#7 出番だキューピッド!
新しくパーティーに加入したハートの冒険者登録を済ませ、自分はさっそく彼女のギルドカードを確認させてもらった。
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ブリーディングハート 人族×狐獣人ハーフ/女 14歳
職業:従者 冒険者ランク:E
能力値(最大数値10)
筋力:3
耐久:3
魔力:3
知力:5
俊敏:6
器用:6
運命:5
成長:8
所持スキル
下級回復魔術
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カードを確認して、自分は不覚にも少しだけ感動してしまった。
自分にかなり近い能力値。
今までに加入したルピナスとヘリオがどちらも規格外だったため、疎外感がなくて嬉しい。
だが同時に、成人済みの十六歳の自分と、十四歳の年下の少女が同じ筋力なのだと判明し、自尊的なものはゴリゴリに削れた。
それはそれとして、ハートは特徴的なデメリットが今のところなさそうだ。
異常な能力値もないし、不穏なマイナススキルも所持していない。
この事実は、リーダーとして一番嬉しいかもしれない。
あれこれと余計に悩まなくてもよいのだから。
――だが、念のために彼女の『下級回復魔術』について確認だけしておくことにした。
「ねぇハート。一応の確認だけど……回復魔術を使ったら杖とか消費したりしない?」
「杖ですか? 私は魔術師ではありませんし、使えるのも下級回復魔術だけですので杖は不要ですが……」
「じゃあ回復相手が『破裂』したりもしない?」
「……あの、ご主人様。どうして回復魔術で、そんな『破裂』なんて単語が出てくるのでしょうか?」
ハートは狐耳をぴくぴくと震わせて、本気で心配そうな目でこちらを見つめてきた。
「ううん、ごめんね。特に深い意味はないんだ。気にしないで」
自分は笑顔で誤魔化した。
どうやら彼女の回復魔術は安全らしい。
これならヘリオがルピナスの魔術で動けなくなっても、ハートに回復してもらえばなんとかなりそうだ。
本格的に導入を検討していた『荷台』は購入しなくて済みそうである。
だが、実戦のぶっつけ本番で「やっぱり効きませんでした」では絶対に笑えないため、安全性を考えて、ひとまずテストしてみることにする。
街のすぐそばの平原まで移動し、そこでルピナスの魔術を一度だけ空撃ちしてもらい、その回復効果を見てみることにした。
もちろん、魔術を撃つので一本5万フラという大金は吹き飛んでしまうが、命に関わる先行投資と考えて割り切るしかない。
「ルピナス、準備はいいかい? 周囲に誰もいないことは確認したから、とりあえず空に向かって魔術を空撃ちしてみてほしい」
「はい! 分かりました!」
ルピナスが元気に返事をして、空に向けて杖を構える。
自分の隣に立っているヘリオは、今から訪れるであろう気持ち悪さを想像して、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
ハートはいつ出番が来てもいいように、狐耳をピンと立てて身構えて待っている。
「それではいきます! 火の中精霊よ、我に力を貸したまえ。――『プルカイア<火災>』!!!
」
ルピナスが魔術を唱えると、巨大な火球が天高く撃ちあがり、上空で爆音を立てて盛大に弾けた。
激しく飛び散った火の粉は、幸いにも地面に落ちる前に溶けるように消えていった。
なんだか、花火の種類の一つの『しだれ柳』のようだ。
――そして、案の定。
ルピナスの凄まじい魔力の余波を浴びたヘリオが、とガシャリと音を立ててその場に倒れた。
「ハート、回復をお願い」
「はい! 下級回復魔術」
自分の指示に、ハートがすかさずヘリオへと小さな手をかざし、優しく緑色の光を注ぎ込んでいく。
だが、光を浴びているヘリオは、すぐにはシャキッと立ち上がらない。
どうやら、彼女の使える『下級回復魔術』は、一瞬で傷や体調不良を癒やすものではなく、時間をかけて徐々に効果を発揮していくタイプらしい。
回復まで少し時間がかかりそうなので、自分はヘリオの様子を見守りながら、ルピナスとハートに回復魔術について教えてもらうことにした。
彼女たちの話をまとめると、以下の四つのランクに分かれているらしい。
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回復魔術ランク
下級:ある程度のケガや体の不調を、時間をかけて徐々に治せる。
中級:少しの時間で、かなりの大怪我でも治せる。
上級:どれほど凄まじい大怪我であっても、瞬時に完治させる。
特級:最上位。失った腕や足といった『身体の欠損』すら完全に再生できる。
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特級に至っては、習得者自体が世界でもほんの数人しかいないという、国宝級・生ける伝説レベルの希少さらしい。
「……もう大丈夫。体が自由にうごかせる」
ちょうど説明を聞き終えた頃、ヘリオが元気よく立ち上がった。
感覚として、およそ五分。
実戦の最中であれば少し長い時間だが、戦闘が終わった直後の休憩であれば十分に実用的な範囲内だ。
今後はルピナスが魔術を使用するたびに、ヘリオを引きずって帰る必要がなくなる。
我がパーティー『キューピッド』がようやく普通に活動できそうだ。
神様に感謝したいところだが、その神様のせいで余計な手間が増えているので考えるのをやめた。
そんなわけで、メンバーから離れて一人になったタイミングで、自分は脳内で女神様に連絡を取り、通常業務を始められる段階になった旨を報告した。
『なんとかメンバーが揃えられたようで何よりです! それでは早速、記念すべき最初のお仕事を一つお願いさせていただきますね!』
