#80 亜人の学者と友人夫婦
女神様から新しい特別依頼を授かり、住人の大半が亜人の町『ディープルート』へとやってきた。
自分は懐から依頼書を取り出し、もう一度今回の仕事内容を確認した。
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『愛の神』より特別依頼
対象者①:ミズナラ/男性
所在地:亜人の町ディープルート
身分職業:学者
対象者②:セージ/女性
所在地:エルフの里シルバームーン
身分職業:学者
【達成条件】
上記二名を『直接の対面』させること。
(※対面成功時、いい感じの効果音とともに縁が結ばれます)
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いつもの流れではあるが、まずは片方に同行してもらえるよう説得することが第一歩だ。
今回の説得相手は男性のミズナラさん。
理由は単純、こちらの方が近かったから。
ケージュは初めての特別依頼だが、特段気にした様子は見られない。
彼女はいつも恋愛に興味がないと言っている上に、依頼内容が簡単すぎて張り合いがないのだろう。
……特別依頼の報酬が大きいことはみんなで内緒にしているので、知った時の反応が実に楽しみである。
後のメンバーはいつも通りだが、今回はランティアが心なしか楽しそうだ。
ターゲットが彼女と同じ学者だからだろうか?
どんな人物だろうかと興味深そうに自分に話しかけてくる。
町の住人にミズナラさんの居場所を聞き込むと、町の片隅にある研究所にいることが判明した。
そして研究所にて、何の支障もなく接触することに成功した。
だが、現れたミズナラさんを見て自分たちは目を見張った。
なんと彼は、自分たちよりも一メートル以上は大きな、筋骨隆々とした緑の肌を持つオーク族の男性だったのだ。
けれどこちらの世界で一般的なオークのイメージとは違い、眼鏡の奥の瞳はとても知的で穏やかな印象を受ける。
代表して自分とランティアが挨拶をすると、ミズナラさんはランティアの名前を聞いた途端に眉をピクリと動かした。
「……失礼ですがあなたのご両親のお名前は、シサスとルナリアではありませんか? 探検家であり学者の」
「そうだけど……もしかしてアンタ、父さんと母さんの知り合いだったのかい?」
ランティアは驚きながらも両親の名前だと肯定する。
するとミズナラさんは複雑な表情を浮かべたまま、自分たちを部屋の奥へと案内してくれた。
広々とした部屋の最奥。
そこで彼は、並べられた二つの石像を見せてきた。
それを見たランティアが硬直してしまう。
様子がおかしくなった彼女が心配になり、横から声をかける。
「ランティア? 大丈夫かい?」
ランティアは小さく震える唇を開き、絞り出すように呟いた。
「これ……アタシの、父さんと母さんだよ」
「えっ……!?」
驚愕する自分たちに、ミズナラさんが悲痛な面持ちで説明を始めた。
「私は二人の古くからの友人で、かつて一緒に遺跡の調査活動をしていました。ですが数十年前、別行動中だった二人がこの状態に陥ってしまい……。それから私は二人をこの場所に持ち帰り、どうにか元に戻せないかと今日まで研究を続けてきました」
ミズナラさんはそのまま、深く頭を垂れる。
「ですが……数十年という年月が掛かっても解決できませんでした。お二人の愛娘であるあなたに、このような姿でしか再会させられず、本当に申し訳ない」
長年、彼女のご両親が帰ってこなかった本当の理由。
その事実を知らされ、ランティアは呆然と石像を見つめることしかできなかった。
しかし、石化であれば今の自分たちには解決策がある。
自分はミズナラさんに薬の存在を伝えた。
「ミズナラさん、どうか安心してください。自分たちは石化も解除できる『万能ポーション』を持っています」
「そ、そんな薬が存在するのですか!? 数十年も掛けてあらゆる文献を調べ尽くしたというのに、私はなんて愚かな……」
