#33 杭双盾と可変鞄
アリウムとカモミールの依頼から日数が経過し、季節はすっかり秋になった。
そして本日、ヘリオとハートの新しい武器がついに完成した。
工房都市の街の外。
秋晴れの心地よい風が吹き抜ける草原で、自分たち一行は見学に回っていた。
「――いいか、お前たち。今回の武器は、使用者に合わせて調整してある」
目の前では、武器の製作者であるローズさんが腕を組んで不敵に笑っている。
そのすぐ側で、新武器を嬉しそうな面持ちで構えるヘリオとハート。
ローズさんから細かい仕様や注意点の説明を受けながら、二人はさっそくテスト運用のために動き出す。
「まずは紫の嬢ちゃんからだな。お前の武器は、杭射出機構内蔵双盾……長いから『杭双盾』とでも呼ぶか」
ローズさんはそう言って、ヘリオが両腕に嵌めた双盾を指差した。
「普通パイルバンカーってのは火薬や油圧で杭を突き出すんだが、この世界じゃ火薬は貴重だからな。お嬢ちゃんの『馬鹿力』で杭を射出できるように調整してある。使用者の体力と盾が壊れない限りは、何回でも使用が可能だ」
ヘリオが試しに盾内のレバーを操作し、近くの木に向けて右腕の盾を突き出す。
その瞬間、杭がガシュッと凄まじい音とともに射出された。
鋭い鉄杭は太い幹を容易くぶち抜き、見事に貫通している。
彼女が勢いよく右腕を引くと、再び重い金属音を立てて杭が盾の中に格納された。
「近接で打ち込むのはもちろん、ワイヤーも内蔵してある。杭を射出して離れた敵をブチ抜いて引きずり回す、なんて芸当もできるはずだ。依頼通りに魔術耐性も付与してあるから、多少の魔術なら弾き消せるはずだ。その盾が左右合わせて二枚。あとはまぁ、使いこなせるかどうかは嬢ちゃんの腕次第だな」
ローズさんの説明を聞きながら、ヘリオは両腕の杭双盾をガシャリと打ち合わせその瞳を凶暴に輝かせる。
言葉には出さないものの、満足してくれているらしい。
「次は黄色い嬢ちゃんの武器だが、希望通りトランクケースに偽装してある。まぁ、中には何も入れられないし、どこまで誤魔化せるかは分からんが……見た目はただの鞄だ。まずは持ち手のダイヤルを『盾』の模様に合わせてみな」
ローズさんに促され、ハートは言われた通りダイヤルを捻る。
その瞬間。
ガシャガシャガシャッ!!!
鋭い機械音を立てて金属フレームが複雑に展開し、トランクケースは人一人がすっぽりと隠れる『盾』へと姿を変えた。
「そこからさらに、ダイヤルを『一つの剣』に合わせてみろ」
ハートが再度ダイヤルを操作する。
ガチャリと噛み合わせが変わり、身の丈ほどもある一振りの『大剣』へと変貌を遂げた。
「そのまま、今度は『二つの剣』に合わせな」
言われるがままにハートが操作すると、大剣が縦に左右対称に別れ、それぞれが鋭利な『二振りの長剣』へと姿を変えた。
「最後に、剣を組み合わせて『鞄』の模様だ」
指示通りに長剣を組み合わせると、双剣がカチリとロックされ、再び最初のトランクケースへと折り畳まれていった。
鞄、盾、大剣、双剣。
目まぐるしく変わる可変ギミックを目の当たりにし、自分たちは開いた口が塞がらない。
「依頼された盾と剣だけじゃ面白くないからな。少しド派手な武器も追加しておいた。名付けるなら『可変鞄』。軽量化はしてあるが、魔力を流せば並みの武器より頑丈になる。扱いはかなり難しいが……器用そうな嬢ちゃんなら大丈夫だろう」
ローズさんはニカッと白い歯を見せて笑う。
隣では、ハートが手元のトランクケースを見つめ嬉しそうに頷いていた。
「最高の武器をありがとうございます。必ず使いこなして、ご主人様のお役に立ってみせます」
彼女は礼儀正しくお辞儀をし、感謝を述べる。
こちらも気に入ってくれたようで何よりだ。
二人の新武器の引き渡しが終わると、ローズさんは頭を掻きながら口を開いた。
「でだ。今回の武器代600万フラだが、以前伝えていた通り、徐々にでも払ってくれればいい――」
「あ、その件なんですが……、一括でお支払いできることになりました」
自分が懐から大金の入った袋を取り出して差し出す。
ローズさんは目を丸くしながら、中身の確認を始めた。
日々のクエストの稼ぎはもちろん、アイス屋のロイヤリティ収入。
さらには女神様からの報酬が自分とヘリオ、ハートの三人分で300万フラ。
そして極めつけは、あのウドンコ村で捕らえた村長、ザクロの一件だ。
ザクロの身柄をサルビアさん経由で担当領主に引き渡したところ、多額の臨時報酬が転がり込んできた。
なんでも『疫病を防げなかった無能な領主』ではなく、『凶悪犯を捕えた有能な領主』として動けるようになったらしい。
国への報告や領民の支持なども加味して、かなり助かったとのことだ。
もしかしたら、サルビアさんが上手く言いくるめてくれたのかもしれないが……。
「……一応確認するが、安全な金なんだろうな?」
「貴族の保証付きです」
「なら遠慮なくいただいておこう」
これで解散かと思われたが、ローズさんが引き留めてきた。
「おい、これで終わりってわけじゃねえだろ?」
「まだ何かありましたっけ?」
「次の武器のアイデアだよ。次はどんなアイデアだ?」
ローズさんは笑みを浮かべ、次の獲物を待つ職人の目をしている。
だが、自分は苦笑いしながら両手を振った。
「いえ、もうありませんよ。既に自分とルピナス、ヘリオ、ハートの四人分を作ってもらいましたから」
「あぁ? まだパーティーの全員分じゃねえだろうが」
「彼女たちは非戦闘員だから、武器を持っては戦いません」
これにはローズさんも拍子抜けしたように、ちっと舌打ちをして腕を組んだ。
これで話が終わったかと思ったが、ローズさんが悪魔のささやきを始めた。
「なぁお前、他の『銃』も欲しくはないか?」
「……」
欲しい。
めちゃくちゃ欲しい。
なんなら自室の壁に飾って眺めたりもしたい。
自分の目の色が変わったのを見逃さず、ローズさんが話を続けてきた。
「面白い武器のアイデアと交換でどうだ? アイデア次第じゃ、希望する銃を仕立ててやってもいい」
物欲をこれでもかと刺激され、自分は腕を組んでうなり始める。
「なにも今すぐじゃなくていい。何か面白いものを思いついたら、いつでも工房に寄ってくれ」
ローズさんはそう言うと、満足そうに笑って自分の肩をぽんと叩いた。
「分かりました。考えておきますね」
自分は苦笑交じりに頷き、今度こそローズさんと別れた。
その日から自分の持ち歩く手帳に、新武器のアイデアを書き留めるためのページが追加された。




