#19 勇者ゴールド
昨日、諸事情で一発も魔術銃のテストができなかった自分たちは、気を取り直して再び工房都市の冒険者ギルドを訪れていた。
今日こそはと金策とテストを兼ねて掲示板の依頼を吟味していた最中、突如としてギルド内がバタバタと波打つように騒がしくなった。
どうやら、冒険者界隈でも高名な、若き『勇者』のパーティーがギルド内に入ってきたらしい。
その中心に立つ一人の青年はハッとするほど容姿端麗で、いかにも『本物の勇者です』というキラキラとした聖なるオーラを全身から纏っていた。
周りを固めているメンバーも、女騎士、女弓使い、女魔術師、女僧侶と、一目で実力が高そうだと分かる選りすぐりの美女ばかりの面々だ。
彼らもクエストを確認しに来たようで、自分たちのいる掲示板の前まで歩いてやってきた。
青年がこちらを認識したかと思うと、一瞬だけ少し間を置いてから、何かに気づいたように嬉しそうな顔になって自分へとフランクに話しかけてきた。
「まさか、こんな場所で『同郷』に会えるなんて思わなかったよ。……よかったら、向こうの席で少し話さないかい?」
――どうやら、目の前の勇者様も自分と同じ転生者らしい。
特に断る理由も無かったため、自分はルピナスたちを待たせて、彼と二人でギルドの席に座って話をすることになった。
「やっぱり、あの終盤の展開がいいよね! 今までの泥沼の争いが嘘のようにピタッと収まって、宿敵同士が共闘しだす熱いシーンさ!」
前世のアニメやゲームの趣味が驚くほど完全に一致していたため、自分は彼――ゴールドとは、驚くほどすぐに仲良くなることができた。
詳しく話を聞けば、彼は『英雄の神』の神下であるらしい。
そんな会話の流れから、信頼の証として彼のギルドカードを見せてもらえることになった。
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ゴールド 人族/男 20歳
職業:勇者 冒険者ランク:S
能力値(最大数値10)
筋力:10
耐久:10
魔力:10
知力:10
俊敏:10
器用:10
運命:10
成長:10
所持スキル
特級剣術、特級攻撃魔術、全魔術耐性、高速治癒、状態異常無効、予知眼、千里眼、鑑定眼
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提示されたカードを前に、自分は引きつった笑いを浮かべたまま完全にフリーズした。
彼の能力値は、全ての項目が限界値である『10』。
それだけでなく、所持スキルの欄にはチート級に強力そうな名称ばかりが、ズラリと記載されていた。
聞けば、彼がこの世界へと転生する際、上司である『英雄の神』が「俺の神下なのだから、圧倒的に強くないと困るだろ?」と、最高ステータスを設定してくれたらしい。
――自分も、あの女神様のドジがなければ『成長10』で未来も明るかったのだが……。
いや、今更女神様を責めても仕方ないし、済んだことを愚痴っても何も始まらない。
ひとしきり前世のオタク趣味で楽しく談笑した後、ゴールドはふと遠い目をして、小さなため息を漏らした。
「ねぇクローバー。同じ世界から来た君だからこそ、話すんだけどね。……実は今、誰にも言えない悩みがあるんだ」
「君に、悩み……? 一体、どんな内容の?」
無敵スペックを持つ勇者様にどんな悩みがあるのかと、自分は純粋に首を傾げた。
「最近ね、なんだか『勇者』っていう存在に、なんだか飽きてきちゃってさ。これでも、転生して最初の方は満足してたんだよ? だけど、どんなに凶悪な魔獣や悪の組織の幹部みたいな強敵が来ても、何一つ苦労せずに勝てちゃうんだ。何の手応えもないし……全然楽しくないんだよ」
彼は弱り切ったように、力なく肩を落とした。
「……」
彼の、贅沢だが切実な悩みを聞いて、なんとなくだがその虚しい気持ちが理解できた。
前世で、特定の裏技コマンドを入力すれば、一瞬でレベル最大・無敵モードになれるゲームをやったことがある。
確かに最初はスカッとして爽快だけれど、どんな敵もボタン連打勝ててしまえるため、途中から驚くほど退屈で、虚しくなってしまう――まさに、あの感覚なのだろう。
「……月並みなアドバイスだけど、何か、今までやったことないような『新しいこと』でも試してみたらどうかな。戦いとか勇者とか、そういう肩書以外の、君自身が純粋に楽しめるようなこととかさ」
「新しいことか……。うん、そうだね。色々試してみるよ。ありがとう」
ちょうどこちらの会話がひと区切りついたのを見計らい、少し離れた席で交流をしていた女性陣たちも、こちらの様子を察してスッと戻ってきた。
「それじゃあクローバー、またどこかで会えた時は、今度はもっとゆっくり話そう!」
そうして、眩いばかりのオーラを纏った勇者一行は、ギルド中の冒険者たちの羨望の眼差しを浴びながら、賑やかに去っていったのだった。
「いやぁ、ゴールドってすごい人だったね。爽やかで人当たりもよかったし、ギルドカードを見せてもらったらステータスが全部10だったよ」
眩い勇者一行がギルドの扉から去った後、自分は前世の仲間を見つけた親しみから、純粋に感心しながら彼を褒めてみせた。
――その、瞬間。
ピキリッ……!!!
