#3 哀しみの魔術師
女神様からのアドバイス通り、パーティーの結成と募集手続きを行った。
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パーティーメンバー募集
新規パーティー結成につき、以下の仲間を募集しています。
募集職種
・前衛職
・後衛職
・回復職
活動方針
① 特別な雇い主よりの依頼
② ギルドクエスト
③ ①②がない場合、アルバイト
詳細については説明があるため、下記までお尋ねください。
パーティー名:キューピッド
パーティーリーダー:クローバー
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募集要項については、とにかく簡潔にまとめた。
詳細な条件を決めてもよかったが、今の自分は仲間を選べるような立場ではない。
それとパーティー名は『キューピッド』にしておいた。
愛の神様の下で縁を結ぶのが、これからのお仕事。この名前以外ありえないだろう。
ギルドでの手続きを終え、併設されている食堂で何か食べることにした。
パンに、シチューに、サラダ。バランスのとれたメニュー。
さっそくいただ―――
グーーー。
室内に大きなお腹の音が響き渡った。
自分の音ではない。周囲を確認すると、少し離れた場所で立ち尽くしている子供が恥ずかしそうにお腹を押さえている。
三角帽子、マントを着用しているので魔術師だろう。
赤黒い短めの頭髪と中性的な顔立ちに短パンという服装も相まって、少年なのか少女なのかは判別がつかない。
年齢は十四、十五くらいだろうか?
冒険者のようだが……衣服もかなり汚れている。
もしかしたらお金がなくてひもじいのかもしれない。
ここは大人として、食事くらいご馳走してあげることにしよう。
そう考えた自分は、その子を手招きして自分の席へ勧めた。
「ごちそうさまでした!」
運ばれてきた料理をなんと三人前も平らげたところで、その子はようやく満足したようだ。
よっぽどお腹が空いていたのだろう……かわいそうに。
「食事、ありがとうございました。私の名前はルピナス。魔族の中でも魔術が得意な、ラッセル族の生まれです。まぁ、ご覧の通りの格好ですから、魔術師なのは一目瞭然ですよね」
「自分はクローバー。一応、中級剣士です。……それでルピナス。どうしてそんなにお腹を空かせていたのか、理由を聞いてもいいかな?」
衣服の汚れや限界だった空腹度合いが気になり、自分はそっと尋ねた。
するとルピナスは、さっきまでの明るい表情を少しだけ曇らせ、俯いた。
「あまり言いたくはないですが……食事のお礼代わりにお話します」
それからルピナスの苦労話の数々を聞くこととなった。
冒険者に強い憧れを抱いて故郷を飛び出したものの、最初に組んだパーティーでは『使い物にならない』と即座に追い出されたという。
次のパーティーではクエストの報酬やドロップ品をごまかされて搾取され、高額報酬を謳う別のパーティーに加入すれば『試用期間』だの『細かい罰金』だので実際の報酬は雀の涙。
極めつけに、アットホームさを売りにしたパーティーに参加したところ、魔物の囮として都合よく使い捨てにされたらしい。
異世界にも、とんでもないブラック組織が存在するものだ。
「そういえば、クローバーも冒険者なんですよね。どんなパーティーに加入しているんですか?」
ルピナスはシチューの残りを名残惜しそうにスプーンですくいながら、ふと首を傾げて尋ねてきた。
「さっき結成したばかりだから、メンバーはまだ自分一人だけのパーティーだよ。一応、掲示板に募集は貼りだしてきたけど……人が集まるかは未知数だね」
「…これ、私のギルドカードなのですが」
自分の言葉を聞いた瞬間、ルピナスは真剣な目をして、懐から自分のカードを取り出した。
「私は、そちらのパーティーの募集条件をクリアしていますか……?」
縋るような、けれど強い期待の籠もった瞳で見つめてくるルピナス。
自分は差し出されたそのギルドカードを受け取り、さっそく中身を確認してみることにした。
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ルピナス 魔族/女 29歳
職業:魔術師 冒険者ランク:E
能力値(最大数値10)
筋力:7
耐久:5
魔力:10+++++
知力:4
俊敏:6
器用:4
運命:3
成長:6
所持スキル
上級攻撃魔術(火、水、風、土、雷、氷)、下級回復魔術、下級解毒魔術
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ギルドカードを確認したおかげで、ルピナスについてわかったことが三つある。
まず一つ目。
ルピナスは『女性』だったようだ。
これまで男女の判断がつかず内心困っていたので、自分は密かに胸をなでおろした。
二つ目に年齢。
二十九歳、なんと前世の自分より一つ年下だった。
見た目が中学生ほどに小さいのは魔族という種族的なものだろうか? 何はともかく、これ以上の子供扱いは絶対に避けておこうと心に誓う。
三つ目にステータス。
魔力の項目がプラス記号でバグっている。最大数値10とは一体何だったのか。
おまけに筋力も7と高い。剣士の自分が素手で殴り合っても瞬殺されてしまいそうだ。
まぁ、女性には手を出したくないので数値関係なく負けるが……。
総じて、めちゃくちゃに強い。
「ごめんなさいルピナスさん。まさか年上だったとは思いもしなくて……」
自分が慌てて頭を下げると、ルピナスは困ったように眉を下げて笑った。
「あっ、年齢でしたら気にしないでください。ラッセル族基準では私はまだ未成年ですので。敬称も不要です。気軽にルピナスと呼んでいただいて問題ありません」
この世界の人族は十六歳で成人なので、未成年の彼女よりも、現在の自分の方がシステム的には大人なのだろうか?
