↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪異蔓延るこの現世にて、ロリコンは依存される  作者: 椿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/13

双子の陽子ちゃん 3

 「お兄さんは変態なんだ」


 「「……はい?」」


 あの惨劇から一夜明けて、あたし達はとある一室でおにーさんから、そんなことを唐突に言われた。


 「よく言えば子供好き、悪く言えばロリコン。俺が君たちを助け、そして過剰に固執するのは、ひとえに俺の趣向が偏っているからなんだよ」


 「……おにーさん、一つ質問」


 「何かな? 陽子ちゃん」


 「おにーさんはあたし達に酷いことをするの? たとえば……無理矢理犯したりする?」


 ジッと、あたしはおにーさんを見つめた。


 正直言って、あたしはおにーさんがそんな人間でないことは分かっていた。そういった畜生であれば、あの時あたし達のために泣いたり、こうやってわざわざ警戒心を煽るような真似はしないはずだ。


 それでも、これは必要な確認だ。


 はずだ、とか、だと思う、という曖昧な主観ではなく、きちんと言葉にして伝えて貰う。これは絶対、必要だ。


 「……そういうことは、しないよ。絶対だ。どうしても不安なら、魂を縛る契約を交わしても構わない」


 「お姉ちゃんっ! もう良いでしょ!」


 「……そう、だね。ごめん。ちょっと疑いすぎた」


 分かっていたのに、あたしは無駄なことをした。


 それはつまり……あたしはまだこの人のことを、信用できていないのだろう。


 少しだけ、それが悲しかった。


           4


 「はい! できました!」


 「……うん! 良く出来ました! 月子ちゃんは頭が良いね」


 「えへ、えへへ……」


 おにーさんとの暮らしは、平和そのものだった。


 暖かい布団と可愛い妹が居て、3食美味しいご飯をおにーさんと食べる。


 「お勉強とかつまんない。ねね、お外に遊び行こーよ」


 「じゃあ、このページをやったら少し散歩しようか。その後は、美空さんの買ってきてくれたケーキでも食べよう」


 「むぅ……お兄さんってば、お姉ちゃんに甘くないですか? 私だって、お兄さんと本を読みたいのに……」


 その後はおにーさんと勉強したり、敷地内を散歩したり、食べたことのない甘いお菓子を堪能したり……


 あまりに心地が良い生活が広がっていた。


 けれど、あたしは知っている。


 「おい、間宮。仕事を押し付けておいて、呑気に散歩とは良いご身分だな」


 「……ご、ごめんなさい」


 「いや、君に言った訳では……! あぁもう! ガキを引き合いに出すな! 卑怯だぞ!」


 「ちょっとごめん、二人とも。少し美空さんとお話、してくるね」


 険しい顔をした金髪の女の人は、おにーさんの先生らしい。だからこそ、女の人はいつも厳しくおにーさんを責め立てていた。


 「お前が現場に出なくなって二週間。その間に、怪異絡みの事件が5件発生した。その全てを対処させられたのは私なんだぞ?」


 「ありがとうございます、美空さん。お陰様で良い休暇を取れていますよ」


 「はぁ……下手な演技は辞めろ。お前、ちゃんと寝れているのか?」


 「……もちろんですよ。毎日ぐっすりです」


 あたしは知っている。あたし達が眠った後、山積みになった書類と一人で向き合って、碌に睡眠なんて取れていないことを。


 「いつまであのガキ共にかまけている? 霊力も人並みでお前のような肉体も無い。利用価値なぞないだろうに」


 「そういう話じゃないんですよ。あの子達は、まだ支えてあげないと折れてしまいます。それを見捨てるなんて、俺には出来ません」


 「支えるにしたって、もっとやり方があるだろう。四六時中付きっ切りでなければ壊れてしまうなんて、それこそ手遅れだ」


 「それでも、俺は……あの子達を救えなかった責任を取りたいんです」


 あたしは知っている。おにーさんがあたしの色を映さない瞳を見る度に、その顔を僅かに濁らせるのを。


 あたし達姉妹が、未だあの地獄から帰ってこられないことに、一人責任を感じていることを。


