#67 アキメネスとアセビ③
後日、自分たちは無事に工房都市へと帰還を果たした。
アキメネスの母親の入院手続き。
彼らの新しい住居の手配。
アキメネスとアセビの学校への入学手続き。
それらすべてを慌ただしく済ませ、自分は二人の少年少女に向き合った。
「何か困ったことがあったら、いつでも自分たちを頼ってね」
「う、うん。ありがと。……でも」
アキメネスは少しだけ視線を落とし、申し訳なさそうに指先を動かした。
「母ちゃんの治療費も、オレたちの学校の費用も、これからの生活費も……全部お兄さんたちに出してもらっちゃって。オレ、何か恩返しがしたいよ」
まだ小さな子供だというのに、なかなかに生真面目な少年だ。
自分は苦笑交じりに、彼の頭にぽんと手を置いた。
「それなら、これから学校へ通って、たくさん努力して、強く賢くなってよ」
「え……?」
「そうして、お母さんやアセビちゃんを、君の手でしっかりと守ってあげること。それが一番の恩返しだよ」
アキメネスはハッとしたように顔を上げ、隣にいるアセビを見つめた。
アセビもまた、信頼を寄せるような澄んだ瞳で彼を見返している。
少年は強く頷くと、何かを固く決心したように拳を握りしめた。
そうだ、それでいいのだよ少年。
やはり男たるもの、好きな女の子を守れるくらいでなくては。
まぁ......自分は無理だったんだけど。
「じゃあ、母ちゃんのお見舞いに行ってくる!」
「ありがとうございました!」
手を繋ぎ、仲良く並んで歩いていく二人。
その小さくなっていく後ろ姿を、自分たちは温かい目で見送った。
少しばかり余韻に浸り、振り返る。
ランティアとムスカリの二人が、ニヤニヤとしていた。
「『それが一番の恩返しだよ』、だってさ」
「いやいや、なんとも優しいお兄さんだね」
「二人とも、顔が笑ってるよ」
「とてもどこかの、いけずな男とは思えないねぇ~」
二人のからかいが心に突き刺さる。
そんな防戦一方の自分に、救いの手が差し伸べられた。
「わ、私はカッコイイと思いましたよっ!?」
「ボクも」
「流石ご主人様です」
ルピナス、ヘリオ、ハートの三人が、優しく自分に抱き着いてくれる。
味方は君たちだけだ。
「ありがとう、みんな……!」
涙目で彼女たちの温もりに癒やされていると、背後からムギュッと抱き着かれた
「こらホオズキ。しれっと混ざろうとしない」
「えー」
釈然としない顔をするホオズキの横から、今度はナグサが顔を覗かせる。
「それじゃあそれじゃあ! 堂々とならオッケー?」
「ダメに決まってるでしょ」
ため息を押し殺す。
ただでさえ自分は、すでに三人も恋人を作ってしまっているのだ。
これ以上浮気(?)をしすぎては、愛想を尽かされて彼女たちに捨てられてしまう。
それだけは何としてでも回避したい。
少しして、自分は冒険者ギルドの窓口を訪れていた。
今回の世界怪異との遭遇、および討伐についての報告のためだ。
「――なるほど。確かに他支部のギルドから届いていた情報と相違ありませんね」
ギルドの対応は迅速だった。
すでにあの隠れ里には、ギルドと国による合同の調査隊が派遣されているらしい。
過去の行方不明者の割り出しや怪異の亡骸の検証が進めば、時期にあの村人たちへの沙汰が下るはずだ。
一連の報告を終え、自分はどっと溢れた疲労感とともにギルドを後にした。
(……やっぱり胃に悪いな)
正直な話、今回の怪異討伐も、その後の信憑性を含めた報告も、すべては優秀なメンバーたちの手柄だ。
自分はただ、リーダーという役職ゆえに代表して窓口に立っているに過ぎない。
それでも、代表者面して仲間たちの功績を横取りしているようにどうしても感じてしまう。
「あ、お帰りなさい!」
外で待機していた仲間たちと合流する。
次は武器工房に向かう予定だ。
ルピナスの魔術籠手に異常がないかの確認や、他メンバーの武器も手入れをしてもらわねばならない。
あとは、どこかで一人になれるタイミングを見つけて、女神様への完了報告もしなければいけない。
やることが山積みだが、これがリーダーである自分の数少ない仕事だ。
気合を入れ直し、頑張ろう。
