#16 歓迎会の翌朝に
巨大スイーツゴーレムを討伐したため、自分たち一同は、お菓子の宴で大はしゃぎする妖精たちに囲まれて、いつの間にか主役席へと座らされていた。
面倒な誘拐犯の裁判のことも、綺麗さっぱり忘れ去られたようで、深く一安心する。
自分はご機嫌になった妖精たちにお願いし、目的の『妖精の粉』を百匹分、大量に分けていただくことに成功した。
これで300万フラの納品クエストも無事に達成できそうなため、まさに万々歳である。
その後はこれといったトラブルも無く、自分たちは無事に工房都市へと帰還した。
「おかえり。その様子だと、無事に素材を集めてきてくれたみたいだな。ありがたい、これで新しい魔道具の研究に取り掛かれるよ」
魔道具工房の主は、満足そうに妖精の粉を受け取った。
「それにしても……随分と、人数が増えたな?」
職人に言われて、自分は不思議に思って後ろを振り返った。
そこには、メンバーのルピナス、ヘリオ、ハートの三人に加えて、何故か当たり前のような顔をして並んでいるホオズキと、あの本の妖精の姿があった。
パーティー外の人物が、いつの間にか二人もいる。
どうやら、妖精の里からここまでずっと付いてきてしまったようだ。
「えーっと……二人は、どうしてここにいるのかな?」
自分の純粋な疑問に、ホオズキは『何を言ってるんだコイツ』とでも言いたげな、不思議そうな無表情のままこちらを見つめてくる。
「だってアンタほど面白そうなヤツ、初めて会ったからね」
妖精の彼女――アストランティアは、ケラケラと愉快そうに笑いながらそう返してきた。
「まぁ、アンタたちの事情はよく分からんが……それだけの大所帯になったんなら、この試作品の魔道具も大いに役立つだろう。約束のオマケだ、やるよ」
職人の男性は、そう言って手のひらサイズの一つの不思議な『キューブ』を軽く手渡してきた。
透過したキューブの中を覗くと、精巧に作られた家のようなミニチュアが綺麗に見える。
「そいつは『携帯できる家』だよ。魔力を注げば、実際の大きな一軒家ほどに空間が拡張されて物質化する。元の箱に縮小して戻すには、家の中にある解除スイッチに触ればいい。家は瞬時に収納されて、中にいた人は全員安全に外へと転移させられる仕組みだ」
――どうやら、持ち運び可能なマイホーム、らしい。
家? 軽く手渡されたが、この魔道具、もの凄く高値がつく代物なのではないだろうか?
普通の冒険者が、タダで貰っていいようなものではない。
タダより高い物はないのだ。
「あの……これ、流石に高価すぎるんじゃあ……」
「高いよ。めちゃくちゃ高い。けどね、そいつは物質化させるための『必要魔力』の基準が高すぎて、普通の魔術師じゃあビクとも動かせなくてね。誰にも売れずにずっとウチの倉庫に眠っていた『不良在庫』だから、気にするな」
予想外の追加報酬で、自分たちは『いつでもどこでも無料で泊まれるお風呂付きのマイホーム』を手に入れてしまったのだ。
これなら、これからの旅の宿代は一切気にしなくて済むし、莫大な生活費の節約ができる。
相手が不要だというのなら――これからの武器代のために、ありがたく頂戴してしまおう。
「報酬の金は冒険者ギルドに預けてあるから、報告も兼ねて今から受け取りに行ってくれ。また何か大きな案件があったら、次もアンタたちに最優先で頼むよ」
魔道具工房の主に見送られて店を後にした自分たちは、さっそくギルドへ向かって、約束の報酬である『300万フラ』の報酬を無事に受け取った。
ついでに、里から当たり前のように付いてきてしまった二人をカウンターへ連れていき、臨時の冒険者登録手続きを済ませることにした。
登録完了後、さっそく手渡された二人のギルドカードを順番に確認させてもらう。
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ホオズキ 人族/女 12歳
職業:召喚士 冒険者ランク:E
能力値(最大数値10)
筋力:2
耐久:2
魔力:8
知力:1
俊敏:2
器用:6
運命:5
成長:2
所持スキル
召喚魔術
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アストランティア 妖精族/女 93歳
職業:学者 冒険者ランク:E
能力値(最大数値10)
筋力:1
耐久:1
魔力:6
知力:9
俊敏:2
器用:2
運命:4
成長:2
所持スキル
全能の本、中級回復魔術
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提示されたカードの数字を順番に見比べて、自分は深く、ため息をついた。
ホオズキの知力、堂々の『1』。
――うん。彼女はやっぱり『アホの子』だったようだ。
それでも召喚士としての才能は本物だし、あのペンギンのレヴィアタンも間違いなく強力な召喚獣だった。
そして、アストランティア。
彼女は妖精のため、本人自体は強くはない。
が、知識面での強力なサポートが期待できるだろう。
――総じて。
新しく入ったこの二人に対しても、自分の貧弱すぎるステータスとの圧倒的な格差を、嫌というほどに感じさせられる結果となった。
え? まだ我がパーティーには、ハートがいるじゃないかって?