 「ごめん、お待たせ。そろそろ戻って、おやつにしよっか」


 「ねぇ、おにーさん」


 「ん? どうしたの?」


 「…………なんでもない」


 でも、あたしはおにーさんの手を離せなかった。


 離してしまえば、あたしの寄る辺を無くしてしまうから。


 おにーさんが傷付くことを分かっていながら、あたしは今日もおにーさんの手を握り締める。


 それが、酷く痛かった。


          5


 「う”ぁ”ぁあああぁぁあぁあ!?!?」


 「つ、月子……? ねぇ月子! しっかりして!」


 「やだ、やだやだやだ! いや! はなして!!!」


 月子はあの惨劇を経て尚、気丈に振る舞っていた。それはあたしを安心させるためであり、何よりおにーさんという存在が、彼女にとって大きな支えになっていたからだった。


 けれど、夜になればおにーさんは自分の部屋に帰ってしまう。あたし達姉妹は二人で同じベッドで眠りにつく。あの時と、同じように。


 多分、それが良くなかった。


 この暮らしを始めて三日目のことだった。月子が深夜、突然狂ったように叫び、錯乱し始めたのだ。


 あたしがいくら声を掛けても、ただ「ごめんなさい」と言うばかりで、泣き止んでくれない。頭を抱えて、悲痛に叫び続ける。


 「どうした、何があった!?」


 「お、おにーさん……月子が……月子がぁ……!」


 「っ……! 月子ちゃん、しっかりしてくれ! 大丈夫だ! 此処は安全だから!」


 「おにい、さん…………?」


 「あぁそうだ、お兄さんだ。大丈夫。お姉ちゃんも居るよ」


 「お兄さん……お兄さんっ!」


 それから、泣き続ける月子を二人で抱きしめ続けた。月子はずっとお兄さんの胸に顔を埋めて、ずっと謝り続けていた。


 泣き疲れて月子が眠るまで、おにーさんはずっと辛そうな顔をしていた。あたしはソレを見て、また胸が痛んだ。


 「ごめんなさい、おにーさん。迷惑ばっかり掛けて……」


 「陽子ちゃんは何も悪くないだろう。君はとても良く頑張っている。それに、俺は君たちのことを迷惑だなんて、一度たりとも思ったことはないよ」


 「っ……! おにー、さん……」


 嬉しかった。こんなあたし達を助けてくれて。こんなあたし達を見てくれて。こんなあたし達を……愛してくれるのが。


 それと同時に、痛くて……悲しかった。こんなあたし達のせいで、おにーさんはいつも辛そうで、立場を悪くして、色んな人に迷惑を掛けてしまっている。


 それを強いてしまうのが、苦しくて仕方がなかった。


 「どうすれば、良いのかな……」


 おにーさんはどうしたら、幸せになってくれるのだろうか。どうしたら、月子は幸せになってくれるのだろうか。どうしたら……一体、どうしたら。


 おにーさんにもっと笑ってほしい。おにーさんにもっと喜んでほしい。おにーさんに……二度と、あんな辛そうな顔をしないでほしい。


 そのためには、一体どうしたら……


 「あら、あらあらあらぁ……♡ こんな夜更けに出歩くなんて、悪い子ねぇ……」


 「――え?」


 その日も、いつもと同じ日だった。


 朝起きて、おにーさんとお勉強して、遊んで、散歩して、ご飯を食べて……そして、夜中に月子がトラウマを発症して、おにーさんが申し訳なさそうな顔をして…………その顔を思い浮かべていたら、眠れなくなってしまった。


 だから一人、おにーさんの部屋に向かおうとしていた。おにーさんの顔を見て、少し甘えれば、きっと眠れるだろうから。


 そんな浅ましい考えを持ったあたしの前に、その怪物は現れた。


 「貴女、アレでしょう? 悠君のお気に入りの姉妹の子。確かに、あの子が好きそうな顔してるわね」


 「だ、誰、ですか……?」


 この世の者とは思えない美しさだった。


 月夜に煌めく銀髪は、まるで宝石のようにキラキラしていた。甘い匂いと、不思議と眼を奪われる金色の瞳。その全てが、不自然なほど完璧だった。


 完璧なのに、不自然。整い過ぎているが故に、違和感。そんな矛盾した女は、うっとりとした顔をしながら、私の問いに答えた。


 「私……? 私はね……悠君のカミサマ、かなっ♡」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。