#13 アメリカン武器職人
工房都市『ネムノキ』へと無事に到着した自分たちは、あちこちから金属を叩く槌の音が響く、職人たちの活気にあふれた賑やかな街並みを見渡した。
女神様の話によれば、この無数にある工房の中から、他の神様の部下が営んでいる店を自力で探さなければならない。
――だが、そんな苦労をするまでもなかった。
職人街を進む自分たちの前に、ひときわ異彩を放って目立つ工房がぽつんと現れたからだ。
この世界ではまず見かけない、前世の記憶にある『ウエスタン風』の木造建築。
入口のドアの上には、牛の角……いや、おそらくは何らかの凶悪な魔獣の角が誇らしげに飾られている。
そして何より、看板にはこの世界の文字ではなく、堂々と『英語』で『Rose’s Workshop』と刻まれていた。
(……あれでは、この世界の住人は文字を読めないのではないだろうか?)
だが、自分にとってはこれ以上ない完璧な目印だった。
確実に転生者か、あるいは神様関係の人間が関わっている。
自分は確信を持って、ルピナスたちを引き連れてそのウエスタンな工房のドアを押し開けた。
中に入ってみるものの、受付のカウンターには誰もいなかったため、ひとまず「すいません」と奥へ向かって声をかけてみる。
すると、奥の作業場から仕切りを押し分けて、一人の大柄な人物が出てきた。
衣服の上からでも一目で分かる。
全身の筋肉が岩のようにムキムキに盛り上がった、凄まじい体格のマッチョマンだった。
「いらっしゃい。ウチの店に何か用かい」
低く響く、ひどく無骨な声。
自分は丸眼鏡の位置を直しながら、単刀直入に尋ねてみることにした。
「あの……大変不躾ながら、もしかしてあなたは、何らかの神様の『神下』でしょうか?」
「あぁ? ――なんだ、同業か。俺は『武器の神』の神下だが、あんたはどこの所属だ?」
「自分は『愛の神』の神下、クローバーと申します」
「愛の神か、いいじゃないか。愛は大事だ」
マッチョマン……名前はローズと言うらしく、彼はニヤリと豪快に笑った。
どうやら最初の第一印象は悪くないらしい。
自分はホッとしつつ、さっそく彼に装備品についての相談を持ちかけてみることにした。
「なるほどな。話は分かった。だがなぁ、兄ちゃん。俺は『武器の神』の部下なんだ。どこにでもある普通の剣や、ただの魔術師の杖なんて退屈なモンは絶対に作らない主義でね。持ってきたアイデア次第で、とびきり面白い武器なら喜んで作ってやる。もし俺を唸らせるような面白い構造なら、代金も色々とサービスしてやってもいいぞ」
ローズさんは太い腕を組み、不敵な笑みを浮かべてこちらの引き出しを試すように言った。
退屈な武器は作らない、か。
自分は前世の男のロマンを思い浮かべながら、ふと気になっていた兵器の名を口にしてみた。
「ちなみに……『銃』って、この世界の技術で作ることは可能ですか?」
「銃か。作れないことはないが……お勧めはしないな。この世界は火薬の原料がめちゃくちゃ貴重だし、何より普通の一般人相手ならともかく、ある程度強い戦士や硬い皮膚を持つ魔獣が相手だと、ただの弾丸じゃあ効果が薄いんだよ」
「それじゃあ、『魔術を撃つ銃』なら、この世界の技術で作ることは可能ですか? たとえば、リボルバーのような回転式の機構に、あらかじめ魔力を込めた特殊な弾丸を装填して、こう……説明が少し難しいですが……」
自分が前世の知識を絞り出してジェスチャーを交えると、ローズさんは太い腕を組んだまま、フムと顎を引いた。
「いや、なんとなく伝えたいことは分かるから大丈夫だ。なるほどな、火薬じゃなくて魔力で魔術を放つ銃か……試してみる価値はあるかもしれない。それに銃自体はウチに試作品があるから、それを使えばそれなりの期間で形にできるだろう」
どうやら、ローズさんの及第点は超えられたようだ。
自分は心の中でホッと胸をなでおろした。
「ちなみに、その魔術銃の使用者はどいつなんだ?」
「彼女を想定しています」
自分が一歩後ろにいるルピナスを紹介すると、ローズさんはその途端、太い眉間にこれでもかと深いシワを寄せた。
「……そのお嬢ちゃんか。まだ完成したわけじゃないから確実にそうとは言えないが、おそらくそいつじゃあ扱えないだろうな。魔力が高すぎるせいで、引き金を引いた瞬間に銃自体が魔力に耐えきれず、手元で暴発して消し飛ぶのがオチだ。その手の魔導銃を使う奴は、できれば魔力が極めて低いやつがいい。ギルドの数値で言えば『1』か……あるいは滅多にいない『0』の奴だな」
「……それなら、魔力がゼロの自分が使用することになると思います」
どうやら魔術銃のアイデアは、魔力の高いルピナスには合わなかったようだ。
彼女の欠点を解決する別のアイデアは無いだろうかと、自分は諦めずに工房内をぐるりと見渡した。