冗談を言っちゃいけない。あの子は『成長8』という輝かしい未来がハッキリと記載されているのだ。
これから化ける可能性しか秘めていない超優秀な原石と、伸びしろが完全に終わっている自分を、絶対に一緒にして比べてはいけない。
その後はローズの工房へ向かい、手に入れた報酬から自分用の魔銃の代金とルピナスの籠手の頭金を支払った。
そして現在――。
自分たちは手に入れたばかりの魔道具が実際にどのようなものなのか試すため、工房都市のすぐ外にある広い平原へとやってきていた。
「それじゃあルピナス。このキューブに、君の魔力を注いでみてくれるかい?」
「はい、やってみます!」
ルピナスが興味津々でキューブに魔力を注ぎ込んだ――その瞬間、まばゆい光と共に、何もない平原に突如として立派で大きな一軒家が姿を現した。
自分たちが恐る恐る中を確認してみると、広々とした綺麗な台所に、念願の大きなお風呂、清潔なトイレまで完璧に揃っている、文句のつけようがない最新の設備だった。
さらには、自分たち全員分以上のゆったりとした個室まで完備されている。
「すごいですよ、クローバー! これなら今後の旅で野宿の心配は一切ありませんし、そこらの安宿よりも遥かに設備が豪華です! 荷物の重さを気にせず、各自の私物だってたくさん揃えられますよ!」
「……ボクとクローバーの、愛の新居……♪」
「この素晴らしい環境があれば、今後のご主人様のお世話と身の回りのケアが、より万全の体制で行えます!」
ルピナスが飛び跳ねて喜び、ヘリオがうっとりと部屋の寸法を測り始め、ハートが狐耳をピンと立てて従者としての野望を燃やす。
それだけでなく、新入りのホオズキやランティアの二人も、初めて見る持ち運びマイホームの仕組みに楽しそうにはしゃいでいた。
一気に全員のテンションが上がった自分たちは、新メンバーの歓迎会を兼ねた『盛大な新居パーティー』を今夜ここで開催しようと、満場一致で決定した。
そこからは役割分担で大急ぎで準備を始めた。
ルピナスとヘリオが食材の買い出しへ向かい、ホオズキとランティアが飲み物の調達を立候補したため任せる。
自分とハートは食器類や細々とした備品の調達に回る。
料理は、自分とハート、そして不慣れなりに少しだけ手伝ってくれたルピナスの三人で手分けして美味しく仕上げた。
数時間後には、待ちに待った歓迎会を兼ねた盛大な大パーティーがスタートした。
「それじゃあみんな、これからの我がパーティーの未来に――乾杯!」
威勢よく乾杯をして、自分はホオズキとランティアがどこからか調達してきた、透き通った謎の飲み物に真っ先に口をつけた。
――美味い。
フルーツのように甘いのに、後味はすっきりしていて、ハチャメチャに飲みやすい極上のジュースだった。
だが……そこからの記憶は、徐々に消えていくのだった。
一杯、二杯と口にするごとに、なぜか信じられないほどの勢いで全員のテンションが文字通りに爆発していく。
最高に楽しくてハチャメチャに愉快な気分のまま、自分たちは吸い込まれるように、全員まとめてその場に倒れ込んで意識を失ってしまうのだった。
そして、翌朝。
小さな鳥のさえずりで、自分は目を覚ました。
「……うぁ、頭が割れそうに痛い……」
酷い頭痛と同時に、自分の体に妙な違和感があった。
いつもならきちんと服を着て寝ているはずなのに、今は布切れ一枚すら身に着けていない。
おそらく自分は今、完全なる全裸なのだろう。
異変を察して体を動かそうとするが、何故か重くて動けない。
仕方なく視線だけを周囲に動かしてみた――その瞬間、自分の心臓が跳ね上がった。
自分の体にぴったりとくっつくようにして、彼女たちが幸せそうに眠っていたのだ。
