#63 お友達八番勝負
唐突に決まったキューピッド対クンシランペアの八番勝負。
「あの、ちなみに勝負の内容はどのように?」
「そんなの、そちらの得意な分野で勝負してよろしいですわよ!」
「……はい?」
「ですから、そちらの得意分野でかまいませんわよ!」
自分の聞き間違いかと思ったが、どうやら間違いなかったようだ。
何故わざわざ相手の得意分野で戦おうとするのだろうか。
もしや、彼女とお供は超ハイスペックなのかもしれない。
自分は不安になり、ヘリオに視線を向ける。
「……大丈夫。彼女はいつもあんな感じ」
「いつも?」
こうして、勝負の火蓋が切られた。
第一回戦。
ヘリオvsクンシラン。
種目は腕相撲勝負。
まさか我がパーティー最強の力を持つヘリオ相手に、真っ向から力比べを挑むとは。
ヘリオのお友達であるクンシランも同じく怪力なのか、それとも何かヘリオの弱点を知っているのだろうか?
自分が冷や汗を流しながら見守る中、ルピナスの合図とともに試合が始まった。
「始めっ!」
合図の瞬間、ヘリオが軽く力を込めただけで、クンシランの体が勢いよく宙を回転した。
「ぎゃあああああーーー!?」
何か秘策があるのかと思っていたが、何もなかったらしい。
瞬殺でヘリオの勝利となった。
第二回戦。
ハートvsオシロイ。
種目は百メートル走勝負。
今度はクンシランの従者である、あの臆病な少女、オシロイが前に出された。
「オシロイ! アナタの凄さを見せておやりなさい!」
クンシランが後ろからエールを送っている。
当のオシロイは青ざめてオドオドしているが、彼女も従者だ。
一体、どれほどの実力を隠し持っているのだろうか。
自分がゴクリと唾を飲み込む中、スタートの合図が鳴り響いた。
二人が一斉に走り出した――。
かのように思えたが、実際に走っているのはハートだけだった。
「ひゃうっ!?」
オシロイはスタートの瞬間、盛大にずっこけていた。
「うう、うぇぇん……」
彼女は涙目になりながらも、どうにか立ち上がる。
そして、既にゴールテープを切ったハートの遥か後方で、息を切らしながら一生懸命にトボトボと走っていた。
第三回戦。
ランティアvsクンシラン。
種目は知識勝負。
今度は打って変わって、頭脳を使った知略戦。
クンシランの自信満々な表情から察するに、今度ばかりは一筋縄ではいかないだろう。
まずは先行のクンシランが問題を出した。
「問題ですわ。ラフロー王国の上流貴族、すべて言えますかしら?」
そこそこの難問だ。
だが、ランティアは苦も無く正解を答える。
「ヴァーミリオン家、マンダリン家、アンバー家、ビリジアン家、アズール家、インディゴ家、バイオレット家」
スラスラと淀みなく答えていく。
「ちなみに中流貴族はキャンベル家、エドガー家、キング家、ポー家、クリスティ家――」
「もっ、もう結構ですわ……!」
クンシランが慌てて制止した。
今度は後行のランティアが出題する番だ。
「それじゃあアタシの番だ。現在確認されているスライミー種の種類は、全部で何種類?」
「ええと……」
クンシランは眉間にシワを寄せ、指折り数えながら絞り出すように答える。
「……スライミー、ビッグ、レッド、ブルー……な、七種類かしら!」
あまりにも自信なさげな解答。
そんなクンシランに対し、ランティアはあっさりと首を横に振った。
「正解は十七種類だよ」
「そんなにいますのっ!?」
クンシランは頭を抱えて悩み倒した末、盛大に間違えて勝負はあっけなく終了した。
第四回戦。
ルピナスvsオシロイ。
種目は魔術勝負。
どちらがより強力な魔術を放てるかという勝負で、先行はオシロイだ。
「みっ、水の小精霊よ、我に力を貸したまえ。――『ネルロース<大水球>』!!!」
彼女が震える手で魔術杖を構えて呪文を唱えると、中級水魔術によって見事な大水球が放たれた。
身体能力は高くないようだが、魔術の腕はなかなかのものらしい。
これにはクンシランもドヤ顔を浮かべている。
続いて、後攻のルピナス。
「水の小精霊よ、我に力を貸したまえ。――『ヴロヒェロース<雨>』!!!
