怪異だ。ミコちゃんの耳にそのような幻聴を流し込むなんて。


 「肉を刺した感触が……死から抗うように暴れるあの姿が……離れてくれないのです……!」


 泣いていた。そのか細い身体を揺らしながら、ずっと幻影に謝り続けていた。その姿はあまりに見ていられない。


 あぁ……なんと情けないことか。俺は目の前の小さな女の子一人、救うこともできない。


 あの時から、俺は何も変わっていない。愚かなままだった。


 「…………巫女様、良く聞いてください」


 「なんですか……?」


 「私は、人を殺したことがあります」


 口をついて出たのは、そんな俺の自分語りだった。


 こんなことを語るべきではないのだろう。だが、俺の懺悔が少女の罪悪感を少しでも薄れさせるのならば……俺はいくら傷付いても構わない。


 それが、俺のトラウマであろうとも。


 「私には妹が居まして……とても可愛い、私なんかには勿体ない良い子でした。ですが、産まれた環境が良くなかった。妹は、産まれながらに全てを奪われていました」


 今でも昨日のように思い出せる。あの日の記憶……あの時の、罪を。


 「人身御供……要するに、生け贄ですね。村の信仰のため、生きたまま湖に沈める……そういう因習の標的に、妹は選ばれたのです」


 「……そんな」


 「もちろん、到底受け入れられる話ではありません。私は子供ながらに抗いました。その結果……同郷の人間を、何人も葬りました」


 村の重鎮。神主。祟りを恐れ儀式を決行せんとする大人達。数え切れないくらい、殺した。何度も何度も、この手を汚した。そんな手では、救えるものなど無いというのに。


 「巫女様のお気持ちはよく分かります。私も、初めては胃の中が空っぽになっても吐き気が収まらず、しばらく悪夢に魘されましたから」


 人間、たとえ殺した相手が憎い相手であろうと、罪の意識を感じずには居られないものだった。少なくとも、俺にはその業は重すぎた。その重みを、俺は知っている。


 「ですが、それを承知の上で断言します。巫女様は、人殺しなどではありません」


 「…………っ! でも……! でもっ!!!」


 「――それに、巫女様が本当に人を殺してしまったのなら、私も同罪……いや、もっと重罪ですね」


 「え……?」


 俺が、そうなるように仕向けた。俺が、ミコちゃんが肉塊を殺せるように誘導した。俺が、ミコちゃんの殺人の手伝いをした。


 彼女が未成年である以上、その幇助をした俺は同罪なんてレベルではない。法律には詳しくないが、それなりの処罰が下ることだろう。


 「巫女様だけの罪ではありません。私も一緒です。貴女は何も、悪くない」


 「そんなの……! 理不尽じゃないですか!」


 ミコちゃんは俺の手を強く握り締めると、ボロボロと涙をこぼした。その手はまるで、祈りを捧げているようだなんて、そんなことを思った。


 「悠さんは私のこと、ずっと助けて、守って、傍に居てくれたのにっ……! どうして私の分まで罪を背負わなければならないのですか!?」


 「それが私の仕事ですから」


 「貴方の手は、こんなにも温かくて、安心して、優しいのに……! なんで、そんなことを言うのですかっ……!?」


 「…………巫女様」


 自分のこと以上に、ミコちゃんは俺のことを悲しんでくれた。本当に、この子は優しい子だ。だからこそ、泣いてほしく無い。その顔を涙で濡らすなんて、あってはならない。


 「……ありがとうございます、巫女様。私なんかのために、巫女様は悲しんでくれるのですね」


 「ぐすっ……! なんかじゃ、ないですっ! 悠さんは、悪い人じゃありません!」


 「……悪い大人ですよ、私は」


 俺は涙を流すミコちゃんの姿を、美しいと感じてしまう。ミコちゃんの優しさが俺に向けられていることに、堪らない幸福感を感じてしまう。俺はそういう人間だ。


