#46 素材採掘一日目
キャンベル家を出て暫くして、自分たちは目的の鉱山へと到着した。
それなりに標高があるせいか、辺りには既に少しだけ雪が積もっている。
だが、お揃いのコートのおかげで寒さは一切感じない。
「すごいですねクローバー。本当にずっと温かいです!」
ルピナスがコートの感触を確かめるように、嬉しそうに声を弾ませた。
機能性は本物のようだ。
自分たちは山道を登り、目的の鉱石が眠るという大きな洞窟を発見した。
警戒しながら、ゆっくりと洞窟の奥へと足を進めていく。
洞窟内は薄っすらと明るく、明かりがなくても進むことができた。
しばらく歩き続けると、不意に洞窟の先から神秘的な光が差し込んできた。
「……わぁ」
誰からともなく、感嘆の息が漏れる。
そこに広がっていたのは、七色に輝くまるで花のような美しい結晶の群生だった。
自ら光を放つその光景は、どこか幻想的ですらある。
自分は知識組であるランティアとムスカリの二人に向き直った。
「二人とも、確認をお願いできるかい?」
「はいよ。ちょっと待ってね……」
ランティアが手元の本を開き、ムスカリがその結晶へと近づいてじっくりと観察を始める。
二人はいくつかの特徴を照らし合わせると、確信を持ったように自分へと頷いてみせた。
「うん、間違いないね。あれが依頼の『花晶鉱石』さ」
「これほどの質と量とはね……」
今回の遠征理由である本命の発見に、自分は胸の内でホッと安堵の息を漏らした。
「よし、それじゃあさっそく、採掘の準備を始めよう」
採取は結構な力作業なので、主な作業は自分とルピナス、ヘリオ、ハート。
サポートを残りのメンバーで分担した。
洞窟内に、ツルハシの小気味よい音が響き渡る。
みんなのチームワークもあり、採掘はかなり順調だった。
気づけば、目標数の四分の一ほどが既に集まっている。
夕方になったため、自分たちは一度洞窟から出て携帯ハウスを展開した。
今日採取した鉱石を、ガレージへと運び込んでいく。
作業が一区切りついたその時、ホオズキが近づいてきてお願いがあると言い出した。
「クローバー、お願いがあるー」
「どうしたんだい?」
「召喚獣のみんなを、この庭で住ませていいー?」
首を傾げる自分に、ホオズキはのんびりとした口調で説明を続ける。
彼女の話はいつも通り抽象的で分かりにくかったが、要約するとこういうことらしい。
普段は世界のどこかに住んでいる召喚獣たちを、魔方陣で毎回呼び出している。
けれど、携帯ハウスの機能拡張でペットがそのまま住めるようになったため、みんなの住処をこのハウスに移してしまいたい、と。
召喚獣をペット扱いするのはいかがなものかと口に出しかけたが、彼女と召喚獣たちの関係性をよく知らない。
部外者が余計な口を出すのはやめておこう。
「ホオズキや召喚獣のみんなに支障がないなら大丈夫だけど、ご飯とか寝る場所はどうするんだい?」
「なんとかするから大丈夫ー」
一体どうするつもりなのだろうか。
自分の心配を余所に、ホオズキはさっそく召喚獣を次々と呼び出し始めた。
まずは、呼び出す機会の多いペンギン。
続いて、魔術銃のお披露目を奪ったハリネズミ。
さらに、アイスの時に氷を出してくれたシマエナガ。
これだけでも十分賑やかだが、初見の召喚獣たちもいた。
丸っこいアルマジロに、高速で羽ばたくハチドリ、そしてトコトコと歩く小さなヒヨコ。
それぞれ、「テュポーン」「シルフィード」「ガルーダ」という立派な名前があるらしい。
「わぁ……っ!」
自分もメンバーも、可愛い召喚獣たちについ視線を奪われてしまう。
ホオズキが彼らに向かって、何やらぽつりぽつりと説明を始めた。
すると、移住について把握したのか、召喚獣たちは口々に鳴き声をあげる。
そのまま、広い庭で思い思い自由に過ごし始めた。
(……まぁ、みんな可愛いからよしとするか)
ひとまず新しい同居人(?)たちを歓迎しつつ、自分は一度伸びをする。
「よし、それじゃあお風呂とご飯にしちゃおう」
鉱石採集の疲れを癒すべく、自分たちは賑やかになった庭を後にし、温かい家の中へと入っていくのだった。
お風呂と食事を済ませ、各々くつろぐメンバーたち。
リビングでは、すでにホオズキがソファで無防備に寝息を立てていた。
その周りを、召喚獣たちがうろうろしている。
(……どうかしたのだろうか?)
様子を見ていると、ペンギンを筆頭に、みんなが何かを訴えかけるようにこちらへと近づいてきた。
「キュー……」
「ピピピッ」
「……もしかして、お腹が空いたとか?」
自分がそう尋ねると、召喚獣たちは一斉に首を縦に振った。
「なんとかするから大丈夫」というホオズキの言葉を信じた自分が甘かった。
とにかく、可愛い同居人たちのひもじそうな姿を見過ごすわけにもいかない。
「よしよし、ちょっと待っててね」
自分は彼らのために、キッチンまで何か食べられそうな食材を取りに向かうのだった。
彼らにご飯をあげた後、自分はソファで爆睡しているホオズキを抱え上げ、彼女の自室へと運ぶことにした。
ガチャリ、とドアを開ける。
相変わらず、彼女の部屋は物や服が散らかっていた。
足元に気をつけながらベッドまで辿り着き、ホオズキをそっと寝かしつける。
すると、ついてきていた召喚獣たちが、何かをくわえてこちらに差し出してきた。
「キュー」
「ん? 何だいこれ……」
受け取って広げてみると、ホオズキのパンツだった。
どうしてこれを自分に渡すのだろうか? 意味が分からない。
冷や汗を流しながら、それを棚にそっと置いた。
召喚獣たちは自分の行動に不満だったのか、ツンツンと足元を軽くつつかれる。
どうしろというのだ。
「君たちもちゃんと眠るんだよ」
自分は召喚獣たちにそう言い残し、逃げるようにホオズキの部屋を後にした。
ようやく解放され、自室へと戻る。
ベッドに入る前に、採掘の時に思いついた武器のアイデアを手帳にメモしておく。
少しして手帳を閉じ、ようやく眠ろうとベッドに視線を向けた。
そこには、自分のベッドの上ですやすやと眠っていた召喚獣たちがいた。
完全に占拠されてしまっている。
そういえばホオズキは、彼らの『寝る場所』も用意していない様子だった。
馬小屋はホーとスーの場所だし、夜の山の寒さの中に彼らを放り出すわけにもいかない。
「……仕方ない」
自分はベッドで眠ることを諦め、そっと寝室のドアを閉める。
今夜はリビングのソファーで眠ることにしよう。




