#5 クエスト開始
ルピナス、ヘリオが加わり、パーティーも三名となった。
強力な前衛と後衛が揃ったのだ。
これなら大丈夫だろうと、自分たちは初めてのギルドクエストを受けることにした。
――というより、今のアルバイト生活の現状を、一刻も早く改善しないと本当にまずい。
手元の帳簿を見れば、世知辛い現実が浮かび上がってくる。
アルバイトで必死に稼いでも、一日の収入は5,000フラ。
対して、素泊まり風呂なし相部屋の安宿の宿泊費でマイナス3,000フラ。
さらに安い食事三食で、約マイナス2,000フラ。
毎日手元には、200~300フラでも残ればいい方だ。
それに対して、リーダーとして改善したい問題は山ほどある。
多感な年頃の女の子たちと同じ部屋に素泊まりするのは流石に気を遣うし、毎日お湯で体を拭くだけではアルバイトの疲れもとれない。できればきちんとお風呂には入れさせてあげたい。
安い食事はあまり美味しくなく、心が荒みそうだし、何より栄養バランスが良くない。
成長期の彼女たちには、最優先で食事のグレードを上げてやりたい。
それに、ルピナスが魔術を一発撃つごとに吹き飛ぶ5万フラの杖代だって、どうにかして用意しなければならない。
上司である女神様からいただいた50万フラの初期資金もあるが、安定した収入の見込みがない以上、気軽に使ったら一瞬で破産してしまう。
これは命綱としての保険であって、絶対に手を付けてはならない。
自分が戦闘でお荷物な分、裏方の財布事情くらいは命がけで守ってみせる。
手元にある帳簿を閉じ、初めてのクエストの依頼書を選ぶために掲示板へと向かうのだった。
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受注クエスト
クエスト難易度:E
納品素材:粘液コア×10個(スライミー討伐でドロップ)
報酬:3万フラ
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「スライミーでしたら弱いので、クローバーでも簡単に倒せるはずです」
スライミーの生息地へ向かっている道中、ルピナスがそう言った。
どうやら、貧弱ステータスの自分でも楽に相手ができるクラスの魔物らしい。
「それはよかった。今回は報酬が3万フラと少ないし、ルピナスの魔術は実質お預けだからね」
「えぇ、なので今回は杖で殴ってお手伝いします!」
ルピナスはニッコリと、満面の笑みで物騒なことを口にした。
そういえば彼女は、魔力だけでなくなぜか筋力も高いのだった。
魔術師(物理)とは一体なんなのだろうか……。
「クローバー、危なくなったらボクが守るから。むしろ、後ろでずっと休んでてもいい」
ヘリオが甲冑をガシャンと鳴らしながら、頼もしい声で言った。
「……あはは、それだとただの荷物持ちになっちゃうから……一応、自分も頑張るよ」
自分が気まずそうに苦笑いを返すと、二人はどこか不満そうな、もっと頼ってほしいという顔で自分を見つめてくる。
「あっ、あそこにスライミーがいます!」
ルピナスが指差した先で、緑色のぷるぷるした球体が跳ねている。
さっそく初戦闘だ。まずはリーダーである自分が先陣を切る。
「えいっ!」
剣を引き抜いて一閃する。
スライミーは真っ二つになり、徐々に消滅した。
あとには目的の素材だけが残っている。
「すごいですよクローバー! 無駄のない鮮やかな剣術でした!」
「さすがクローバー。かっこいい」
二人が褒めてくれる。
悪い気はしないが、所詮雑魚敵相手なので過剰過ぎる気もする。
「次は私の番ですね! とぉっ!」
続いてルピナスが、杖を両手で構えて勢いよくスライミーへ振り下ろした。
べしゃんっ、と破裂音が響いたのちスライミーが素材に変わる。
「やりました! 粘液コアも無事です!」
「うん、ナイス物理」
剣士の自分よりも強力な一撃だった気がする。
若干の恐怖を覚えつつ、彼女の足元に転がった素材を回収する。
「最後はボク。頑張る」
今度はヘリオが、大盾を構えて前方のスライミーへと向かって突撃した。
ぱんっ!!!
