#61 結成記念日の贈り物
季節はもう春。
キューピッドを結成して一年が経過した。
……正確には、さらに二~三か月の月日が過ぎてしまっている。
自分の呪いや、その後のリハビリのせいでそれどころではなかったのだのだ。
しかし、こうして気付いてしまった以上は何もしないわけにもいかない。
(一年記念か……)
いつもなら、お祝いの時は決まってパーティーをしている。
だが、イベントの度に同じことの繰り返しでは、面白みに欠けてきてしまう。
せっかくの結成記念日だ。
どうせならいつもとは一味違う、みんなの思い出に残るような特別な何かをしたいところだが……。
かといって、何か出し物を考えたり、社員旅行みたいな催しを企画しても、好まれないかもしれない。
自分だってそうだ。
前世の会社ではそういう強制イベントが嫌いだった。
せっかくのお祝いで、気を使わせてるようなイベントは避けたい。
(……ダメだ。一人で頭を抱えていても名案なんて浮かびそうにない)
自分の引き出しの少なさに苦笑する。
圧倒的に女性が多いパーティーなので、イベントの方向性については同性に意見を仰ぐのが一番だろう。
一人で悩むのを諦め、今は恋人として誰よりも信頼できる三人に相談してみることにした。
すると三人は、何か記念品でも配ったらいいのではないかと意見をくれた。
確かに記念品であれば、貰う方も過度な義務感を感じずに気が楽かもしれない。
自分は「消え物のお菓子」を提案してみたが、普段からよく配ってくれるので特別感が薄いと言われてしまった。
その後も消え物のアイデアをいくつか出してみたが、すべて却下されてしまった。
代わりに三人が勧めてくれたのは、形の残る、あの『冬用コート』のように役立つものだった。
言われてみれば確かにそうだ。
最近は暖かくなってきたのであのコートも仕舞われているが、あれは実に便利だった。
どうせなら、日常的に使える実用的なものがいいかもしれない。
(形の残って実用的なもの……)
自分は必死に頭を悩ませ、ふと思いついたアイデアを口にしてみた。
「それなら、装備品。それもお守り効果のあるような品物なんてどうかな?」
「お守りですか? 確かに、それならば身に着けやすいですね!」
「……うん。すごくいいと思う」
「何か良い効果があれば、実用性も抜群ですね」
三人からもそれならば喜ばれるだろうと、賛同してもらえた。
方針が決まったので、早速工房の知り合いに相談することを決める。
お守りなのでどちらに相談すればいいか迷ったが、まずは防具工房から訪ねることにした。
早速マルゲリータさんに相談すると、彼は顎を撫でながら問いかけてきた。
「お守りねぇ……。悪くはないと思うけどさ、せっかく女の子たちにプレゼントするんだ。身に着けやすいように、アクセサリーも兼ねたらどうだい?」
確かに「健康祈願」のようなザ・和風のお守りよりは、そちらの方が喜ばれそうだ。
「種類も色々あるよ。リング、ネックレス、ピアス、イヤリング、ブレスレット……」
……難しい。
ピアスはメンバーでは誰も身に着けていないし、指輪は意味が重たくなってしまいそうだ。
「お守り効果のある装備品」としか考えついていなかったため、オススメを聞くとマルゲリータさんは笑って親指を立てた。
「女性に贈るなら、当然ネックレスタイプが一番さ!」
相変わらずの調子だが、確かにネックレスなら日常的に身に着けやすそうだ。
「それでは、ネックレスタイプでお願いします」
自分の返答に彼は満足げに頷いて、さっそく素材の確認やデザインのすり合わせを始めてくれた。
それぞれのイメージカラーに合わせた装飾など、話はどんどん具体的に進んでいく。
しかし、肝心のお守り効果については魔道具工房に相談した方がいいらしい。
「ちょうど今は他のお客もいなくて暇だからね。一緒についていってあげよう」
そう言って、マルゲリータさんも一緒に魔道具工房へとついてきてくれることになった。
二人でブルーメさんの魔道具工房へと移動し、お祝いの記念品について相談する。
するとブルーメさんも快く引き受けてくれ、ネックレスと合体させられる特製の『厄除け』を作成してくれることになった。
提示された金額はなかなかの高額になってしまった。
けれど、数日以内に仕上げてもらえる特急料金込みなので、ここは必要経費と割り切ることにした。
自宅に戻り、三人に記念品の手配が終わったこと、そして数日後には受け取れる旨を報告する。
他のメンバーには内緒にしたまま、お祝いの当日までに四人で準備を進めることにした。
数日後の夜。
リビングに集まったメンバーに、今日はサプライズで一周年記念のお祝いだと伝える。
驚きが広がる中、自分は完成したばかりのネックレスを、一人一人へ手渡していった。
「一周年記念のプレゼントだよ。厄除け効果がある装備品だから、みんなの役に立つと思う。いつもありがとう」
基本的なデザインは同じだが、他の人のものと混ざってしまわないように、それぞれの髪色に合わせた小さな宝石があしらわれている特注品だ。
箱を開けて中身を確認したメンバーたちが、その場で一斉に固まった。
誰も、一言も喋らない。
もしかしてデザインが気に入らなかったのだろうかと不安に襲われた瞬間。
ルピナス、ヘリオ、ハートの三人が物凄い勢いで自分に抱き着いてきた。
「クローバーっ! ありがとうございます!」
「……本当に嬉しい」
「ご主人様、一生の宝物にいたしますっ!」
お守りのネックレスに対して、こちらの想像を超える喜びようだった。
なんだかまるで、婚約指輪をサプライズで渡された時のような……
すると、お守りを見つめていたランティアがニヤニヤとした笑みを浮かべながら口を開いた。
「へぇぇ~。普段はアタシたちと距離を取ってるくせに、随分と憎いことをしてくれるねぇ?」
「憎いこと?」
首を傾げる自分に、ランティアは教えてくれた。
「だってアンタ、男が女にネックレスを贈るんだ。『求婚』だろう?」
「……は?」
思わずパチパチと瞬きをする。
「いや、求婚の時って指輪じゃないの?」
「指輪? 一体どこの風習だい?」
頭が真っ白になってしまった。
ということは、自分はマルゲリータさんにはめられた。
先日のあの楽しそうな顔が思い浮かぶ。
畜生め。
今すぐ誤解を解かなければと口を開きかけたが、隣から凄まじい熱量の視線を感じる。
ルピナス、ヘリオ、ハートの恋人三人が、頬を赤く染めて熱烈な視線を送ってきていた。
ここで否定したら、彼女たちががっかりするかもしれない。
さすがに彼女たちが落ち込む姿は見たくない。
しかし、事態はそれだけで終わらなかった。
周囲のメンバーたちも、笑みを浮かべて絡んでくる。
「わたしもお嫁さんー」
「随分と急な心変わりだね……」
「クローバーくん超大胆ー!」
一周年のお祝いのはずが、完全に収拾がつかなくなってしまった。
「……すみません。ネックレスを贈る意味を、全く知りませんでした」
結局、自分は全力で頭を下げて謝罪する羽目になった。




