#9 迷宮都市
無事にコランの町へと戻り、自分たちはベリーナさんと商会の前で別れた。
彼女は帰り道の馬車内でも終始ご機嫌だった。
なんでも、あのペルシャンさんとはすぐにこの街で同棲を始めるのだとか。
凄まじいスピード感だが、何はともあれ、どうかお幸せに。
宿へと戻って部屋に入り、ようやく一息ついたところで、自分はメンバーの目を盗んで女神様への報告を行うことにした。
『お疲れさまでした、クローバーさん! 皆さんご無事でしたようで何よりです。併せて、初めての特別依頼の報酬をお渡しさせていただきますね! ……えーっと、今回の素晴らしい働きっぷりでしたら、百万フラくらいでいかがでしょうか?』
100万フラ。
メンバー4人で山分けしても、一人あたり25万フラはある。
今回は往復四日と滞在一日、合計五日間の稼働日だったため、日給換算で5万フラ。
これは自分たちの冒険者ランクからしても相当割がいい。
どこかのタヌキのアルバイトとは違って、神下というのは想像以上に好待遇なのかもしれない。
『そのお金を使って、ぜひ皆さんとパァーっと美味しいものでも食べて楽しまれて……と言いたいところなのですが、本当にごめんなさい! すぐに次のお仕事がありますので、急いで準備をして出発していただかないといけません!』
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『愛の神』より特別依頼
対象者①:タイム/男性
所在地:迷宮都市アロエ
身分職業:冒険者(剣士)
対象者②:ナノハナ/女性
所在地:迷宮都市アロエ ベラのダンジョン内
身分職業:冒険者(僧侶)
【達成条件】
上記二名を『直接の対面』させること。
(※対面成功時、いい感じの効果音とともに縁が結ばれます)
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手元に現れた書類を確認する。
今回はどうやら、既に『迷宮都市アロエ』という同じ町の中に、ターゲット同士が二人とも滞在しているようだ。
移動の手間が省けるのはありがたい。
「女神様が謝る必要ありませんよ。自分がメンバー集めに余計な時間がかかってしまったのが原因ですから」
『いえ、それも根本的な原因は私のせいですし……! それに、事前にご説明していた通り、本当なら特別依頼はそんなに頻度が高くないんです。今回のお二人は、本来でしたら既に出会っているはずなのですが、どうやらまだ出会えていないようで……』
「予定が変わってしまっている、と?」
『はい……。ですので今回は、特例としてお仕事をお願いする形になります!』
どうやら次の特別依頼は、神様にとっても想定外のもののようだ。
現地で何かトラブルでもあったのだろうか……。
女神様への報告を済ませた自分は、部屋に戻ってパーティーメンバーへ初めての特別依頼の報酬の受け渡しと、次の依頼が入った旨を伝えることにした。
「こっ……こんな大金、私見たことありません……!」
ルピナスが手渡された大金に、目をこれでもかと輝かせて喜んでいる。
過去のブラックパーティーでの搾取まみれの一件を聞いているだけに、彼女にはどうにか報われてほしい。
「多いから、夫婦の共有財産として貯蓄しておく。クローバー、必要な時はボクに言ってほしい」
「私には過分な報酬ですが……ご主人様、ありがとうございます!」
ヘリオはどうやら貯蓄しておくらしい。
共有財産についても初耳だ、勝手に二人の関係を進めないでほしい。
それにしても、どうして彼女はそこまで自分にこだわるのだろうか?