武器工房に到着し、さっそく全員の装備をローズさんに点検してもらう。
「これは……、随分強力なヤツと戦ったんだな。簡単に壊れるような手抜きはしてないが、念のため数日は預からせてもらうぞ」
結果、ルピナスの魔術籠手は幸いにも壊れてはいなかったが、怪異に掴まれた負荷もあり、数日ほど預けて手直しが必要だという。
「ごめんなさい……クローバーが私のために用意してくれた、大切な武器なのに……」
ルピナスは目に見えて肩を落とし、酷く落ち込んでしまった。
自分としては、武器の傷などいくらでも直せるから構わない。
「気にしないで、ルピナス。自分にとっては、武器よりもルピナスが無事だったことの方がずっと大切だから」
そう告げると、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
とにかく、我がパーティーの要である前衛の戦力ダウンは痛い。
ここは数日ほど、思い切って休養日に充てることにしよう。
その後、自分たちは我が家へと戻った。
自室に入り、女神様へ特別依頼の完了報告を行う。
無事に両名を巡り合わせ、二人の身の安全を確保し連れ帰ったことを。
『――はい、全て完璧に対応していただいてありがとうございます。本当にお疲れ様でした~!』
女神様は、報告内容にとても満足しているようだった。
だが、その声はすぐに申し訳なさそうなトーンへと変わる。
『それにしても、まさか目的のお二人がいた村がそんなに危険な場所でしたとは……。世界怪異と戦闘までする形になってしまい、本当に申し訳ありませんでした』
「いえ、メンバーたちの頑張りのおかげで、なんとか全員無事でしたので」
自分がそう返すと、女神様は今回の報酬を渡してきた。
『今回の報酬としては、メンバーお一人につき百万フラを。それと、こちらのチケットを差し上げますね』
一人当たり百万フラ、日本円にして百万円だ。
それだけでもメンバーは大喜びするだろう。
それだけでも破格だったが、さらに手渡されたチケットは豪華な宿泊券だった。
聞けば、ラフロー王国の隣国、シイド共和国にある超一流リゾートホテルのチケットらしい。
『隣国ですので移動に時間はかかってしまいますけど、もし機会があれば、ぜひ皆さんで素敵なバカンスを過ごしてきてくださいな』
無事に報告を終え、自分はリビングでメンバーに報酬を分配した。
そこでついでに、手渡されたチケットについて切り出してみる。
すると、ランティアがシイド共和国について詳しく教えてくれた。
「シイド共和国は、ラフロー王国と違ってかなりの領土が海に面した海浜国だね。観光に力を入れていて、賭博都市なんて街もあるぐらいだ。……ただ、流石に隣国だからね、片道だけでも二十日は見ておいた方がいいかもね」
メンバーたちがチケットを、目を輝かせながら見つめている。
見たことがない本物の海。
そこで泳いだり観光したり、豪華ホテルに宿泊できる夢のようなバカンスだ。
みんな完全にその気になっているが、自分は慌てて待ったをかけた。
「ちょっと待ってみんな。流石に往復だとかなりの時間とお金がかかる。それに万が一のことがあったら困るから、まずはルピナスの武器の点検が終わるのを待ちたい。だから、今すぐ行くのは難しいよ」
自分の指摘に、メンバーは少しだけ冷静さを取り戻した。
「それにさ、どうせ海で泳ぐなら、一番最高の時期に行きたいじゃない?」
「最高の時期……?」
「あと数か月もしたら夏なんだから、そこに向けてしっかり準備をして、バカンスを楽しむのはどうかな?」
自分の提案に、メンバーの顔がパッと明るくなった。
「賛成です! それでしたら私は、水着を作ってみたいです!」
「おっ、いいじゃないか水着。アタシも作っちゃおうかな~」
「ボク、海、楽しみ」
「わーい! みんなで旅行だー!」
「バカンスー」
「まぁ、たまには環境を変えての休暇も悪くないだろうね」
「ご主人様、最高の夏にしましょうね!」
こうして、自分たちの『真夏のバカンス計画』が決定した。
そのためにも、まずはスケジュール調整や金策などを地道に頑張らなければ。