彼女が魔術籠手を構えて呪文を詠唱すると、周囲一帯の空気が一変して凄まじい大雨が降り注ぎ始めた。
同じ中級水魔術ではあるが、圧倒的な魔力差を見せつけたため、当然のようにルピナスの勝利となった。
次の五回戦に移ろうとしたのだが、雨がやまない。
「ねぇルピナス、雨がやまないんだけど」
「……すみません。張り切り過ぎました」
仕方がないので、自分たちは一旦室内に避難し、インターバルを兼ねたお菓子休憩を取ることにした。
第五回戦。
ホオズキvsオシロイ。
種目は再度の魔術勝負。
先行のホオズキが、自身の召喚獣たちに合図を出した。
「やれー」
すると、可愛らしい見た目の召喚獣たちから、凄まじい火力を森に向けて叩き込まれた。
極太のウォーターカッター。
雷。
猛烈な火炎放射。
巨大な氷塊などなど。
「ふぇ……?」
その光景をぽかんと眺めていたオシロイは、戦意を喪失してクンシランに抱き着き猛抗議を始める。
「無理です無理です無理です無理です無理です無理です無理です!!」
「わかりましたから! 貴方の降参で構いませんから、とりあえず私に抱き着くのをお止めなさい!」
これでクンシランペアは怒涛の五連敗。
ここまでくるとおおよそ見当がついてきたため、自分はそっと遠い目をせざるを得なかった。
第六回戦。
ナグサvsオシロイ。
種目は鬼ごっこ勝負。
ルールはシンプルに、制限時間内に相手にタッチできれば勝ちというもの。
まずはナグサが鬼、オシロイが逃げ手という形でスタートした。
開始の合図が鳴り響いた瞬間。
「……あれ?」
オシロイが間抜けな声をあげた。
目の前にいたはずのナグサの姿が、一瞬にして綺麗さっぱり消え去ってしまったのだ。
オシロイは状況が掴めず、辺りをきょろきょろと見回して戸惑っている。
上か、下か、あるいは物陰か。
どこを探しても、ナグサの気配は微塵も感じられない。
その時、オシロイの背後にナグサの姿が現れた。
「はいタッチー!!」
「ひゃあああああああーーーっ!?」
実体化しながら耳元で囁いたナグサに、オシロイは飛び上がって絶叫した。
そのまま腰を抜かし、地面へへたり込んでガタガタと震えている。
彼女はナグサが幽霊だと知らないため、さぞや怖かっただろう。
なんだかとても申し訳ない気持ちになってきた。
今度はオシロイが鬼となり、ナグサが逃げる番だ。
オシロイは涙目になりながらも両手を前に出し、今度こそとナグサを追いかけようとする。
対するナグサはというと、そのまま上空へと浮かび上がった。
「あっ、ずるいですぅ……!」
地上に置き去りにされたオシロイは、空中に浮くナグサに対して下から懸命にジャンプを繰り返す。
ぴょん、ぴょん、と健気に飛び跳ねるオシロイ。
しかし、当然ながら全然届かない。
「いいですわよオシロイ! もう少しで届きましてよ!」
クンシランが必死に応援しているが、どう見ても届きそうにない。
結局、そのまま時間切れとなってしまった。
第七回戦。
ムスカリvsクンシラン。
種目は再びの頭脳勝負。
今度の戦いは、制限時間内にどれだけ正確に計算できるかを競う算術対決だ。
ここまで一度も勝てていないクンシランは、対戦相手のムスカリを見て勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「あら、次はそちらの子が相手ですの? 流石にこのような幼子を相手に、大人の私が負けるわけがありませんわ!」
それもそのはず、ムスカリはまだ八歳だ。
クンシランが幼児だと侮るのも無理はなかった。
「随分と簡単な問題ばかりだね。勝負になるのかい?」
だが、当のムスカリは気怠そうにあくびを噛み殺しながら、淡々と答えを埋めていく。
そして、終了の合図とともに採点が行われた。
結果は、ムスカリが全問正解。
対するクンシランは、数箇所を不正解。
「な、なぜですの……! あんな幼児に、私が負けるなんて……っ!」
クンシランは自分の答案用紙を握りしめ、膝からその場に崩れ落ちた。
誇り高きお嬢様のプライドが粉砕されかけている。
さすがに見ていて可哀想になってきたため、自分はフォローを入れるためにクンシランへ声をかける。
「あの……ムスカリはこう見えて、物凄く賢い錬金術師なんです。あまり落ち込まないでください」
「れ、錬金術師……? あの子がですの?」
自分の言葉を聞き、クンシランは少しだけ顔を上げた。
高い知力を必要とする錬金術師。
そんな相手に負けたのなら、それは仕方がないことなのかもしれない。
一瞬、そう思いかけたクンシランだったが、すぐに頭を抱えて身悶えした。
「――どんな理由があろうとも、やっぱり八歳児に負けたのはめちゃくちゃ悔しいですわーーーっ!」
それはそう。
自分だって負けたらメチャクチャへこむ。
第八回戦。
クローバーvsクンシラン。
種目は料理対決。
ここへ来て、ついに自分の出番が回ってきた。
これまで全敗しているはずだが、クンシランは何故か自信満々だ。
彼女は満面の笑みでステーキをこしらえた。
焼き上がったお肉を、自分とオシロイの前に差し出してくる。
……食べられなくはない。
食べられなくはないのだが、肉の旨味が逃げていてなんだかパサパサしており、美味いかと言われるとかなり微妙なクオリティだった。
従者のオシロイも、なんとも言えない絶妙な表情を浮かべながら、必死に主人の料理を咀嚼している。
次に、自分が調理したステーキを差し出した。
「あら美味しい。我が家のコックと比べてもいい腕ですわね」
「美味しいですぅ〜、お代わりをお願いしますぅ〜」
オシロイにいたっては、綺麗に平らげてしまっていた。
それどころか、キラキラとした瞳で早くもおかわりを要求してくる。
彼女はもうちょっとこう……主人の手前、遠慮とかしなくて大丈夫なのだろうか。
すべての勝負が終了し、今までの結果が順に発表されていく。
クンシランとオシロイは、固唾を呑んでその結果を見つめていた。
(結果を聞くまでもなく彼女たちは全敗していたはずだが、アレは一体何の緊張なのだろうか……?)
