#27 冒険者ランクと誕生日
ヘリオとハートの武器費用。
これを稼ぐため、自分たちは今日も金策に励んでいた。
冒険者ギルドのクエストを、安全第一で複数こなしていく。
討伐クエストの主役は、見事な連携を見せるようになったルピナスとヘリオの二人だ。
ホオズキも負けてはいない。
相変わらずの調子で、召喚獣で敵を薙ぎ払っていく。
ランティア情の報支援も、本当に頼もしい。
初戦闘の魔獣であっても、習性や弱点を調べる共有してくれる。
ハートは新武器の完成に備えて、剣と盾の戦闘に身を慣らしている最中だ。
戦闘に加われないムスカリも、しっかり活躍してくれた。
得意の錬金術を使い、納品クエスト用の素材を揃えてくれる。
おかげで、こなせるクエストの幅が大きく広がった。
最初こそ自分が細かく指示を出していたが、戦いに慣れてきた彼女たちに、もう指示は必要ない。
最近の自分の役目と言えば。非戦闘メンバーの護衛に、終始しているだけだった。
自分の存在価値に、ふと疑問を抱いてしまう。
そんな悩みを胸に秘めながら、ギルドの受付で報告を済ませた。
すると、書類を確認していた受付嬢が、パッと顔を上げた。
「――おめでとうございます! 一定の実績を満たしましたので、皆さんの冒険者ランクがC級に昇格となります!」
なんだかんだとD級になっていた自分たちだったが、また次のステージに上がれるらしい。
これで、より難易度が高く、報酬の良いクエストも受注できるようになるという。
受付嬢の言葉に、自分の背後にいたメンバーたちが一斉に色めき立った。
おめでたいランクアップの余韻のままに、自分たちはその日の夜、少し奮発して外食でお祝いをすることにした。
賑やかな店内で美味しい料理を囲みながら、「これから報酬が増えたら何に使うか」という話題で大いに盛り上がる。
やがて、話の流れはそれぞれの「誕生日」のことへと移っていった。
「そういえば、クローバーの誕生日はいつなんですか?」
ふと、ルピナスがこちらを覗き込むようにして、楽しげに話を振ってきた。
「誕生日だったら、柘榴石の月の二十六日だよ」
前世と転生後の誕生日が同じ日付だったことを思い出しながら、自分はそう答えた。
二つの誕生日で混乱しないよう、あの女神様が多少気を使ってくれたのだろうか。
「なるほど、覚えておきますね! そういえばクローバー、元貴族なんでしたよね? やっぱり貴族だと、お祝いやプレゼントも毎年豪華だったんですか?」
ルピナスの純粋な問いかけに、自分は苦笑しながら首を振った。
「いや、申し訳ないけど記憶がなくてね。母親は物心つく前に亡くなっていたのと、父親とはずっと不仲だったことは覚えてるんだけど……」
少し言葉を切って、自分は淡々と言葉を続ける。
「まともに覚えてる誕生日と言えば、今年の『誕生日前日に家が取り潰しになった時』くらいかな」
転生後の記憶を引き継げなかった自分がぽつりと語った、何気ない話。
――だが次の瞬間。
先ほどまであれほど騒がしかったテーブルの空気が、嘘のようにピタリと凍り付いてしまった。
料理を取り分けてくれていたハートの手が止まる。
ランティアに一気コールをしていたヘリオとホオズキも、口を開けたまま固まっていた。
ムスカリは気まずそうにこちらを見ている。
自分としては、ただの笑い話のつもりだったのだが。
さすがに笑うには、重たすぎる内容だっただろうか。
「あれ? みんなどうかした?」
「……すっ、すいませんでしたクローバー! 私、ヘリオが加入する時に記憶のことを聞いていたのに、何も考えずにそんな大変なことを……っ」
ルピナスが今にも泣き出しそうな目で、激しく恐縮する。
他のメンバーたちも、非常に気まずそうな顔をして俯いてしまった。
どうやらこの世界において、成人する年の誕生日は特別な意味を持つらしい。
家族や友人が勢ぞろいで盛大に祝福する。
一生の記憶に残るように努める、大切で重大な日なのだとか。
「流石の私も、同情を禁じ得ないよ……」
家を追い出されたムスカリにすら、そんな哀れみの視線を向けられる。
どうやら自分の境遇は、この世界ではかなり異常な部類に入るのだろう。
正直、自分は前世の年齢だけでも30歳を過ぎている。
今更、誕生日に対する執着など無いに等しかった。
だからこそ、周りがこれほど深刻に受け止めるまで全く気付けなかったのだ。
「決めました!」
ルピナスが突然、拳を握りしめて立ち上がった。
「次のクローバーの誕生日は、私たちが絶対に世界一盛大にお祝いしますから!」
「え、いや、そこまでしなくても……」
「いいえ、やります!」
「楽しみにしてて」
「最高の誕生日にしましょう!」
その謎の連帯感に、自分は完全に圧倒されてしまった。
けれど、どこか面食らいながらも、胸の奥が少しだけ熱くなる。
自分たちのC級昇格祝いの夜は、妙に温かい空気のまま、ゆっくりと更けていった。
――夜、自宅の自室。
賑やかな宴を終えて帰宅した自分は、机に向かって帳簿を開いていた。
今日達成した討伐依頼四件と、納品依頼二件の報酬を合計する。
一割をパーティーの共有資金として差し引き、残りを山分けに。
今日の稼ぎは一人頭、約6万フラといったところだ。
続いて、支出の欄を埋めていく。
今日のお祝い代は、貯蓄してある共有資金から。
そして――ルピナスの武器弾薬代。
これは本人には秘密にしている。
そのため、自分個人の報酬をすべて注ぎ込んで補填しておく。
これからはC級になって報酬も上がる。
もう少し、金策が楽になることを期待しよう。
計算を終えて帳簿を閉じると、どっと一日の疲れが押し寄せてきた。
椅子から立ち上がり、そのままベッドへとダイブする。
やわらかい枕に顔を埋めながら、ふと、さっきの会話が頭をよぎった。
気恥ずかしさと、それ以上の嬉しさが、胸の奥にじわりと広がる。
(彼女たちの誕生日が来たら、自分も何か特別なことを考えておかないとな……)
そんなことを考えながら、自分は眠りへと落ちていく。
そして、いつものように――悪夢にうなされる。
――この時の自分は、まだ気付いていなかった。
ランクが上がったことで、敵の数や強さが跳ね上がること。
そして、ザコ敵しか倒せない自分の「お荷物度合い」が、より一層際立ってしまうということに。




