↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/88

#42-EX 四年前

四年前。


凄まじい金属音と悲鳴が聞こえ、自分は声のする方へと駆けつけた。

そこに広がっていたのは、凄惨な光景だった。


賊に襲撃されたらしき貴族の馬車。

自分が到着した時にはすでに、戦況は決していた。


命を懸けて戦ったであろう三人の護衛。

二人は地面に横たわり、隊長らしき人物は賊の頭領と相打ちになっていた。

大勢の賊が倒れている中、生き残った賊が三名。


その男たちが今、二人の少女へ手を伸ばしている。

一人の少女がもう一人を庇うように前に出て、男が剣を振りかぶる。

あのままでは、確実に斬られてしまうだろう。


自分は注意を引くため、叫ぶしかなかった。


「こっちを見ろぉぉぉぉぉ!!」


予想外の声に、賊の視線が一斉にこちらへ向く。

激しく動揺しているその隙に距離を詰め、なんとか一人を斬り伏せる。

そのままの勢いで、自分は賊と少女たちの間へ滑り込んだ。


背中で二人を庇い、剣を構える。

これで彼女たちを人質に取られて、動けなくなってしまう事態は防げる。


自分の心臓が狂ったように脈打っていた。

さて、ここからどうやって切り抜けようか。


自分は中級剣士になったばかりで、ステータスは貧弱だ。

相手が格下だろうと、状況次第ではすぐに死んでしまうだろう。


自分もまだ死にたくないはないし、後ろの二人も守ってあげたい。

どんな手を使ってでも勝つしかない。


自分は腰の水筒を引きちぎり、目の前の賊へ投げつける。


「なんだっ――」


賊が反射的に水筒を両断し、中身の水が男の顔面に激しく飛び散る。

相手が視界を奪われている隙に、自分は踏み込みその肉体を切り裂いた。


残るは、あと一人。


最後の一人が、錯乱状態で剣を振り回す。

自分の腕をかすめてしまい、鋭い痛みが走った。

腕を押さえてしゃがみ込み、傷を確認するが今すぐ問題はなさそうだった。


賊は手傷を負わせたことに喜び、とどめを刺そうと近づいてくる。

自分は咄嗟に土を掴み、そのまま賊に投げつける。


再度の目つぶしが成功し、その隙に賊の胴体を深く貫く。

が、男は最後の執念で腕を伸ばし、自分の顔面を殴りつけてくる。

視界がぐにゃりと歪むが、それでも剣は離せない。

自分は殴打に耐えながら、必死に剣を捻り続ける。


暫くして、最後の一人が崩れ落ち動かなくなった。


口の中を切ったらしく、じわりと鉄の味が広がる。

鼻からも、生温かい液体が垂れてきた。

我ながら、いつも格好よくいかないものだ。


傷を癒す道具もなく、自分は回復魔術も使えない。

自分の怪我は放置するしかない。


自分は振り返り、震える少女たちへ視線を落とした。


「……怪我はないかい?」


二人は怯えながらも、小さく首を横に振った。

目立った外傷も見当たらない。

最悪の事態は防げたようだ。


張り詰めていた緊張が少しだけ緩む。


だが視界の端に、冷たくなっている護衛たちの姿が映る。

彼らが命懸けで時間を稼がなければ、自分は間に合わなかった。

それなのに、自分は彼らを助けられなかった。


「……申し訳ない。他の方々は、助けられなかった」


自分は少女たちの前に膝をつき、深く頭を下げた。






賊たちが、私とナグサ様に近づいてくる。

私は主人の前になんとか立ちはだかるが、賊は気にも留めず剣を振り上げる。


(あぁ、私はここで死ぬんだ――)


死を悟り、目を閉じて体に迫る刃を待つ。

だが、私の体に刃が届くことはなかった。


響き渡ったのは、誰かの必死な叫び声。


恐る恐る目を開けた瞬間、目の前を風が駆け抜けた。

名前も知らない、深緑色の髪をした少年。

歳も同じぐらいの子供が、私たちと賊の間に滑り込んできたのだ。


少年は泥臭く、けれど必死にその身を挺して残っていた賊たちを叩き伏せてみせた。

最後の一人を倒し終えた彼が、こちらを振り返る。


口の中を切ったらしく、その唇からは真っ赤な血が流れていた。

顔を殴られたせいで、鼻からも血が垂れてきている。


彼自身も酷い怪我を負っているというのに、真っ先にこちらの心配をしてくれた。

それだけではなかった。


少年は私たちの前に膝をつくと、深く、深く頭を下げた。


(どうして……、彼が謝っているのだろう?)


彼には何の非も存在しない。

偶然通りがかって、命がけで私たちを救ってくれただけの恩人だ。

謝るべき理由などないはずなのに、彼は命を落とした護衛の人たちのため、己の無力さを悔やみ心を痛めているようだった。


彼はその後、私たちを両親の元にまで送り届けてくれるという。

馬の背の上で、ナグサ様は男の人と密着するのが初めてで恥ずかしかったのか、私の後ろに隠れてしまった。


「二人とも、落とされないようにしっかり捕まっていてね」


少年の優しい声に、私は落とされないよう彼の背中へと顔を近づける。

ふわりと少年の衣服から、独特の香りが鼻腔をくすぐった。

これが、彼の匂いなのだろうか。

その温もりと匂いは、私を不思議なほど深く落ち着かせてくれた。


そうして馬に揺られ、私たちは両親たちと無事に再会を果たすことができた。

突然の帰還に、何事かと狼狽える両親やナグサ様のご両親。

私は涙を拭い、おぞましい賊の襲撃を必死に説明した。


正式に、命がけで私たちを救ってくれた少年、クローバー様を両親たちに紹介する。

だが名前を聞いた瞬間、彼も私の両親たちも、一様に気まずそうな顔をして沈黙してしまった。


どうしてそんな空気になってしまうのだろうか。

不思議に思う私に、衝撃の事実が明かされる。


クローバー様はラブクラフト家の貴族。

彼はあの日、父親の代わり謝罪するためにキャンベル家を訪れている最中だったのだそうだ。


「……二人とも、とにかく彼から離れなさい」


「さぁ御嬢様、どうぞこちらに」


「まさか、あのラブクラフト家の息子が人助けを……?」


「旦那様、彼はラブクラフト家の人間です。自作自演の可能性も考慮するべきかと」


彼には何の罪もないのに、ただ父親のせいで、少年はすべての冷めたい視線を一人背負っていた。

そのあまりにも理不尽な状況に、私とナグサ様はたまらず声を張り上げていた。


「違います! クローバー様は家柄など関係なく、命がけで私たちを守ってくださったのです!」


「パパ、ママ、クローバー君を悪く言っちゃダメ! あの人がいなかったら私、今頃死んじゃってたんだよ!?」


必死に擁護する二人の少女の姿に、大人たちは言葉を失う。

少年はただ申し訳なさそうに肩をすくめ、悲しげにしているだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。