肌同士が直接触れ合っている生々しい感覚から、彼女たちも一切の服を身に着けていないのだと瞬時に分かってしまう。
あまりにも刺激的すぎる状況に、頭痛の酷い頭がさらに大混乱を起こす。
そうして自分が固まっていると、体温の異変を察した彼女たちが、うっすらと目を覚まし始めた。
「んぅ……おはよう、ございますクローバー……? ――えっ、クローバー!?」
「……クローバー、あったかい……おやすみ……」
「ご主人様ぁ……はぁ、ご主人様の素晴らしい匂いが、全身から……♪」
寝ぼけていた彼女たちが、徐々に現在の驚愕の状況を理解しだした。
ルピナスは一瞬で顔を真っ赤にして大パニックになり、ヘリオはトロンとした至福の目のまま絶対に離れようとしない。
ハートは神妙な顔をして必死に昨夜の記憶を辿り始めている。
ホオズキはまだ爆睡中だ。
部屋中が何とも言えない奇妙な雰囲気に包まれる中、自分の体の上で堂々と寝ていたランティアが、小さいながらもパーティー唯一の『豊満な体』をフラフラと揺らしながら、のんきに呟きだした。
「うぅ……頭がガンガンするぅ……。おいホオズキ、昨日の残りからあの『美味しいジュース』を持ってきな。迎え酒だよ、迎え酒……」
「……ランティア。君、今『迎え酒』って言ったかい?」
自分の問い詰めの結果、この惨状を引き起こした、最悪の原因が判明した。
どうやら、自分たちが昨夜ジュースだと思ってガブガブ飲んでいた液体は、『かなり度数の高いお酒』だったらしい。
そりゃあ、全員の記憶が完全に吹き飛ぶまで乱れるわけである。
よく周囲を見渡すと、残った飲食物や床に脱ぎ散らかされた衣服に混じって、誰かが嘔吐したらしき痕跡まであり、新居の広間は大変な散らかりようだった。
「……と、とりあえず、みんな落ち着いて何か服を着るか、体を隠そう。話はそれからだ」
理性を総動員し、現状をなんとかしようと声をかける。
――しかし、その途中で、自分のすぐ側にいるルピナスとハートの様子が、明らかに不自然におかしくなった。
二人の顔はみるみるうちに青ざめていき、口を両手で強く押さえて、もの凄く気持ち悪そうに身をよじっている。
「え……? 二人とも、大丈夫――」
自分が心配してそう問いかけようとした、まさに次の瞬間だった。
――オロロロロロロロロッ!!!
衝撃的な音とともに、容赦のない嘔吐が自分を襲う。
激しい二日酔いに襲われたルピナスとハートの二人が、目の前にいた自分に向けて宴の残骸を盛大にぶちまけたのだ。
――数十分後。
「終わった……私の人生終わりました……。こんな粗相をして、私はきっと、パーティーから追い出されます……」
「ご主人様に……私は従者でありながら、なんておぞましい粗相を……もう、従者失格です……」
「大丈夫、二人とも。クローバーは優しいから、絶対に許してくれる」
新居のお風呂場からは、この世の終わりかと思うほどの絶望に満ちた二人の泣き声が響いていた。
そんな可哀想な二人を、ヘリオが珍しくお姉さんのように優しく慰めながら、一緒にお湯で体を洗ってあげている。
「あ”ぁ”ぁ”ー……。やっぱり朝風呂はさいこーだねぇ。酒が全身に染み渡るよ」
すべてのやらかしの元凶であるランティアは、小さな体でお湯にぷかぷかと浮きながら、優雅に迎え酒のグラスを傾けて湯船に浸かっていた。
ホオズキは相変わらず、湯船の端っこでぼーっとお湯をパシャパシャしている。
「ハハ……。まぁ、あの最悪に気まずかった奇妙な空気感が……別の意味でなんとかなって良かったよ……。うん、そうだよ、生きてるだけで丸儲けさ……」
一方で、クローバーは一人、魂の抜けた死んだような目をしながら、誰もいなくなった広間で黙々と床の雑巾がけをしていた。
浴びせられた嘔吐物まみれの体のせいで、自分の服すら着させてもらえず、完全なる全裸のまま。




