#58 快気祝いと
中和薬が完成して、しばらく経過したある日。
自分はなんとか一人で動けるようになるまでに回復していた。
一日ごとにあの中和薬を服用する必要はあるが、ひとまずは悪化の心配もないそうだ。
自分のために動き回ってくれたメンバーたちには、感謝してもし足りない。
夜になり、リビングへと向かってドアを開けた瞬間。
「「「「「「「クローバー、おめでとうーー!!」」」」」」」
メンバー全員から、祝福の声を浴びせられた。
「あ、あれ……?」
いきなりの出来事に、つい呆気に取られてしまう。
きょとんとしている自分に、ルピナスが満面の笑みで語りかけてきた。
「クローバーの快気祝いと……それから、お祝いできていなかった、クローバーの十七歳の誕生日ですよ!」
そういえばそうだった。
糸目の男に呪術をかけられ、昏睡している間に自分の誕生日は過ぎ去ってしまっていたのだった。
まさかみんながそのことを覚えてくれていて、こうしてお祝いされるだなんて思ってもいなかった。
「みんな……ありがとう」
自分は照れくささを覚えながら、仲間たちに感謝を伝えた。
そこからは二つのお祝いを兼ねていたこともあり、いつも以上の大宴会が始まった。
テーブルにはご馳走が並び、メンバーたちもお酒がどんどん進んでいく。
夜が更ける頃には、リビングはなかなかにカオスな空間へと変貌していた。
元々お酒好きのランティアはもちろん、ホオズキ、ナグサの三人は泥酔して、床やソファに寝転がっている始末だ。
今回の功労者であるムスカリもまた、年齢が幼いこともあってかすやすやと眠ってしまった。
見慣れた光景ではあるが、またこの光景が見られることに感慨深いものを感じてしまう。
そんなリビングを見渡していると、ルピナス、ヘリオ、ハートの三人が立ち上がった。
「クローバー、私たちはここの片づけをしてから戻りますので、主役は先に部屋に戻って休んでいてください」
「みんなも部屋に運んでおく」
「ご主人様、あとは私たちにお任せください」
三人にそう優しく促される。
彼女たちの気遣いに甘え、先に自室へと戻ることにした。
ベッドの上で、自分の腕に刻まれた蛇の紋様を見つめる。
呪術そのものは解けていない。
父親からの脅威も消えたわけではない。
これからのことを考えながら、ゆっくりと目を閉じる。
ベッドで横になっていると、ドアがノックされてルピナス、ヘリオ、ハートの三人が入ってきた。
体を起こして彼女たちを見た瞬間、自分は言葉を失ってしまった。
なぜかみな、あのカラフルなネグリジェを着ている。
唖然にとられている自分を余所に、彼女たちはベッドの上に乗ってきた。
漂ってくる甘い香りと、薄い布地越しに伝わってくる熱気に、自分の理性が激しく揺れる。
「クローバー。私たち、まだ誕生日プレゼントを渡していませんから」
「……好きにして」
「ご主人様。お約束していた誕生日プレゼント、どうぞ受け取ってください」
熱を帯びた瞳で見つめてくる三人。
必死になって言い訳を並べ、彼女たちの誤解を解こうとする。
だが、覚悟を決めて部屋に踏み込んできた彼女たちは決して引き下がらなかった。
ルピナスが、泣き出しそうな瞳で自分の顔をじっと見つめてくる。
「……クローバーは、私たちのことが嫌いですか?」
「そんなことはないよ。みんなはすごく可愛いくて、一緒にいて楽しいし、優秀だから。……だからこそ、自分なんかよりもっと相応しい、格好良くて頼りになる相手が他に見つかるはずで――」
お荷物としての自分の内心が、つい言葉になって溢れ出てしまう。
その瞬間、柔らかい感触が自分の唇に触れ言葉を塞がれた。
一瞬のキスの後、顔を真っ赤にしたルピナスが、強い眼差しでこちらを見据えた。
「相応しいとか、格好いいとか、頼りになるとかそんなのは関係ありません。 私たちはクローバー、貴方が好きなんです」
「クローバー以外、ボクは求めてない」
「ご主人様。これ以上私たちから、逃げようとしないでください」
ヘリオとハートも、自分の体をベッドへと優しく押し倒すように、左右からぴったりと寄り添ってくる。
熱い吐息と真っ直ぐな言葉の数々。
自分を見捨てようと思えばいつでも簡単に捨てられたのに、彼女たちは必死なって助けてくれた。
どれほどの覚悟で自分を求めてくれているのかも、その肌の温もりから痛いほどに伝わってくる。
自分はリーダーとして、そして男としての覚悟を決め、彼女たちに待ったをかける。
「……まだ逃げようとするんですか?」
ルピナスが少し寂しげな瞳でこちらを覗き込んできた。
「違うんだ、もう逃げない。……ただ、すごく大切な話をさせてほしい」
自分はベッドの上で姿勢を正し、ネグリジェを纏った三人に向き合う形で正座をした。
三人もつられて、ベッドの上で姿勢を正す。
自分は彼女たちのまっすぐな瞳を見つめ返し、ゆっくりと一言ずつ言葉を紡ぎ出した。
「自分も、みんなのことは好きだ。……ただ、知っての通り自分は弱いし、格好良くもないし頼りにもならない。父親には命を狙われていて、一緒にいるだけで危険に巻き込まれると思う。その上、好きな人を一人に決めることもできない。……どうしようもないクズです」
途中から下がってしまった顔を、彼女たちへ向け直す。
「だから、もし今からの話すことが嫌だったら、容赦なく断ってほしい」
大きく深呼吸をして、声に出す。
「愛しています。自分と結婚を前提に、お付き合いしていただけないでしょうか」
自分の告白に、身構えていた三人の表情が凍りついた。
あまりにも長い沈黙が訪れ、自分は気まずさからまた下を向いてしまう。
次の瞬間。
視界が激しく反転した。
自分が声を上げる暇もなく、ルピナス、ヘリオ、ハートの三人に、凄まじい勢いでベッドへと押し倒されていた。
「断るわけ、ないじゃないですかっ!!」
ルピナスが嬉し涙をボロボロとこぼしながら、自分の胸ぐらにすがりついてくる。
「ボク、いいお嫁さんになる。一緒に幸せな家庭を築こう」
ヘリオもいつもの表情を崩し、熱い吐息を漏らしながら自分の首元にしがみついた。
「ご主人様……ご主人様……ご主人様っ!!」
ハートにいたっては、狐耳と大きな尻尾を激しく震わせならが腕にしがみつく。
自分は彼女たちの温もりを全身で受け止め、四人の夜は深まっていくのだった。




