#38 準備完了、いざ出発
想像以上の防寒着も手に入ったため、自分たちは魔道具工房へと戻った。
すると、ブルーメさんが自分たちを待ってくれていた。
携帯ハウスの改造が終了していたらしく、彼は誇らしげに新しくなった機能を説明してくれた。
空間の展開範囲を広げ、なんと広い『庭』を追加したという。
さらに、馬がのんびり過ごせる『馬小屋』。
馬車をそのまま格納できる『ガレージ』も併せて追加してくれたらしい。
それだけでも驚きなのだが、特にすごかったのは最後の機能だった。
「ハウスが格納状態のままでも外部から直接、荷物を送り込める収納機能を付けておいたよ」
「……収納機能、ですか?」
まるでどこかの猫型ロボットが身に着けているポケットみたいだ。
時代を先取りしすぎている便利機能に、自分は呆気に取られてしまう。
「まぁ、口で説明するより見た方が早いね。試しに使用感を見せてあげるよ」
ブルーメさんは工房の隅にある『縦長い不思議な箱』へと近寄った。
そして、自分に向けて説明を始める。
「これはね、魔力を込めて稼働させる『魔力式冷蔵庫』さ。夏から作り始めていて、ようやく試作品が完成したんだ。使い心地を聞かせてほしいから、二台あげよう」
「れ、冷蔵庫っ!? しかも二台もですか!?」
すると、ブルーメさんは携帯ハウスのキューブをその冷蔵庫へくっつける。
フッ。
その瞬間、目の前にあった冷蔵庫が一瞬で消え去った。
「物はこうすれば、内部に送れる。ちなみに生物はハウスを展開していないと入れられない。人間は以前と変わらず、格納時には外へ排出されるから気をつけてね」
ブルーメさんの実演を見たメンバーたちは、面白がって大量の物資をどんどんキューブに吸い込ませていく。
その様子を見ながら、ブルーメさんが笑って注意を補足してくれた。
「あくまで『中の庭』に転送されているだけだからね。ハウスを展開した時に外が雨だと、置いてある物も濡れちゃうからそこは気をつけて」
自分はブルーメさんにお礼を伝え、依頼分の『花晶鉱石』を収めるための木箱を預かった。
その後、自分たちは市場にて長旅のお供となる馬と馬車を購入した。
馬は大人しい気性のものを二頭。
その名前をどうしようかと自分が悩んでいると。
「この子は『ホー』で、こっちは『スー』」
横からホオズキが勝手に名前を決めてしまった。
馬たちも気に入ったのか、ヒヒーンと小さく鳴いている。
自分の意見は一ミリも挟めなかったが、可愛いのでよしとしよう。
こうしてすべての準備を終えた自分たちは、いよいよ工房都市の外に出た。
ひらけた平原で、バージョンアップした携帯ハウスを展開してみる。
ルピナスに魔力を注いでもらい、小気味よい音を立てて現れたのは以前よりも一回り大きくなった我が家だった。
「わぁ……! 本当に庭ができてますよ!」
「どうやら、柵のある範囲が庭みたいだね」
「……馬小屋もガレージも、ある」
「スー、ホー、お家だよー」
「ふむ……これだけ広ければ、実験用の植物を飼育することもできそうだね」
新エリアを見回して、メンバーが声を弾ませる。
庭の奥には、先ほど転送した冷蔵庫や大量の物資が鎮座していた。
「よし、それじゃあみんなで手分けして荷物を整理しちゃおう」
庭に集まっていた物資を、みんなで手分けして家やガレージへと運び込んでいく。
キッチンに運び込んだ冷蔵庫にも、忘れずに魔力を注いでもらった。
生鮮食品や飲料も入れておいたので、あとでキャンプをした時にでも効果のほどを確認してみよう。
さて、これで想定していたすべての準備が終わりを迎えた。
自分は一度深く息を吐き出すと、意味はないと思いつつも全員の点呼をとる。
「ルピナス」
「はいっ!」
「ヘリオ」
「……うん」
「ハート」
「ここに」
「ホオズキ」
「なにー」
「ランティア」
「はいよ」
「ムスカリ」
「なんだい」
「ナグサ」
「はーい!」
「よし、全員揃ってるね」
「……まだ、一人呼ばれてない」
と思ったが、ヘリオが静かに口にした。
誰か抜かしてしまっていただろうか。
「確かに、呼ばれていませんね」
ハートにも、くすくすと笑われながら付け加えられる。
そんな凡ミスをしていただろうか。
必死に人数を数え直す自分によそに、ルピナスがこっそりみんなへ合図を送った。
彼女たちはその合図に、微笑んだり頷いたりとリアクションを返す。
そして、何かを待つように自分へと視線を集中させた。
「せーのっ!」
ルピナスが元気よく何かの合図をかける。
次の瞬間、メンバー全員の声が重なった。
「「「「「「「クローバー」」」」」」」
「……は、はいっ」
いきなり大音量で名前を呼ばれ、つい返事をしてしまった。
情けない返事に、彼女たちが楽しそうな笑い声を上げる。
どうやら、呼ばれていないメンバーとは自分のことだったらしい。
「クローバー、抜けてるー」
ホオズキに呆れたようにそう言われ、自分は少し照れくさそうに頭をかいた。
彼女たちはまだ、貧弱でお荷物な自分のことを仲間だと思ってくれているらしい。
冒険者ランクが上がってからというもの、非戦闘組の護衛しか役割がないというのに...。
中身が三十代の涙腺のせいか、不覚にも泣きそうになってしまうが必死になって耐える。
「……格好がつかなくてごめんね。それじゃあ、今度こそ全員揃ったし」
自分は赤くなった顔を誤魔化しながら、優しい仲間に声をかける。
「出発しようか」
お揃いの防寒コートを身に纏った自分たちの、初めての大遠征。
それが今まさに幕を開けるのだった。