すると、周囲の空気が一瞬にして凍りついたかのような気配を感じた。
「クローバー、あの勇者本人の性格はともかく、彼が連れていた周りのメンバーの方は最悪でしたよ」
「えぇ……極めて不愉快で、品性の欠片も持ち合わせていない人々でした」
ルピナスが笑顔のまま引きつった声を上げ、隣のハートは感情のない冷徹な怒りを口にする。
見れば、ヘリオも拳をギチギチと強く握り締めているし、ホオズキやランティアまでがあからさまに機嫌が悪そうな様子だった。
「え、ええ……? みんな、向こうの席で一体何かあったのかい?」
困惑した自分が確認すると、彼女たちは一斉に愚痴を吐き出し始めた。
どうやら、楽しく盛り上がっていた自分たちとは違い、女性陣たちの席では、勇者パーティーの美女たちから『マウンティング』をこれでもかと仕掛けられていたらしい。
『私たちの勇者様は世界一カッコイイし優しくて特別なの』
『戦いの実力も名声も、あなたたちとは完全に規格外』
『そしてそんな勇者のパーティーに所属している私たちは、勇者様にふさわしい選りすぐりのエリートメンバーなわけ』
『それに比べて……そっちのリーダー、随分と貧弱で頼りなさそうで、あまりに可哀想(笑)』
『まぁ、メンバーの方もヘンテコでちんちくりんなお子様ばかりだから、お似合いっちゃお似合いね』
――それはもう、耳を塞ぎたくなるほどの痛烈な自慢話と、自分たちのパーティーへの理不尽な侮辱をこれでもかと吹っ掛けられたらしい。
遠くの席から「なんか女の子たちが仲良く話してるなー」とのん気に眺めていた自分は、恐ろしい女の戦いに、冷や汗が止まらなくなった。
「……ごめんね、みんな。リーダーの自分が不甲斐ないばかりに、みんなにそんな歯痒い思いをさせてしまって……」
自分が大人の良識から深く頭を下げると、彼女たちは、今度は自分を庇うように身を乗り出してきた。
「クローバーが謝ることなんて一ミリも無いですよ! 私たちもこれからもっとクエストで大活躍して、あの高飛車な女たちに目にものを見せてやりましょう!」
「はい! ご主人様のため、私は今日からより一層、従者として精進いたします!」
「次、クローバーを侮辱してきたら、絶対に後悔させる」
「あいつら、目つきがギラギラしてて怖いから大嫌いー」
「あんな退屈そうな連中といたら酒がマズくなるよ」
ポンコツな自分を責めるどころか、全員が慰めてくれて、自分は不覚にも涙が出そうになってしまった。
自分をこんなに信じてくれる彼女たちのためにも、死ぬ気で頑張るしかない。
「目標は決まりましたね! ――打倒、バインバインです!!」
「「「おおーーっ!!!」」」
彼女たちの凄まじい私怨と嫉妬の籠もった団結の掛け声が、ギルドの片隅に響き渡る。
――自分は、そんな彼女たちをひとまずそっと放置して、ランティアと二人だけで、掲示板のまともなクエストを探しに移動するのだった。




