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#35 幽霊少女

世界怪異についての説明をすべて終えた後、自分たちはようやく帰宅して一息つくことができた。

リビングのソファに腰掛け、自分は改めてみんなへとお礼を伝える。


「それにしてもクローバー、よくあの合図を思いつきましたね!」


ルピナスが感心したように声を弾ませる。


「いや、あれは……」


そういえばあの時、怪異以外にも不思議な出来事が起こっていた。

地面に落ちたはずの魔術銃が、まるで意志を持って浮いていたような……。

あれは一体、何だったのだろうか。


自分が首をひねっていると、ホオズキが誰もいない空間を指さした。


「彼女が、助けてくれたー」


「彼女……?」


以前にもホオズキは同じことを言っていた。

『彼女が心配している』と。


「ホオズキ、その『彼女』って一体誰だい?」


問いかける自分に、ホオズキはのんびりとした口調のまま、その名前を口にした。


「……ナグサー」


ナグサ。

その名前を聞いて、自分はフリーズしてしまう。

ハートの亡くなったはずの『主人』の名前だ。


驚いてハートの方を見る。

彼女は何かに激しく動揺したように、目を見開いて固まっていた。

ハートだけではない。

周りのみんなも一斉に同じ方向を見て驚愕している。


自分も、彼女たちの視線の先へとゆっくり顔を向けた。


何もなかったはずの空間。

そこには、半透明の少女が一人ふよふよと浮いていた。


「えっ? なんかみんな、こっち見えてる……?」


宙に浮いた少女が、不思議そうに目を瞬かせた。

その姿に、ハートの口から声が漏れ出る。


「ナグサ……様……」


「久しぶり、ハートちゃん」


ナグサは無邪気な笑顔で手を振った。


そんな彼女を見つめていると、半透明な姿が、まるで生きているかのようにはっきりと見え始めた。


「ナグサ様っ……!!」


ハートはたまらず、ナグサに全力で飛びついた。

霊体ならすり抜けてしまうかもしれないと思ったが、二人の体はしっかりと正面から衝突した。


「うわっと!? 相変わらず勢いが凄いね、ハートちゃん!」


お互いの温もりを確かめ合うように強く抱きしめ合う二人。

ハートの瞳からは、溢れんばかりの涙がボロボロとこぼれ落ちた。




ひとしきり感動の再会を終えた後、自分たちはナグサから詳しい話を聞くことにした。


「どうしてナグサ様がこちらに……?」


涙を拭ったハートが尋ねると、ナグサは自分の顎に手を当てて語り出す。


「うーんとね。病気で死んじゃってからは、ハートちゃんに憑いてたの」


ナグサは次に、自分のほうをビシッと指さした。


「でね、ハートちゃんがクローバー君と合流してからはね、ずっとクローバー君に憑いてたんだ!」


「……自分に?」


てっきりハートに憑き続けていたのかと思ったが、自分に対象を代えていたらしい。


「さっきはクローバー君が大ピンチだったから、なんとか必死に助けないとって一生懸命力を込めてたんだけど、そうしたらクローバー君の銃が持てたの!」


どうやら、彼女のおかげで命拾いしたのは紛れもない事実のようだ。

自分は深く頭を下げ、心からの感謝を伝えた。

それに対して、ナグサは誇らしげに胸を張る。


「えへへ、私もクローバー君の命、救っちゃったね!」


楽しげに笑う彼女を見て、自分はふと、以前の話を思い出してしまう。


ハートが自分たちのパーティーに加入する時のこと。

確かハートは、『主人のナグサも恩返しを望んでいた』と言っていた。


つまり、ナグサが成仏できないであろう原因。

その未練が綺麗に果たされたのかもしれない。


「これで、恩返しされちゃいましたね」


自分は少し肩の力を抜き、穏やかな笑顔でそう告げた。

だが目の前のナグサは意外そうな顔をして、目を丸くした。


「えっ?」


「……?」


「なに言ってるのクローバー君。まだまだ全然返し足りないよ!」


「……あれ? 未練がなくなって成仏する流れではないんですか?」


「まだ成仏なんてしないよー。私まだやりたいこと沢山あるのにー!!」


「えぇ……」


「それにクローバー君には、まだまだ解決しなきゃいけない悩み事がたーーくさんあるでしょ?」