盾に直撃したスライミーは爆発したかのように激しく四散した。
ドロップ品であるはずの素材も見当たらない。
つまり、素材まで完全に弾け飛び、何も得られなかったのだ。
「ごめん……力加減、間違えた」
ヘリオが申し訳なさそうに謝罪してきた。
そういえば彼女は、人以外への手加減が苦手そうだった。
とりあえず彼女には、もっと強敵相手の時に戦ってもらうことにしよう。
その後、自分とルピナスによってなんとかノルマ分の素材を集め終え、自分たちは意気揚々と帰路につこうとしていた。
しかし、自分たちの行く手を阻むように、あちこちから大量のスライミーが集まり始めた。
何かの意思を持っているかのように、スライミーたちは次々とくっつき始め、やがて見上げるほどの巨大な塊をいくつも形成していく。
「討伐難易度Cの『ビッグスライミー』ですね。……しかも、五体はいます」
ルピナスが引きつった声で、魔物の情報を教えてくれる。
討伐難易度C。自分一人では確実に勝てない相手だ。
「任せて」
ヘリオが大盾を構えて突撃する。
――パァァン!!!
凄まじい破裂音が響き渡り、ビッグスライミーが派手に飛び散る。
――が、次の瞬間。
飛び散った液体が生き物のように蠢き、合体して何事もなかったかのように元通りになってしまった。
どうやらビッグになると、物理的な切断や打撃に耐性を持つほど再生力が高くなるようだ。
物理攻撃の自分とヘリオでは致命的に相性が悪いため、ルピナスの方へと視線を送った。
「囲まれている現状では私の魔術は使えません! 間違いなく皆さんを巻き込んでしまいます!」
魔術は包囲を抜けるまで、使用厳禁らしい。
それならヘリオに突破口を開いてもらうしかない。
「ヘリオ、ビッグスライミーを攻撃して少しでいいから動きを止めてほしい」
「わかった」
自分の指示に、ヘリオが盾を構えて反応する。
突撃したヘリオが、正面のビッグスライミーを大盾で豪快に撥ねた。
飛び散ってビッグスライミーが、元のサイズに再生しようとしている隙を突いて、三人で一斉に走り出す。
「クローバー、このくらいの距離でしたら……多分大丈夫です!」
ルピナスが力強く声を上げながら、手元にある杖を天へと掲げた。
その瞬間、なんだか周囲の空気がビリビリと肌を刺すように震え始めた。
「いきます! 雷の小精霊よ、我に力を貸したまえ。――『イレクトゥロソーク<電撃>』!!!」
視界が一面真っ白な光に包まれ、ビッグスライミーたちの周囲に雷が落ちて凄まじい轟音が響き渡る。
あんなに強固だった五体のビッグスライミーは、落雷の影響で徐々に小さくなっていき、やがて完全に消滅した。
それと同時に、役目を終えたルピナスの杖が、彼女の過剰な魔力に耐えられずにサラサラと砂のように崩れ落ちて消滅していく。
「ふぅ……やりました! 中級魔術でしたので、なんとか皆さんを巻き込まずに全部倒せま――」
ルピナスが誇らしげに言いかけた瞬間、自分のそばに立っていたヘリオがバタンと地面に倒れ込んだ。
「ヘ、ヘリオ!?」
まさか、ルピナスの魔術がヘリオにも当たっていたのだろうか。
急いで地面に倒れた彼女の様子を確認する。
「……ケガはない、大丈夫。ただ……気持ち悪くて、動けない……」
地面に倒れたヘリオの口から、今にも泣き出しそうな弱々しいヘリオの声が聞こえてきた。
命に別状はないようで、本当に良かった……。
そういえば、ヘリオのステータスには『魔術耐性マイナス』という不穏な項目が記載されていたのを思い出す。
もしかしたらルピナスの放つ魔力が高すぎて、直接喰らっていなくても魔術の余波のようなもので、魔力酔いのような状態になってしまうのかもしれない。
これ以上、他の魔物に襲われても対処しきれない。
自分は近くの木々から即席で簡易的なソリを作成し、動けないヘリオをなんとか載せる。
「ルピナス、悪いけど後ろから押して。せーので引くよ」
「はっ、はい! ってヘリオ、想像以上に重いですね!?」
魔術の使えなくなった魔術師と動けない盾騎士。そして雑魚敵以外に活躍の場がなかったお荷物リーダー。
三人は、へとへとになりながらギルドへの帰路についた。