 「……貴方は、そういう人なのですね」


 「はて、何のことでしょうか。私はただの変態ですよ」


 「良いです、分かりました。えぇ良く、とっても、凄く理解できました」


 ミコちゃんは顔を乱暴に拭って立ち上がると、一瞬の葛藤の後、地面に刺さったままの短刀を引き抜いた。


 もう、手の震えは微塵も生じていなかった。


 「悠さん。私の罪を、貴方は背負ってくれるのですか?」


 「はい、もちろんです」


 「……なら、私も貴方の分を……一緒に背負っても良いですか?」


 スッと、白い手が差し出される。その手は少し、あの肉塊の血で汚れていた。


 「私の罪は私だけのも――」


 「駄目です。そんなの、許しません」


 その手は強く、俺の手を掴んだ。指を互いに絡ませ、絶対に離さないとばかりに力が込められていた。俺が動揺していると、ミコちゃんはその顔を紅潮させ、僅かに頬を上げていた。


 「悠さん。この手を絶対に離さないで。私のこと、見捨てないで。そうしてくれるなら……きっと、私はもっと頑張れますから」


 「み、巫女様の頼みならば」


 「ふふ、嬉しい。約束、ですからね?」


 俺は何処か大人びたミコちゃんの変化に戸惑いつつも、その手がにぎにぎと俺の五指を刺激する感動に流され、その違和感を忘却した。


 しょうがない。だって、ミコちゃんが過去一可愛いのだから。うん、これは仕方の無いことだ。


 「行きましょう、悠さん。私、もう迷ったりなんてしませんから」


 「巫女様、それは良かったのですが……どうして、指を絡めるのですか?」


 「……えっち。私の口からそんな破廉恥なこと、言わせないでください」


 あぁもう、場所が場所でなければいますぐに抱きしめてしまいたい! 何だこの可愛い生き物は!? アレか!? これは異界が作った俺の妄想の具現化なのか!?


 「――ふふっ♡」


 俺は若干崩れかけているポーカーフェイスを必死に維持しながら、異界を進むのだった。その間、ミコちゃんはずっとニコニコして、俺のことを上目遣いで見ていた。えっぐい可愛い。


 ちなみに、ミコちゃんはその後覚醒して怪異をぼこぼこにしていた。凄ぇな、何かビームみたいなの出てたぞ。


          3


 可哀想に。この人は、自分のことを愛してあげられない人なのだ。


 あぁ、なんて可哀想。なんて不憫なのだろう。なんて……可愛い人なのだろう。


 愛おしい。この人の全てが、愛おしくて仕方が無い。


 その感触を確かめるように、私は彼の手をにぎにぎ、ぎゅっぎゅっと刺激する。その度に、彼は軽く肩を震わせ、手のひらに汗を滲ませるのだ。


 いやらしくてごめんなさい。でも、こうしていると私は頬の緩みを抑えられないのです。だって、それは彼が私をそういう眼で見ていることの、何よりの証明だから。


 もっと私を見て欲しい。もっと私を触って欲しい。もっと私に……欲望をぶつけて欲しい。


 ねぇ、悠さん? 私、実は欲深いのですよ? 欲しいと思ったものは、何年掛けてだって手に入れたい。好きなことについては、何だって知りたいのです。


 悠さん。こんな世界で、私の傍に居てくれる人。私は、貴方が欲しいです。


 ずっとずっと、傍に居てください。この手を離さないでください。その代わりに、私の全部をあげます。


 貴方が望むこと。貴方が欲すること。貴方が叶えたいこと……何だってしてあげます。


 絶対離しません。絶対逃がしません。絶対絶対……責任、取って貰います♡


 「悠さん」


 「はひぅ!? ななな、なんでしょう巫女様……!」


 「呼んだだけです♡」


 「そそそ、そうですか……! 大声をあげて大変申し訳ありません!」


 ふふふ……えへへ……♡ ほんと、可愛い人♡

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