#24 新たなる借金
ルピナスから解放され、自分は彼女に聞こえないよう、ローズさんに弾代の件を秘密にしてほしいとこっそり相談を持ちかけた。
するとその背後から、ぐいぐい、と自分の服を引っ張る強い感触があった。
振り返ると、そこにはヘリオとハートの二人が並んで立っていた。
二人は無言のまま、じっと物欲しげな目で自分を見つめ、これでもかと服の裾を主張してくる。
どうやら、ルピナスの真新しい魔術籠手が羨ましくて仕方がなかったらしい。
(あ、そういえば……)
以前、彼女たちの新しい武器のアイデアも考えている、と伝えていたことを思い出した。
ルピナスの武器が完成した今、自分たちに向けられる二人の期待に満ちた視線が痛い。
自分は、今しがた大仕事を終えたばかりのローズさんに、休む間もなく次の相談を持ちかけることに猛烈な申し訳なさを感じつつ、おずおずと声をかけた。
「あの、ローズさん……本当に休む間もなくて申し訳ないんですが、もう何点か相談に乗ってほしくて……」
ローズさんが呆れたように肩をすくめながら、こちらの話を待ってくれている。
自分はまず、ヘリオの武器案について話し始めた。
「ヘリオは現在、大盾をメインに使っているんですが……その盾に、強力な刺突を放てる『パイルバンカー』みたいな機能を追加したらどうかと考えていまして。それに機動性を補ったり、敵を捕縛したりするのに使える『ワイヤー機能』を組み合わせられないかと……どうでしょうか?」
自分の突飛なアイデアを聞いたローズさんは、しばらく顎に手を当てて考え込んだ後、ニヤリと不敵に笑った。
「試したことはないが、作れなくはない。……おい、盾の嬢ちゃんの利き手はどっちだ?」
ローズさんに話を振られ、隣でじっと聞いてたヘリオが嬉しそうに胸を張る。
「ボクは両方使える」
「へぇ、両利きか。それじゃあ、両手で同じ物を持った方が色々と応用できそうだな」
「ちなみに……その盾に、魔術耐性を持たせたりは……」
「それもできる。――まぁ、コレは高くはなるがな」
ローズさんは親指と人差し指で綺麗な輪っかを作り、ニヤニヤしながらお馴染みのジェスチャーでお金を表現してみせた。
懐には優しくなさそうだが、ヘリオには『魔術耐性マイナス』のスキルがある。彼女にとってどんな魔術攻撃も致命傷になりかねないため、やはり魔術耐性も必要不可欠だろう。
自分は覚悟を決めて、ローズさんに力強く頷いてみせた。
ヘリオの盾の方向性が決まり、自分は隣でまだ期待に満ちた視線を送ってくるハートへと向き直った。
「……ローズさん、彼女は従者なので、普段の街歩きでも警戒されにくい『トランクケース型』の変形武器なんて作れますか?」
「トランクケース?」
突飛な形状の要求に、ローズさんが片眉を上げる。
自分は構わず、頭の中にある漠然としたイメージを伝えていった。
「はい。通常時はただのトランクケースなんですが、戦闘時にはそれを開閉なり変形なりさせて戦えないかと」
「変形銃みたいなヤツか」
「えぇ。それで、彼女は筋力が特別高いわけではないので、素材自体はかなり軽い物でお願いしたいです。その代わり、魔力を流すことで硬度や強度を引き上げられるような仕組みにしたりできますか?」
「その仕組み自体はいくつも作ってるから簡単だ。……で、どんな機能を持たせる?」
「そこは……本人の希望を尊重しようかと」
そう言って、自分はハートの方に視線を向けた。
彼女は静かに一歩前に出ると、はっきりとした口調で自分の意見を発言する。
「それでしたら、主を守る盾と、主の敵を排除する剣を所望します」
彼女が求めたのは、純粋な盾と剣の機能だった。
現在のパーティーメンバーには戦闘できない仲間も増えてきたため、前衛以外にも追加の守り手が欲しかったところだ。おそらく、察しの良い彼女はその状況も考えてくれたのだろう。
「注文としては少し面白さに欠ける機能だが……ちょうどいいアイデアが思いついた。せっかくだ、それも組み込んで試させてもらおう」
二人の武器案を一通り伝え終え、作成自体は引き受けてもらえそうなことに、自分はまずホッと一安心した。
「あの……それで、費用は一体どれくらいになりそうでしょうか?」
自分の質問に、ローズさんは不敵な笑みを浮かべ、指をいくつか動かして計算を弾き出した。
「そうだな……ハートの嬢ちゃんの武器を、俺の趣味で少しアレンジさせてもらう。それを条件にするなら、二人分合わせて『600万フラ』で手を打ってやろう」
「ろ、600万……やっぱりそれぐらいかかりますか」
覚悟はしていたが、やはりかなりの金額だった。
また金策を頑張らないといけないな。
そんな自分を見て、ローズさんはニカッと笑って肩を叩いた。
「まぁ安心しろ。完成したら現物は先に引き渡してやる。支払いは、それから少しずつ借金を返していく形で構わねぇよ」
「え……先に引き渡してくれるんですか?」
「ああ。お前たちなら、踏み倒さずに支払うだろうからな」
ぶっきらぼうに言ったローズさんの言葉に、自分は胸の奥が熱くなるのを感じた。
「それに、上司の『武器の神』に以前の魔術銃と今回の魔術籠手を報告したら、かなり評価が良くて、たんまりのボーナスをポンッと出してくれたからな」
そう言って、ローズさんは少しあくどい顔をして見せた。
おそらく、今回の新しい盾と変形武器でも、自分たちの料金とは別ルートでさらに稼ぐつもりなのだ。
――実に抜け目がない。




