#69 ムスカリのお薬と
私の名前はムスカリ。
このパーティーでは最年少ながら、後方支援の錬金術師として所属している。
まぁ、大抵の怪我は従者のハートや妖精であるランティアが回復魔術で治せる。
そのため私の専門は専ら、薬の開発や病魔への対応が多いのだがね。
そんな私の研究室に、本日は珍客が訪れていた。
普段から助手として協力してくれているクローバーではなく、ルピナス、ヘリオ、ハートの三人。
揃いも揃って、神妙な顔をして並んでいる。
一体どんな深刻な相談かと思えば――。
「その、胸を大きくする薬を作ってほしいんです……!」
私自身はまだ年齢が一桁なこともあり、正直、彼女たちの悩みが理解できない。
どうしてそんなものが必要なのかと問い詰めてみれば、なんと彼は大きな胸が好きなのだと言い出した。
ふむ。
それは大いに困った。
彼は私の保護者を気取っている。
だが私としては、貴重な助手であり、何より観察対象として面白い彼を逃がすつもりは毛頭ない。
今は彼女たち三人だけで手一杯のようだが、そのうち私の魅力でも釘付けにしてやる予定なのだ。
それなのに、彼の好みが『巨乳』だというなら......私の計画に、大きな狂いが生まれてしまうではないか。
だが、冷静に考えてみれば『身体の成長を促す薬』というのは、非常に興味深いテーマだ。
ぜひとも試してみたいところだが……。
いかんせん、私の助手であるクローバーは男性だ。
彼に服用してもらって、効果を確かめるわけにはいかない。
「開発には協力者、つまり被験体が必要になるが……どうする?」
「喜んで実験台になります!」
「……協力は惜しまない」
ルピナスとヘリオが即座に身を乗り出してきた。
これで方針は決まった。
さっそく素材の選定に入ろうかと思った時だった。
それまで静かだったハートが、おもむろに手を挙げた。
「以前言っていた『興奮剤』なんですけど……。あれって、すぐに作れたりしますでしょうか?」
唐突なハートの問いかけに、私は眉をひそめた。
確かに作れなくはない。
だが、あれは強力な薬だ。
「作れるが……飲ませれば、彼から一晩中激しく求められることになるだろう。応えられるのかい?」
私の言葉を聞いた瞬間、三人は一斉に顔を赤くして何やら妄想し始めた。
……よほど、夜の彼は凄いのだろうか。
普段の貧弱な彼からは、到底想像もつかない。
まぁいい。
どうせいつかは、私も体験する予定のことだ。
私はノートを開いた。
「それでは、今後のためにも詳細なヒアリングを行うとしよう」
最近、恋人である三人やムスカリの態度が、なんだか妙によそよそしい。
用があって声をかけたり、服についているゴミを取ってあげようと手を伸ばすだけで、顔を背けられて怯えられてしまう。
何か、彼女たちの不興を買うようなことをしてしまっただろうか。
みんなに嫌われてしまったのではないかと、自分は猛烈な不安で胃を痛めていた。
あまりの不安に耐えかね、自分は態度が変わっていない残りのメンバーを集めた。
ホオズキ、ランティア、ナグサ。
この三人に、リビングの隅で密かに相談を持ちかけてみる。
「……うーん。特段、クローバーに対してどうこうはないと思うけどねぇ」
ランティアが首を傾げた。
ナグサとホオズキも、それに同意するように頷く。
「欠点をあげるとすれば、ちょっといけずなことぐらいかなー!」
「……いけずー」
「あのね、自分は今、ものすごく真面目に相談してるんだけど……」
茶化されている気がして、自分はがっくりと肩を落とした。
しかし、ため息をつく自分を見て、ランティアが微笑む。
「まぁまぁ、そう落ち込むなって。私たちがこっそりと事情を窺ってきてあげるからさ」
「え、本当?」
「いいよー! ここは私たちにおっ任せー!」
「報酬は、お菓子でいいー」
最後の一人はちゃっかり見返りを要求してきたが、それでも今は心強い。
自分は三人に心から感謝しつつ、彼女たちを送り出した。
果たして、一体何が原因なのだろうか。
一人残された自分は頭を抱えながら、ここ数日の自分の行動を必死に振り返るのだった。
しばらくして、偵察に向かった三人が戻ってきた。
自分はすかさず彼女たちへと近づき、成果を確認しようとする。
「どう? 何か分かった?」
だが、今度はこの三人の様子までがおかしかった。
なぜか頑なに自分と目を合わせようとせず、彼女たちの視線は一様に下へと向けられている。
「……ランティア?」
声をかけると、ランティアは顔を赤くして気まずそうに視線を彷徨わせた。
「……アンタはその、何も悪くないよ。これっぽっちも」
「え?」
「それとその、今までアンタのことを『いけず』だのなんだのからかって、本当に悪かったよ」
突然のランティアからの謝罪に、自分は呆然とする。
「アンタの愛はその、大きいからさ。今のアタシじゃ覚悟が足りないから……。ちゃんと覚悟が出来たらそん時は、また声をかけるからさ!」
「何の話?」
本当に訳がわからない。
助けを求めるように隣を見ると、ホオズキは手と手を向かい合わせたポーズのまま、魂が抜けたようにぼーっとしている。
ナグサに至っては、ゆで蛸のように赤面したまま、顔を両手で覆って一言も喋ろうとしない。
原因が判明するどころか、パーティーの全女性陣が自分に対して奇妙な反応を示すようになってしまった。
自分はいよいよ、頭を抱えてその場に座り込むことしかできなくなってしまった。