「知らなくて当然ですよ。我がパーティーに所属している錬金術師が、つい最近発明したばかりの新薬なんですから」
自分は後ろに控えていたムスカリに目配せをし、彼女からポーションを受け取る。
早速、二つの石像に向けてポーションを使用した。
すると、石の肌が瞬く間に生気を帯び始める。
「……あれ? ここは……」
「確か、俺たちは遺跡の調査中で……。妖精仲間のジジイに声を掛けられて……」
周囲の状況が理解できないといった様子で混乱するランティアのご両親。
そんな二人に、ミズナラさんは涙を浮かべながら説明を始める。
あの日、二人が石化してしまったこと。
そして、そのまま数十年という途方もない年月が経過していること。
一方、ランティアは数十年ぶりとなる両親との再会がまだ信じられない様子で、酷く緊張したまま自分の腕に抱き着いて隠れてしまった。
「そうだったのか。ミズナラ、君が俺たちを助けてくれたんだな。本当にありがとう」
一通り説明を聞き終えた二人は、親友であるミズナラさんに心からの礼を伝える。
だが、ミズナラさんは静かに首を横に振りこちらを指さした。
「いいえ、感謝するなら彼らに。彼らの薬がなければ、私は一生お二人を救えなかったかもしれない」
そこでようやく、ご両親は自分たち一行の存在に気が付いた。
リーダーとして前に出ていた自分へと近づいてくるご両親。
その時、二人は自分の腕に隠れている存在に気付く。
「……おや? その子は……」
自分は彼女をそっとご両親の前に差し出す。
「ほら、ランティア」
「……っ」
ランティアはゆっくりと顔を上げ、涙で濡れた瞳でご両親を見つめた。
面影をしっかりと残したまま、成長した娘の姿にご両親も表情を明るくさせて声を上げる。
「おぉ!? やっぱりランティアか!」
「ランティア、随分と大きくなったわね」
「父さん、母さんっ!!」
数十年の時を越え、三人は固く抱きしめ合う。
普段は誰よりも大人っぽいランティアも、この時ばかりは少女のように声をあげて泣いていた。
自分たちはそんな彼女の姿を、温かい目で見守る。
途中、ホオズキとムスカリが羨ましそうに眺めている風に見えてしまい、つい二人の頭を撫でてしまった。
ホオズキはともかく、ムスカリも珍しく抵抗しなかった。
少しして、ご両親は臆病な娘が故郷を飛び出していることが気になり、その理由を尋ねてきた。
するとランティアは、里を出るきっかけとなった自分とパーティーメンバーを誇らしげに紹介してくれた。
ご両親は娘の些細な仕草や視線を見て、とある事実を瞬時に察する。
娘が側にいる男へと恋慕の情を抱いていることを。
妖精と人間といった種族の違いこそあれど、あの引っ込み思案だった娘に好きな人ができたと夫婦は密かに喜び合う。
そんな中、すっかり脱線してしまっていた話を謝りながらミズナラさんが本題へと戻した。
そこで自分は、彼に一つのお願いを伝える。
「ミズナラさん。あなたに『運命の相手』をご紹介するため、自分たちと一緒にエルフの里まで同行していただけないでしょうか?」
「私に……運命の相手? まさかオークの、それも力ではなく知識を求めるような変わり者の私に? そんな相手が、いるはずありませんよ」
ミズナラさんは自嘲気味に微笑みながら、静かにこちらの提案を否定した。
すると、横からランティアのご両親がミズナラさんの背中を力強く叩きながら割って入る。
「いいじゃないかミズナラ! 不安なら俺たちも付き合うから、行こうじゃないか!」
「アンタもいい加減嫁さんでも見つけないと、アタシたちも安心できないわ」
数十年ぶりであるはずなのに、昔と変わらない賑やかなやり取り。
ミズナラさんは眼鏡の位置を直しながら、懐かしい日々を噛み締めるように苦笑した。
「あなたたちは本当に……。分かりました、そこまで言うのならご一緒させていただきましょう」
こうしてミズナラさんの説得に成功し、ランティアのご両親も加えて次なる目的地である、エルフの里『シルバームーン』へと向かうのだった。




