#28 第三の依頼
C級に昇格して数日後。
自分は街に出て、せっせと買い出しをしていた。
購入している品物は、すべて――謝罪用の粗品である。
まずは、知り合いのギャル冒険者、ガーベラたちへの品。
合同クエストの際、ホオズキが召喚獣で誤射してしまったのだ。
リーダーとして、改めて頭を下げに行くための手土産だった。
次は、いつもお世話になっている酒場への品。
別の客が記念品として注文していた、とても高価なお酒。
それを、酔ったランティアが誤って綺麗に飲み干してしまった。
弁償自体はすでに済ませてあるが、念には念を入れての謝罪だ。
さらに、ヘリオがギルドの机を誤って叩き壊した分の謝罪。
これからの関係を維持するため、ただの弁償だけで済ませるわけにはいかない。
そして――極めつけがある。
ムスカリが過去にしでかしていた、すべての『被害者たち』への謝罪だ。
実家を追い出され、一人で生活していた頃。
彼女は道行く人に、かなり怪しい薬を手渡していた時期があるらしい。
先日、その被害者の一人と街中で遭遇し、泣きつかれながら事情を説明された。
焦ってムスカリ本人に確認してみると、なんと同様の被害者が、この街にまだまだいることが発覚した。
C級に上がったばかりの今、パーティーの悪評が広まるのだけは絶対に避けたい。
結果、彼女の保護者代わりとして。
判明している限りの被害者たちへ、謝罪行脚に回ることが決定してしまった。
ガーベラたちへの謝罪に始まり、ギルド、酒場、そしてムスカリの被害者たちへの謝罪行脚。
予定通り、丸一日を謝り倒して終わった自分は、へとへとになりながら帰路に就いていた。
――もう今日は、これ以上何もしたくない。
その時、脳内に聞き覚えのある声が響き渡った。
『お疲れ様でしたクローバーさん、愛の神です! 実はですね、新しくお仕事をお願いしたくて……』
「……今、ですか?」
『すみません! 様子を窺っていたのでお疲れなのは重々承知しているのですが……緊急事態なんです!』
「……何かあったんですか」
『実は、次の依頼として計画していた方の一名がその……命の危険な状況でして。その方が亡くなると、お相手の方も病が治らず……』
「……マズいじゃないですか」
『そうなんです! 私では直接介入できないので、本当にクローバーさんにしか頼めなくて……。なのでお願いします! 今回の報酬とは別に、上乗せで特別なボーナスも付けちゃいますので、どうか彼らを助けてあげてください!』
「……? そういえば以前、ターゲットの一人が石化してた時がありましたけど。アレは緊急事態ではなかったんですか?」
『あの時は、彼女の『花』自体は元気でした。そのため、生命の危機が訪れていたとまではいえません。ですが、今回の彼女は違います。……お花が、もう枯れかけてしまっているんです』
女神様の言葉を頭の中でまとめる。
どうやらあの神様は、それぞれの『花』の状態によって、対象者の状況を把握しているらしい。
花が元気なら、肉体に異常があっても問題はない。
だが、枯れかけていると命の危機。
そして完全に枯れてしまうと――。
『ですので、どうか……彼らをお願いします』
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『愛の神』より特別依頼
対象者①:アリウム/女性
所在地:ラフロー王国 ウドンコ村
身分職業:子供
対象者②:カモミール・バイオレット/男性
所在地:ラフロー王国 バイオレット領邸宅
身分職業:子供
【達成条件】
アリウムの生命を救助。
上記二名を『直接の対面』させること。
(※対面成功時、いい感じの効果音とともに縁が結ばれます)
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目の前に現れた依頼内容を、素早く確認する。
どうやら、彼女に命の危機が訪れているらしい。
一刻を争う状況なのは間違いない。
だがそれ以上に、もう一人の名前――。
「カモミール……バイオレット……?」
その名前に、自分は見覚えがあった。
帰宅後、自分はすぐにメンバーを集めて新しい依頼のことを伝えた。
対象者の一人に、生命の危機が迫っていること。
そしてもう一人の対象者が――ヘリオの家族らしいこと。
「カモミールは、末の六歳の弟。昔から病弱で、ずっと家で大人しくしてる。可愛い弟」
ヘリオから得られた情報はそれだけだった。
とにかく、アリウムという少女に危機が迫っているのは間違いない。
明朝からすぐに動く旨を伝え、各自に準備を促してその場を解散させた。
自室に戻り、ベッドの縁に腰掛けて頭を抱える。
女神様の言う通りであれば、今回の依頼に失敗すれば、ヘリオの弟の命も危ない。
当事者である彼女にすべて伝えるべきか、どうしても決断がつかなかった。
コンコン、と静かなノックの音が部屋に響いたのは、その時だった。
ドアを開けると、そこには心配そうな顔をしたヘリオが立っていた。
「クローバー、起きてる? ……いつもと、様子が変だった。何か……隠してる?」
彼女の真っ直ぐな視線に耐えかねて、自分は正直に話すことにした。
「……実はね、今回の依頼なんだけど、もし失敗すると……ヘリオの弟の命も危ないかもしれないんだ。突然、何を言い出すんだって思うよね! でも――」
「大丈夫。貴方を疑ってない」
「――えっ?」
「信じてるから。……話してくれて、ありがとう」
「でも……!」
彼女の言葉に救われながらも、自分は情けなく拳を握りしめた。
「自分は弱いから……ヘリオの弟を『絶対に助ける』なんて、言ってあげられないんだ……!」
自分の無力さを呪うように、思わず俯き、言葉を吐き出す。
すると、ヘリオはそっと自分との距離を詰めて、その綺麗な瞳で自分の顔を覗き込んできた。
「その分、私が強いから。……大丈夫」
迷いのない声だった。
「ルピナスも、ハートも、ホオズキも強い。ランティアとムスカリは戦えないけど……彼女たちのサポートは強力。みんな強いから、クローバーが弱くても、私たちが何とかする」
彼女は一度言葉を区切ると、さらに優しく声を紡ぐ。
「それに、クローバーがいなかったら、私は弟の危険を知らないままだった。何もできずに、失っていたかもしれない。……貴方はまた、私を助けてくれた」
「……ありがとう、ヘリオ。弱いなりに、頑張ってみるよ」
「うん。頼りにしてる」
静かな夜の自室で、今まで以上に気合を入れる。
明日への確かな覚悟を、心に深く誓った。