判断が非常に難しいところだが、自分には前世の年齢もあるので、ここは素直に年上のおっさんとして振舞わせてもらうことにしよう。
「それじゃあ……募集条件はあってないようなものだから、もちろん問題なくクリアだよ。ただ……これだけ強いなら、他のパーティーからも引く手あまたなんじゃないかな?」
自分の純粋な疑問に、ルピナスはひどく落ち込んだように肩を落とした。
「……実は魔力が高すぎるせいで、困った弊害がありまして。私の放つ魔術は全てが強制的に一階梯上相当へと強化されてしまうのです。そのため手加減が一切できず、他の方とは比べ物にならないほど威力や範囲が膨れ上がってしまうので、味方に被害が出やすくて……」
「申し訳ないけど、自分は魔力がゼロで魔術を一切習えなかったんだ。魔術にも
そういう階梯のようなランクがあるの?」
「えぇ、あります」
そこからルピナスが、落ち込みながらも簡潔に魔術の階梯を教えてくれた。
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攻撃魔術ランク
下級:小さな火球や水球を放てる程度。日常生活や牽制などの用途が多い。
中級:下級よりも強力な対個人魔術。直撃すれば、人やある程度の魔物が倒せる。
上級:中級よりもより強力な対集団魔術。直撃すれば、まず助からない。
特級:最上位。一つの町が丸ごと消失するほどの絶大な威力。
詠唱については、属性名(火、水、風、土、雷、氷)と精霊の階級(末精霊、小精霊、中精霊、大精霊)、呪文名の組み合わせらしい。
火の初級魔術を例に挙げると以下のようになる。
火の末精霊よ、我に力を貸したまえ。――『フォティア<火>』
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「それじゃあ……ルピナスが焚火に火をつけたくて下級火魔術を使うと?」
「詠唱自体は下級魔術ですが、威力や範囲が強制的に中級火魔術相当にまで跳ね上がり、あたり一面が大火事になります」
彼女の高すぎる魔力は、実戦においてはデメリットが多いようだ。
放つ魔術が下級が中級に、中級が上級に、そして上級は特級相当へと強制的に上がってしまう。
つまり、彼女は実質的に下級魔術は一切使用できない。
『ひのこ』を使いたいだけなのに、強制的に『かえんほうしゃ』が出てしまうようなイメージだろうか。
下手をすると、容赦なく『だいもんじ』や『だいばくはつ』のような威力の魔術が放たれるかもしれない。
前衛からしたら、背後からそんな大技が飛んでくるのだからひとたまりもないし、なまじ火力がありすぎるから気軽な援護すら頼めない。
「そして私は、杖がないと魔術が使用できませんが……魔術を使うたびに、私の魔力に耐えられず、杖が粉々に砕け散って消滅してしまいます」
うん……なんだか、とてつもなく扱いが難しいぞ。
ギルドに来る途中で目にした魔術師の杖は、どれほど安くても一本5万フラは値がしたはずだ。
一発ごとに5万フラが吹き飛ぶとなれば、クエストの報酬次第では、一発で大赤字になってしまう。
彼女より戦闘力が弱くても、普通の魔術師を選んだ方が、汎用的にも経済的にも役立つのは火を見るよりも明らかだ。
「やはり、厳しいでしょうか……私のような魔術師なんて……」
ルピナスはさらに落ち込んで、諦めの混じった声色になってしまった。
正直、効率だけを求めるなら断るのが正解だ。
――けれど、なんとかしてあげたい。という気持ちもある。
彼女は今、こうして今日の食事にも困るほどに困窮している状況なのだから。
困っている人は可能な限り助けてあげたい。
生前、自分が仕事のストレスで鬱を患ってしまった時も、周囲の優しい人たちにたくさん助けてもらったから。
……いや、ちょっと待て。
よくよく考えたら、パーティー加入希望者なんて、この機を逃がすと二度と現れないのでは?
なにしろ自分は、雑魚敵しか倒せず成長の見込みがないお荷物リーダーなのだ。
普通の真っ当な冒険者なんて、うちのパーティーに加入してくれるわけがない。
加入希望者が一人見つかっただけでも、むしろ万歳三唱ものだろう。
一発ごとに5万フラが消し飛ぶ杖の消費問題だって、これからの金策を死ぬ気で頑張ってカバーすればいいだけの話かもしれない。
そうと決まれば、即採用だ。
「ルピナス、うちのパーティーは少し特殊な活動方針なんだ。最優先されるのは、『特別な雇い主よりの依頼』。この依頼がなければ『ギルドクエスト』、どちらもなければ『アルバイト』をこなしてもらう。報酬は基本山分けだけど、アルバイトの分は各自の懐に入れてもらって構わないよ。それと……君が消費してしまう杖の費用については、自分としてもなんとかしてあげたいけど……。正直、今はまだ手段がないから、今後の調整予定になってしまう。この条件でよければ採用だけど、どうかな?」
自分が大真面目にそう告げると、俯いていた彼女の顔が、パッと花が開いたように明るくなった。
「問題ありません! ぜひ、よろしくお願いします!」
嬉しそうに何度も頭を下げる彼女と、がっちりと握手を交わす。
魔術師のルピナスがパーティーに加入した。