分身がどんな触れ合い方をしたのか、彼の記憶がないのでさっぱり分からない。
ハートは「お仕えしている身ですので……」と遠慮したため、これは正当な報酬だからと説得して、なんとか受け取ってもらった。
「それで、みんな。帰ったばかりで申し訳ないけど、実はもう次の『特別依頼』が既に届いています。今度は『迷宮都市アロエ』まで向かわないといけません」
「迷宮都市アロエ……町中にダンジョンが点在する町ですね」
「今回のターゲットは両方とも、アロエの街の中にはいるみたいなんだけど、問題は片方の女性がダンジョン内に滞在してるようなんだ。だから前回とは違って、現地で戦闘も多くなるだろうし、出てくる魔物も格段に強いかもしれない。少し念入りに準備しておこう」
自分の言葉に、三人の頼もしい女の子たちが一斉にで頷いた。
翌朝。
自分は戦闘時のお荷物な自分を少しでも補うため、補助武器として一本の頑丈なナイフを購入。
そしてルピナスには、万が一の予備として追加の杖を購入してもらった。
数日ほど馬車を走らせ、自分たちは『迷宮都市アロエ』に無事到着した。
ひとます、町中にいるというタイムさんから接触することにする。
幸いなことに、彼とはすぐにこの町の冒険者ギルドで会うことができた。
どこか少し自分に自信のなさげな、ごく普通の冒険者という雰囲気を纏った少年だった。
「僕がタイムだけど……何か御用ですか?」
「初めまして。自分は『キューピッド』というパーティーのリーダーをしている、クローバーと言います。急な話で申し訳ないのですが、自分たちと一緒に、これから『ベラのダンジョン』に入っていただけないでしょうか?」
「ベラのダンジョンに!? あなたたち、今のあそこのダンジョン状況を知らないんですか!」
タイムさんは声を裏返してひどく驚いた。
「あいにく今日この町に到着したばかりでして。何かあったんですか?」
彼の話によれば、どうやらここ二週間ほど前から、ベラのダンジョンに入った冒険者がただの一人も戻ってこないという異常事態が起きているらしい。
本来そのダンジョンは、初心者から中級者の冒険者が腕試しに入る程度の安全な場所だったようだが、異変の調査を引き受けた『上級パーティー』の一行すら、三日前に入ってから音信不通になっているという。
「……それじゃあ、ナノハナさんは、そのダンジョン内の深刻なトラブルに巻き込まれて戻れなくなっているのかもしれないのか……」
「そのナノハナっていう人は、あなたたちの知り合いなんですか?」
「いえタイムさん、突然突拍子もないことを言うようで申し訳ないんですが……彼女はタイムさんの『運命の相手』です。自分たちのパーティーは、あなたを彼女に直接会わせるために、この町まで来ました」
「僕の、運命の相手……? いや、怪しすぎるけど……しがない初級冒険者の僕を騙すにしては、あなたたちに何のメリットもないし……」
タイムさんは腕を組んで、真剣に考え出してしまった
さすがにストレートに言い過ぎただろうか。
自分が次のフォローの言葉を考えあぐねていたら、隣からルピナスが絶妙な揺さぶりで援護してくれた。
「どうします? もしクローバーの話が本当だったら、あなたはこのまま大切な運命の相手に、一生会えないかもしれませんが?」
「そうです! それに、ご主人様は人を騙すようなお方ではありません。疑うこと自体が、ご主人様に対して大変失礼に値します」
ハートも続けて、満面の笑顔のまま逃げ道を塞ぐように後押しする。
――いや、ちょっと待ってほしい。
自分はそんな大層な聖人君子ではないし、大人として方便の嘘くらいつくことは普通にある。
そんな少女二人の強烈な後押しと、ヘリオの『無言の圧力』に気圧されたのか、タイムさんは小さくため息を吐いた。
「……分かりました。完全にあなたたちを信用したわけではありませんが、その運命の相手というのも気になりますし、ついていきます。ただ、僕は強くないので、戦力としては本当に期待しないでくださいね」
そう言って、タイムは自分のギルドカードを差し出して見せてくれた。
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タイム 人族/男 14歳
職業:初級剣士 冒険者ランク:D
能力値(最大数値10)
筋力:5
耐久:5
魔力:2
知力:5
俊敏:5
器用:5
運命:5
成長:5
所持スキル
初級剣術
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上下への凸凹が極めて少ない、絵に描いたような平均的ステータス。
おそらく彼のような前衛こそが、この世界の一般的な『普通の冒険者』なのだろう。
戦闘でお荷物にならないバランスの良さが、自分の貧弱ステータスからすれば、心底羨ましくて仕方がなかった。
「タイムさん、よろしくお願いします。彼女たちは強いので、心配しないでください」
「タイムでいいですよ。クローバーさんの方が年上ですし中級剣士なんですから」
自分は苦笑いを浮かべて挨拶を交わすと、一時的に加入したタイムを引き連れ、行方不明者が多発する『ベラのダンジョン』の入り口へと向かうのだった。




