#53 遠征終了
さらにさらに数日後。
その後は大きなトラブルもなく、無事に工房都市ネムノキまで帰還することができた。
魔道具工房のブルーメさん、防具工房のマルゲリータさんの両名へ『花晶鉱石』納品も無事に終わった。
ブルーメさんからはそれなりの額の報酬を貰えた。
携帯ハウスの改造費用が無料だったことを考えても、かなりのプラスだ。
それと、魔力式冷蔵庫の使用感も忘れずに伝えておいた。
マルゲリータさんに関しては、持ち帰った素材で何か作ってくれるらしい。
少し時間がかかるとのため、後日に受取予定だ。
何ができるかは分からないが、楽しみに待つことにしよう。
それにしても、今年もいよいよ瑠璃の月になってしまった。
この世界へ転生して様々なことがあったが、やはり内面がおっさんのせいか時間が経つのが早く感じてしまう。
パーティーの作成とメンバー募集。
日々のクエストに、武器の作成費用や弾薬代のための金策。
あまりにも忙しく駆け抜けていたせいで、あっという間だった。
年が明けて柘榴石の月の後半になったら、また一つ歳を重ねてしまう。
結局、自分のお荷物っぷりについては何も改善できていない。
ギルドカードを見つめて溜息をつく。
能力値は何も上がっていないし、スキルは増えたが戦闘では使い物にならない。
パーティーメンバーとしての価値は、相変わらず最底辺のままだ。
今はみんな優しく接してくれているけれど、あれだけ優秀な彼女たちだ。
より高みを目指せるだけの実力も素質もある。
いつまでも足を引っ張っていては、愛想を尽かされてしまうだろう。
帰還の翌日、自分は商業ギルドへと立ち寄った。
実は工房都市を離れる前に、アイスに次ぐ新商品を提案・監修していたのだ。
その商品名は『クレープ』。
薄く焼いた生地に、クリームやフルーツを巻くあのデザートだ。
冬は温かい生地で焼き立てを楽しめるし、お好みでアイスクリームを入れて食べることもできる。
長期の依頼で街から離れていたため、販売してからの評判は確認できていないが、一体どうなっているだろうか。
商業ギルドの受付で、長期遠征から戻った旨を伝えて担当者を訪ねる。
すると、奥から鼻息の荒い担当者が慌てて飛び出してきた。
「クローバーさん! お待ちしておりましたよ!」
「お久しぶりです。それで……、クレープの売れ行きはどうですか?」
恐る恐る尋ねる自分に、担当者は興奮を隠しきれない様子で両手を叩いた。
「どうですか、どころではありません! かーなーりーの大好評でして、早くもこの工房都市の『第二の新名物』として売り出しております!」
担当者は満面の笑みを浮かべると、ずっしりと重たい袋を取り出して渡してきた。
「そしてこちらが、クローバーさんへの『監修報酬』になります。今後も売上に応じて定期的に支払われますので、どうぞお受け取りください!」
「えっ……こんなにですか?」
手渡された袋の、予想を超える重みに思わず目を丸くする。
これだけあれば、自分やルピナスの武器弾薬代にもしばらくは悩まなくて済む。
みんなにも贅沢をさせてあげられるだろうし、何に使おうか……。
そんなことを考えていると、前回アイスがヒットした時の嫌な思い出が頭をよぎる。
あの時は知らないうちに、自分の肖像画を飾られ恥ずかしい思いをさせられた。
今回は事前に担当者へ念を押しておいたが、また余計な肖像画を増やしてはいないだろうか。
自分は恐る恐る担当者に確認してみる。
「はい! クローバーさんから事前に伺っていた通り、肖像画は増やしていませんよ。ご安心ください!」
担当者の元気な返答に、自分は心の底から胸を撫で下ろした。
どうやら今回は無事に回避できたらしい。
ずっしりとした報酬を懐にしまい、自分は上機嫌で商業ギルドを後にした。
これだけの大金が手に入ったのだ。
自分を支えてくれる仲間たちへ、何かお土産でも買って帰ろう。
市場を回り、メンバーたちの喜びそうなお菓子やお酒を購入する。
両手いっぱいの荷物を抱え、そろそろ帰ろうかと歩いていると、子供たちに突然声を掛けられた。
「あ! 石像の兄ちゃんだ!」
「ねえねえ、あのポーズ取ってよ!」
「……石像? ポーズ……?」
子供たちの言っていることが、全く分からない。
嫌な予感に冷や汗が流れ出す。
自分は情報収集のため、買ったお菓子を子供たちに分けて詳しく質問してみた。
「新しくクレープも売り出したお店の前に、大きなお兄ちゃんの石像が立ってるんだよ!」
お菓子を貰って嬉しそうな子供たちの答えに、自分の思考がフリーズした。
自分は荷物を抱え直し、商業ギルドが運営をしている店舗へと急ぐ。
息を切らせて店の前に辿り着くと、そこには堂々たる佇まいで、右手にアイス、左手にクレープを高く掲げた『自分の等身大石像』が設置されていた。
確かに、商業ギルドの担当者は嘘をついていなかった。
『肖像画』は一枚も増やしていない。
増えていたのは『石像』だもの。
余計なことしやがって畜生。