「……少し期間が空いてしまったので一応確認したいんですが、仕事の内容は『指定した人たちを直接対面させること』で間違いないですよね?」
『はい、そうです! 決められた二人を直接会わせてさえいただければ、あとは『いい感じの効果音』とともに現地でなんとかなりますので!』
「……いい感じの効果音?」
『えぇ、パパパパーンというトランペット音とか、かーんこんーという教会の鐘の音など、対象者によって様々ですけど……だいたいそんな感じの音です!』
恋に落ちた音、みたいなものをイメージすればいいのだろうか。
色々とツッコミどころはあるが、愛の神様の仕事だ。
深く考えないでおこう。
「ちなみに、どうやってその二人を会わせればよいでしょうか。何か指定の手順とかがありますか?」
自分は実務的な質問を投げかけた。
すると脳内の聖なる声は、驚くほど軽いノリでとんでもないアドバイスを口にした。
『そうですね……普通に片方を説得して目的地まで同行していただくのが一番ですけど、もし説得が難しそうなら、後ろから頭をゴツンとやって『拉致』しちゃうのも一つの手段かと!』
「……説得、全力で頑張りますね」
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『愛の神』より特別依頼
対象者①:ベリーナ/女性
所在地:コランの町
身分職業:商人
対象者②:ペルシャン/男性
所在地:ニゲラ村
身分職業:村人
【達成条件】
上記二名を『直接の対面』させること。
(※対面成功時、いい感じの効果音とともに縁が結ばれます)
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女神様より渡された資料によれば、商人の女性と村人の男性を対面させるのが任務のようだ。
幸いなことに、女性のベリーナの方は、現在自分たちが滞在しているここ『コランの町』にいるらしい。
まずは彼女の方から、接触を図ってみることにしよう。
メンバーと再び合流し、ルピナス、ヘリオ、ハートの三人へ向けて『特別な仕事』が正式に入った旨を伝えた。
そして、これから町を出て別の村へ移動する可能性も視野に入れ、三人には旅に必要な食料や物資の調達を、それぞれ分担してお願いしたのだった。
「……さてと、説得がうまくいくといいんだけど」
ターゲットの一人であるベリーナが所属する商会に赴き、受付の女性に彼女へのアポをお願いしてみたところ、突然の来訪者だというのに随分とスムーズに応接室へ案内された。
そこで待っていると、前世で言うところの『バリキャリOL』の雰囲気を醸し出した、仕事の出来そうな女性が入ってきた。
彼女はどこか、若干そわそわしているように感じられるが……気のせいだろうか。
「初めまして、自分は冒険者をしているクローバーと申します。本日は急な訪問にもかかわらず、お時間をいただきありがとうございます」
「いえ、問題ありません。礼儀正しくルックスも悪くな……ではなく、それで! わっ、私に御用とはどのような内容で?」
「? 実は唐突なお話なのですが、自分についてきていただきたい場所がありまして」
「いっ、いいいいきなり逢引ですか!? 見かけによらずガツガツ来るタイプなのですね……!」
なんだか、最初から少し話が組み合っていない気がする。
「積極的な方は嫌いではありませんが、まずはこう……手順として告白ぐらいしていただかないと」
「告白? ……何をですか?」
「……私に、愛の告白しに来られたのではないのですか?」
詳しく話を聞いたところ、どうやら最初に対応してくれた受付の女性が盛大に勘違いして、彼女へ伝えていたらしい。
『冒険者の格好をした若い男性が、一職員のベリーナをわざわざ指名して呼んでいる。きっとこれは愛の告白だ』と。
そこからは、勘違いに気づいて『期待』が『怒り』へと一瞬で変化した彼女の、愚痴のマシンガントークが始まってしまった。
「あなたにわかりますか? 同期が全員結婚して、毎日毎日毎日毎日、惚気話を聞かされる私の身が! 部下にも新人にも恋人がいて、この職場で結婚どころかパートナーすら一度もいないのは私一人だけなんですよ!? それでついに私にも春がキター!! とか思っていたら、なんなんですかこの世界は!」
先ほどのそわそわした態度は気のせいではなかったようだ。
彼女は極限まで愛に飢えていたのだ。
さっきまでのバリキャリの面影は完全に崩壊し、血の涙を流しそうな勢いで机を叩いて大号泣している。
扉の隙間から、「何事か」と覗いている同僚の人たちの視線もとても痛い。
なぜ自分が悪者みたいな状況に……。
自分はなんとかこの場を切り上げたい思いで、彼女に本題を切り出した。
「――ベリーナさん。あなたの『運命の相手』は私ではありませんが、自分は貴方の『運命の相手』の元までご案内することはできます。ですので、自分の所属しているパーティーに同行していただけないでしょうか」
彼女の身体が、ピクリと反応した。
「……同行は、どちらまでですか?」
「ニゲラという村までです」
「ここからですと、片道二日ほどの距離ですね。ふむ……」
彼女はそう言って一度席を立ち、数分ほどして戻ってきた。
「職場に相談して、五日ほどお休みをいただきました。案内、よろしくお願いします」
――説得(?)は、無事成功したようだ。
彼女の出会い願望が想像以上に強くて大いに助かった。
「ちなみに、もし嘘偽りがあった場合、どのような手を尽くしても、あなたを社会的にも物理的にも追い詰めますのでご覚悟を」
ベリーナさんは完璧な、けれど目が一切笑っていない笑顔でそう付け加えた。
(……あれれー? 助かってないぞ?)
もし、ニゲラ村にいる男と彼女が『運命』を感じなかったら、自分は確実に消される。
神様に祈りたいところだが、万が一あのドジな女神のミスがあったらどうしよう……。
自分はこれまでにない命の危機を感じながら、急いで仲間たちと合流地点へ急ぐのだった。




