#43 キャンベル家①
ハートとナグサの実家であるキャンベル家に到着し、使用人であるハートのご両親が出迎えてくれる。
父親が人族の執事、母親が狐獣人の従者だった。
まずは自分とハートが挨拶を交わし、その後ろから隠れていたナグサが気まずそうに顔を出す。
「……あの、ただいま~」
ナグサの姿を確認した瞬間、ハートのご両親が石のように固まる。
そりゃそうだ。
彼女は彼らが仕えている主人の、亡くなったはずの娘なのだから。
驚くのも無理はない。
事前にハートのが出していた手紙でも、ナグサの件は一切触れていない。
「亡くなったお嬢様が幽霊として同行している」なんて書いたら、精神を病んだのかと心配されるのがオチだ。
「すっすぐに旦那様へお伝えしなければ」
我に返ったハートのご両親が邸内へと駆け込んでいく。
少しして、奥からナグサのご両親と他の従者たちが息を切らせながら駆け付けてきた。
「ナグサっ! 本当にナグサなのか……!?」
「あぁ……ナグサ!」
「お父様、お母様、驚かせてごめんなさい。ただいま戻りました!」
彼女のご両親も、まさか娘が幽霊になって戻ってくるとは夢にも思わなかっただろう。
しかし、姿形も中身も、間違いなく愛娘のそれだ。
涙を流す母親が、たまらずナグサの体を抱きしめる。
父親も我慢できずにその輪に入り、大粒の涙を流して喜んでいた。
涙ながらに言葉を交わす感動の再会を邪魔をしないよう、自分たちは一歩引いてその様子を見守った。
ひとしきり涙の再会が落ち着いた頃、出迎えてくれた面々を見渡しナグサが首を傾げた。
「お父様、お母さま。お兄様やお姉様たち、みんなの専属従者たちはいないの?」
「ああ、彼らはみな外出していてね。数日ほど不在なのだよ」
「私たちの元気がないからって、代わりにお仕事を頑張ってくれているの」
どうやらタイミング悪く、ナグサとハートの兄姉たちは全員出払っているらしい。
折角の帰郷なので、会わせてあげたかったがどうしようもなさそうだ。
すると、ナグサのご両親が愛おしそうに娘の頭を撫で始めた。
「ナグサ……もう二度と、どこにも行かないでおくれ」
すがるような両親の問いかけだったが、ナグサは小さく首を横に振った。
「ごめんなさいお父様、お母さま。今はクローバー君たちのパーティーで、一緒に冒険者をやっているの」
「冒険者だって……?」
「それに、クローバー君ってまさか……あの?」
驚く両親へ、ナグサは満面の笑顔を向ける。
「生前は体が弱くて寝てばかりだったけれど、今の私は幽霊だからすごく元気に動き回れるんだ! だからみんなと一緒に、いろんな場所を見て回りたいの!」
楽しそうに自身の想いを伝えるナグサ。
その曇りのない瞳を見て、ご両親は寂しそうに肩を落とした。
が、すぐに優しい笑みを浮かべて彼女の頭をそっと撫でる。
「……そうか。お前がそこまで言うのなら、私たちはその意思を尊重しよう」
「彼とハートちゃんも一緒だものね、心配いらないわ。……だけど、たまにでいいから顔を見せてね」
「ありがとうございます、お父様、お母様!」
そのやり取りを見ていると、後ろに控えていた他の従者たちが自分たちへと近寄ってきた。
「クローバー様、そしてお仲間の皆様。お嬢様を連れ帰ってくださり、本当にありがとうございます」
涙を浮かべ感謝を述べる従者の女性たち。
彼女たちも全員獣人で、猫、犬、馬、羊、牛、鼠と見事なまでに種族がバラバラだ。
ちなみに、ハートのお母様は大変毛並みの美しい狐の獣人だった。
ハートは母親似らしい。
そして自分は、ハートから聞いていた話を思い出す。
目の前の従者たちもまた、ハートの母親であることを。
正確には「異母」だが。
ルピナスやヘリオのお父様と違い、ハートのお父様は多数の女性を愛せるらしい。
厳格な執事男性だと聞いていたので意外だ。
それにしても奥さんが全員獣人なのは、彼の趣味なのだろうか?
そんな失礼なことを考えていると、ナグサのご両親から宿泊を勧められてしまう。
なんでも、娘を連れ帰ってくれたお礼がしたいのだとか。
ナグサとハートのためにもそうしてあげたい気持ちはあるが、実家に数時間しか顔を出せなかったルピナスに悪い気がしてしまう。
そう思ってルピナスの方を見ると、彼女は察したように首を横に振った。
「クローバー、私は気にしなくて大丈夫ですよ。ハートもご両親と色々話したいでしょうし、ナグサなんて死別してからの再会です。すぐにお別れでは寂しすぎますよ」
彼女の健気で仲間想いな言葉に、涙が出そうになる。
そうして自分たちは、キャンベル家に一泊させてもらうことになった。