自分は心の中でそっとツッコミを入れる。
そんな空気をお構いなしに、ランティアがひらひらと採点表を揺らした。
「えー結果は、アンタたちの全敗だね」
非常な最終結果が告げられた瞬間。
クンシランとオシロイはその場にガックリと膝を突き、激しく落ち込み始めた。
「こ、個性のゼリー寄せみたいな連中に、まさか全敗を喫するなんて……っ! 一生の不覚ですわーーっ!?」
個性のゼリー寄せについては否定はしないが、相手の得意分野ばかりに勝負を挑んだら敗北は当然である。
彼女たちのあまりにも無謀すぎる挑戦に対し、自分は心の中で頭を抱えざるを得なかった。
どうしても気になってしまい、自分は彼女たちに尋ねてみる。
「あの、クンシランさん。どうしてわざわざ、みんなの得意なことばかりを勝負の種目に選んだんですか?」
すると、クンシランはすっと美しく背筋を伸ばした。
高潔な誇りを感じさせるトーンで胸を張る。
「決まっていますわ! マンダリン家の令嬢たるもの、姑息な真似はいたしません! 相手の最も得意とする分野に正面から挑んで、叩き潰してこそですもの!」
「クンシラン様、とっても格好いいですぅ~」
隣でオシロイが目を輝かせて拍手を送っている。
最初はちょっとだけ頭の残念な人たちなのかと思ってしまっていたが、どうやらそうではないらしい。
彼女たちは、不器用なまでに志が高いのだ。
どこまでも真っ直ぐで、誠実な人たちなのだろう。
そんな風に、自分の中で彼女たちの評価が見直されつつあったその時。
全敗してしょんぼりしているクンシランの前に、ヘリオが近づいていった。
(友達を慰めるのかな?)
そう思って温かい目で見守っていると。
「……ボクたちの勝ち」
ヘリオはいつもの無表情のまま、両手でダブルピースを作って盛大に煽りだした。
「むきぃぃぃぃぃーーーっっっ!!!」
案の定、クンシランが激昂する。
「ちょ、ちょっとヘリオ!? 煽らないの! クンシランさんも落ち着いてくださいっ!!」
自分は必死になって二人の間に入り、慌てて仲裁に回る。
「ほら! これ以上ここで騒いでもあれですし、家の中で別のデザートでも食べながら落ち着きましょう!」
なんとか二人を引き剥がし、宥めるように室内へと案内する。
改めて、室内でのデザートタイム。
クンシランは少しだけ表情を和らげ、お皿を見つめながらぽつりと呟いた。
「……とにかく、今日は私たちの負けですわ。まだ完全に納得したわけではありませんが、仮で、貴方のことはヘリオの……その、お婿さんとして認めてあげますわ」
「クンシラン様、素直でとっても素敵ですぅ~」
オシロイにそう言われて、ふいっと顔を背けるクンシラン。
文句を言いながらも、彼女は結局、友人であるヘリオの幸せを誰よりも願って心配してくれていたのだろう。
やがてすべてを食べ終えると、クンシランはドアの前に立ち、ビシッと自分を指差した。
「しかし! 完全に認めたわけではありませんからね! 今回は仮です、仮! また絶対に、貴方たちへ勝負を挑みに来ますわ!」
「その時はまた、美味しいものを一杯食べさせてください~」
最後にとびきりの捨て台詞を残したクンシランと、お腹いっぱいで満足そうなオシロイ。
二人は最後まで賑やかに去っていった。
「……ヘリオ。面白いお友達だね」
遠ざかる二人の背中を見送りながら、自分はヘリオに声をかける。
すると彼女は、いつもより少しだけ柔らかな声で答えた。
「……うん。ボクの数少ない、大切な友達」
彼女のその言葉に、自分も温かい気持ちになる。
今回のドタバタも、なんだかんだ結果オーライだったな、と自分は小さく微笑んだ。
――PS.
外に干していた洗濯物は、雨によって全滅したため、このあとすべて洗い直しになりました。