――その時、棚に飾られていた、試作中らしき頑丈で派手な『金属製の籠手』がパッと目に入った。
前世のアニメやゲームで見た、手で相手をガシッと掴んだり、掌からビームを放って戦うロボットやヒーローたちの映像がフラッシュバックした。
(……あれを参考にすれば、ルピナスの悩みを解決できないだろうか。彼女は素手でも十分に強いのだから、前衛として立ち回っても何の問題もなさそうだし)
自分はすぐさま、ルピナスの魔術の欠点を伝えながら、ローズさんに新しい籠手型武器の相談を持ちかけた。
「……なるほど、面白い! 悪くないぞ、兄ちゃん! その嬢ちゃんみたいなステータスは特殊だから、誰でも使えるわけじゃないが……世界に一つだけの一品物の特殊武装、実にいいじゃないか! 手で敵を掴んで単体、掌から前方へ一気に放射、もしかしたら魔術を無理やり使い分けられるかもしれない。本来の杖は籠手に仕込み、使い切ったら補充する機構にすりゃあいいしな!」
「すごいですね、クローバー! 私、そんな凄いアイデア思いつきもしませんでした……!」
横で話を聞いていたルピナスが、自分の悩みが解決する未来に、大興奮で喜んでいる。
――だが、現実的な話としての問題はここからだ。
自分は意を決して、最も重要な質問を投げかけた。
「……ちなみに。今お話ししたその二つの武器を正式に制作していただく場合、費用は一体、いかほどになりますでしょうか」
「そうだな。魔術銃の方はウチの試作品をベースに使い回せるから、50万フラもあれば作ってやれる。専用の弾代は別にかかるだろうがな。……だが、そっちのお嬢ちゃんの『魔術籠手』の方は、完全新規設計の上にこれまでにない未知の新機構だ。俺の研究も兼ねた特別サービス価格だとしても、最低でも500万フラはくだらないぞ」
「ご、ごひゃくまん……っ!?」
ルピナスがその天文学的な金額の高さに、一瞬で顔を真っ青にして目を丸くした。
単純計算で、彼女が普段魔術を撃つごとに消費しているあの杖が一本5万フラなので、百本分だ。
先日25万フラの報酬を貰って大喜びしていたばかりの彼女には、一生かかっても絶対に払えない絶望的な金額だった。
「開発自体は俺の趣味と研究を兼ねて進めておくが、実際に完成品を渡せるのは、当然だがその大金がちゃんと用意できてからだ」
「クローバー、……ボクの分の、武器のアイデアも、ある?」
ヘリオが少しだけ羨ましそうに、服の袖をぎゅっと引っ張って上目遣いで尋ねてくる。
「あるにはあるんだけど……まだちょっとアイデアが固まりきっていないかな」
「ご主人様、私は――」
「ハートは……まだこれからの成長の余地が大きいからね。将来の戦闘スタイルや方向性の問題もあって、まだ色々と悩んでいるんだ」
自分が苦笑いしながら答えると、腕を組んだローズさんが豪快に笑って肩を叩いた。
「ガハハ! どのみち、そんなに何個も同時には作れねぇよ! 作る方の身にもなってくれ。まぁ何にせよ、ウチの武器が欲しけりゃとんでもねぇ大金が必要だ。しっかり金を稼いで、またいつでも来な!」
ひとまずその場はお開きとなり、自分たちは今後の莫大な『金策』の計画を練るため、急いで宿屋へと戻って作戦会議を開くことにした。
「さてみんな。戦力強化のために、500万フラという想像を絶する大金が必要になってしまいました。あいにく『特別依頼』は現在ストップしているから、まとまったお金を稼ぐ手段としては、地道にギルドクエストをこなすか、それとも素材が高額で売れる危険な高ランク魔獣の討伐へ挑むか、のどちらかになります。みんなはどう思う?」
自分が意見を求めると、ルピナスが真っ先に、けれど引き締まった強い目で口を開いた。
「私は、地道にギルドクエストを重ねるのがいいと思います。私の武器費用のために、皆さんをこれ以上危険な目に合わせたくありません」
ルピナスのその健気な選択に、残る二人の女の子たちも、当然のように力強く言葉を続けた。
「今の私たちでは、無理に高ランクの魔獣へ挑むのはリスクが高すぎると思います。地道に行くべきかと」
「ボクも……今のままだと、何かあった時にみんなを守り切れるか、自信がない。だから、一歩ずつ強くなりたい」
女の子たちのその言葉を聞いた瞬間、自分は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
どうやら、いつの間にか彼女たちの『仲間意識』は、自分の想像以上に強く、固く結ばれていたらしい。
戦闘では役に立たない貧弱でお荷物リーダーな自分だが、彼女たちの仲がこうして深く深まってくれたことが、何よりも嬉しくて仕方がなかった。
「分かった。みんな、ありがとう。それじゃあ方針は決まりだ。明日からまた、コツコツと依頼をこなしていこう!」
――こうして、我がパーティーの方針は、一歩ずつ地道に進む方針へと決定した。
目指すは550万フラ。