ナグサはイタズラっぽい笑みを浮かべる。

そして、自分の顔の前にビシッと指を突きつけてきた。


「私の力が必要になること、これから先もいっぱいあるはずだよ。だから安心して!」


彼女は満面の笑みで、力強く言葉を紡ぐ。


「クローバー君の悩み事、この私がぜーーんぶ一緒に解決してみせるからね!」


二人の会話を聞いていたヘリオが、不思議そうに首を傾げた。


「……彼の悩みって、何?」


ナグサは指を折りながら、得意げに答え始める。


「えっとねー。戦闘で役に立ててないことと、パーティーのお金のことと、あとお父さんのことと……」


「ちょっとナグサ、ストップ!!」


ナグサに全ての悩みを暴かれそうになり、自分は彼女の口を塞ぎにいった。

しかし、その手は虚しくすり抜ける。

すると、ナグサは名案を思いついたように手をポンッと叩いた。


「そうだ! もっと大事な悩み事を思い出しちゃった!」


「え……?」


「クローバー君。みんなに手を出さないように、いろいろ一人で『処理』してるでしょ?」


そうナグサが暴露すると、部屋の空気が凍り付いた。

少しして、彼女たちの視線が自分へと浴びせられる。


「私も実体化して触れ合えるようになったし、お手伝いしてあげよっか?」


ナグサの無遠慮な言葉に、メンバーからの視線がより鋭くなってしまう。


自分は一体、どんな罪状で秘密をバラされているのだろうか。

神様は何も答えてはくれない。


これ以上この場の空気に耐えられないため、話題を強引に変更することにした。


「ねぇナグサ。みんながうけていたマッサージ、試してみたくないかい?」


「えっ! あのすっごい気持ちよさそうなやつ!? やってやってー!」


実は羨ましかったらしく、ナグサはノリノリでソファに横たわった。

自分は冷や汗を流しながら、彼女の体を揉み解し始める。


幽霊なのに肩がこるのか? そんなことは今どうでもいい。


自分としては先ほどの話は終わりのつもりだったのだが、女性陣は甘くなかった。

マッサージ音とナグサの甘い吐息が響く中、自分を囲むメンバーから言葉攻めが開始される。


「クローバー。そんなに元気なら、どうして私を頼ってくれないんですか?」


「……ボク、いつでも準備できてるのに」


「ご主人様、そんなに溜め込まれるぐらいでしたら、ご相談いただければいくらでも!」


「ぶーぶー」


「いやー、アンタも男なんだね~」


「……は、激しいなぁ……っ、クローバー君、そこ、んぅ……っ!」


目の前のナグサはマッサージの快感に悶え、周囲からは性欲への追及を突きつけられる。

ムスカリからも冷たい視線を向けられ、保護者代わりの威厳が無くなる。


正直、ルピナス、ヘリオ、ハートの三人からの責めは仕方がない。

彼女たちからは好意を伝えられていて、自分がそれに答えられないのだから。

甘んじて受けるしかない。

だが。


「どうしてホオズキとランティアまで一緒になって責めてくるんだい?」


自分はやけくそ気味に、その二人に確認を入れてみた。

ホオズキは特段気にした様子もなく、のんびりと首を傾げる。


「だってー、そういう風に決まってるからー」


「決まってないよ」


「そうしないと、三人に会えないー」


「三人? 誰のことだい?」


「まだ秘密ー」


相変わらず、彼女との話は要領を得ない。

一体、誰に会えないというのだろうか。


一方のランティアは、もっともらしい顔をして話し出した。


「アタシがお酒飲んで酔っ払っても怒らない。お酒は飲まないけど晩酌にも付き合ってくれる。気付いたら介抱してくれる。部屋が散らかってたら掃除してくれる。……いつも面倒みてくれるから、もうクローバーでいいかなって」


「そんな理由で決めないでほしいんだけど……。他にいい相手いるでしょ」


「世の中話の分からないヤツが多いんだよ。なぁ頼むよー、アタシの体好きにしていいからさぁー。養っておくれよー」


彼女の場合は、からかい半分便乗半分だろう。

いつの間にか再び酒も入れているため、実に面倒くさい。


とにかく言葉では不利なため、全員マッサージで寝てもらうことに決める。

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