#62 ヘリオのお友達
今日は自分の洗濯当番日。
作業はまず、メンバー達から洗濯物を集めることから始まる。
基本的には各自で洗濯籠に衣服を入れておいてもらう形だが、ホオズキ、ランティア、ムスカリの三人には注意が必要だ。
彼女たちは家事に非協力的な上に、生活スキルが壊滅している。
放っておくと部屋は散らかしっぱなしで、洗濯物もすぐに溜め込む。
彼女ら三人に声をかけ、部屋から洗濯物を回収させてもらう。
服に肌着だけではなく、下着も気にすることなく渡してくる。
別に毎回恥じらいながら渡せとは思わないが、気にしなさすぎるのもどうなのかと不安になる。
このままで彼女たちは、将来よい相手を見つけられるのだろうか。
そんな余計な心配が頭をよぎる。
壊滅三人組から回収し終えた後は、愛するルピナス、ヘリオ、ハートの三人と、家事に協力的なナグサに出し忘れた洗濯物がないか確認して引き取り作業は完了する。
次に洗い作業。
この世界には洗濯機はまだ存在しないため、水桶に洗濯板を使用する。
服を傷つけないように、力加減に注意しながら慎重に洗っていく。
下着も洗うことになるが、前世では妹や弟がいて家事を手伝うことも多かったため、特に抵抗はない。
最後に脱水をして、庭に干せば洗濯は終了だ。
後は乾いたものを、各メンバーが自分たちで回収していく。
一通りの作業が終わったところで、何やら玄関のほうから騒がしい声が聞こえてきた。
自分は警戒しながら、恐る恐る玄関の様子を窺う。
するとそこには、見たことのない二人の少女が召喚獣たちに取り囲まれていた。
「あわわわわわわわ、なんか可愛いのに囲まれてますよぉ……!」
「ちょっと、何をこんな愛らしい子たちを相手に怯えていますの。ほらほら、もう少し近くにいらっしゃいな」
一人の少女が、トコトコと近づいてきた小さなヒヨコに無邪気に触れようとした瞬間。
ヒヨコは触られるのを拒絶し、鋭いクチバシで少女の指先を激しく突っついた。
「ッツ!? 噛みつかれましたわーー!?」
「ひえぇぇ! やっぱり狂暴な生物ですかー!?」
なんとも賑やかというか、騒がしい来客たちだ。
流石に命を狙う刺客とも思えないため、彼女たちに声をかけることにした。
「あの……、我が家に何か御用でしょうか?」
すると彼女たちは、人が出てきたことに胸を撫で下ろし用件を伝えてきた。
「失礼いたしましたわ。私はクンシランと申します。こちらに、ヘリオトロープ・バイオレットさんが住んでいらっしゃるはずなのですが……」
どうやら、ヘリオの知り合いらしい。
自分は彼女たちに少々お待ちいただくよう伝え、ヘリオを玄関まで連れてきた。
ヘリオは彼女の姿を認めると、いつもと変わらないトーンで右手を挙げた。
「久しぶり、何しに来たの?」
「何しに来たのって、貴方が手紙で呼んだんじゃありませんの! 以前からずーっと語っていらっしゃった、例の殿方と再会できたから私に紹介したいって!」
「……ごめん。忘れてた」
「まったく、貴方って人は相変わらず……。それで? その噂の彼はどこにいらっしゃるんですの? 貴方がそこまで執着していた、例の素敵な殿方は」
クンシランが期待に胸を膨らませるように、きょろきょろと周囲を見回す。
すると、ヘリオは自分のことを指差した。
「彼」
「はい?」
「彼がクローバー」
ヘリオの友人、クンシランから何度も凝視される。
今の自分は、先ほどまで洗濯をしていたために家政婦のような恰好をしている。
見た目だけで言えば、完全に使用人だ。
「……使用人ではなく?」
「うん」
「……」
ヘリオのブレない言葉に、クンシランがフリーズする。
すると、玄関の騒がしさを聞きつけて、家の中から他のメンバーも出てきてしまった。
「ヘリオ、彼女たちは誰ですか?」
ルピナスが不思議そうに首を傾げると、ヘリオが淡々と紹介を始める。
「友達のクンシラン。……クンシラン、こっちにいるのがボクの仲間たち」
「あら、それは……。皆さん、とても凛々しくてお綺麗な方々ですわね」
クンシランが少しだけ感心していると、ヘリオはそのまま余計な情報まで伝えてしまった。
「それと、そこにいるルピナスとハートは、ボクと一緒で、彼のお嫁さん仲間」
「は――――????」
クンシランの痛すぎる視線が、再び自分へと向けられる。
今度は怒りすら孕んだ凄まじい眼光だった。
彼女が自分に詰め寄ってくる。
「ちょっと貴方! 純粋なヘリオをどうやって騙したんですの!? ことと次第によってはタダじゃおきませんわよ!?」
「ク、クンシラン様、落ち着いてください……っっ!」
彼女の後ろに控えていた少女も、大慌てで宥め始める。
「……騙されてない」
ヘリオがすぐさま自分の援護してくれる。
ありがたいのだが何分、彼女は圧倒的に言葉が足りない。
クンシランは拳を強く握りしめ、自分をビシッと指差して高らかに宣言した。
「決めましたわ! そこまでヘリオが言い張るのなら、貴方がヘリオにふさわしい殿方かどうか、私たちが直々に試させていただきますわ!」
どうしよう。
面倒ごとに巻き込まれてしまったぞ。
自分が頭を抱えていると。
「面白そう。ボクも参加したい」
「……ヘリオ?」
なぜか、当事者であるヘリオまで乗り気になってしまった。
「わたしもー」
「いやー、ちょうど暇だったんだよ」
止めるどころか、ホオズキやランティアたち他のメンバーまで面白がり始めてしまった。
「いい覚悟ですわ! そこまでやる気があるのでしたら、そちらの人数に合わせて勝負ですわ!」
相手のクンシランまで、面白がってしまった。
こうして自分とヘリオ、メンバー達まで巻き込んでのクンシランによる試験が始まるのだった。




