#12 夢
馬車の心地よい揺れの中、ボクは、昔の夢を見ていた。
昔のボクは、ずっと寂しかった。
家族のみんなは優しかった。けれど、それでも、心のどこかがずっと寂しかった。
ボクには、友達がいなかった。
触るもの全てを、すぐに壊してケガをさせちゃうから。
他のみんなには当たり前にあって、ボクにだけないもの。
家族は「気にするな」って言ってくれたけど、他のみんながずっと、羨ましかった。
婚約者もいなかった。みんな、ボクを怖がって近づかないから。
パパとママも、昔は婚約者だったらしい。二人を見ていると、いつも幸せそうだった。
それも、すごく、羨ましかった。
周囲の大人たちが、陰でボクを「化け物」って呼んでいるのは知ってた。
ママがボクを不憫に思って部屋で泣いて、パパがそれを必死に慰める。
――別に、こんな力なんて、いらなかったのに。
そんなある日、パパとママが一人の男の子を我が家へと連れてきた。
どこか、少しだけ疲れた顔をした、ボクより少し年上の男の子。
彼は優しく微笑みながら、ボクに向かって真っすぐに話しかけてきた。
でも、ボクは期待しなかった。
今はまだ、ボクの異常な力を知らないだけ。
知ればすぐに、他のみんなと同じように化け物扱いして、怖がって逃げると思ったから。
――だけど、彼は最初から、すべてを知っていた。
知っていてなお、ボクを怖がらず、優しく気遣ってくれたのだ。
なのにボクは、そんな彼を傷つけてしまった。
力加減ができなかったから。
痛がらせて、苦しそうな顔をさせてしまった。
あぁ、やっぱり彼も、ボクから離れていくんだと思った。
絶望した。
でも――彼は、ボクから離れていかなかった。
むしろ、「自分を練習台にして、これから力加減を学べばいい」と、不自然に曲がった自分の腕を隠しながら、彼は笑顔で言ってくれた。
加減ができるようになれば、これから友達だってたくさん作れるようになる、と。
「自分に友達はいないから、作り方は教えてあげられないんだけどね」なんて、少し困ったように笑いながら。
それからボクは、彼と一緒に、力加減の特訓を何度も何度も重ねた。
いつも疲れた顔をしていた彼に、どうしてそんなに疲れているのか、聞いたことがある。
彼は、他の人の数倍は努力しないと、まともな力が手に入らない体らしい。
そんな頼りない自分を、なんとかしたくて毎日必死に頑張っているんだ、と。
ボクは、強すぎる力を持っていて悩んでいた。
彼は、弱すぎて力を持っていなくて悩んでいた。
正反対の悩みだけど、彼とならなんとなく、パパとママのような幸せな関係になれる。
そう、幼心に思い始めていた。
――けれど、彼との婚約は、ある日突然、無慈悲に消えてしまった。
最初は、彼に嫌われてしまったのかと思った。
ボクがいつまでも力加減を覚えられなくて、彼に怪我ばかりさせてしまうからだと。
でも、それは違った。
彼は何も悪くない。彼の父親が悪かった。
あの父親のせいで、彼は友達ができないのだと知った。
あの父親のせいで、彼があんなに疲れているのだと知った。
あの父親のせいで、――ボクの光は理不尽に奪われた。
彼はあんなに助けてくれたのに、小さなボクは何もできず、ただ無力だった。
悲しかった。悔しかった。寂しかった。惨めだった。神様なんて、この世界にはいないと思った。
何日も、何日も、暗い部屋に一人で閉じこもった。
心配したパパとママが、泣き続けるボクに一つの解決策を教えてくれた。
家同士の婚約がダメになっただけで、個人として迎えに行くなら何も問題はない、と。
相手が成人してしまえば、あの父親だって口出しはできないのだから、と。
それからは、毎日頑張った。
途中だった力加減の特訓も、一人で涙を流しながら練習した。
人対してだけは、なんとか加減できるようになった。
料理や家事、花嫁修業だって、不器用なりにたくさん練習した。
――でも、こっちはあんまり……上手になれなかった。
だから、家事がダメな代わりに、力の弱い彼を今度こそ守れるよう、どんな敵からいつでも守ってあげられるよう、ボクは『盾』の使い方を、必死に覚えた。
友達も、少ないけれど、できた。
彼への想いを、胸の中でずっと、ずっと募らせた。
感動の再開……はなかったけれど。
彼はボクの名前を憶えていてくれた。
ボクはこうして、大好きな彼にまた会えた。
ルピナスにハートという、新しい優しい友達も二人できた。
「――リオ……ヘリオ。起きたかい? もうすぐ、目的地の工房都市に到着するよ」
夢の向こうから、彼が優しく、自分を呼ぶ声をかけてくれる。
ゆっくりと目を開けると、そこには、自分の大好きな彼の姿があった。
緑の髪で、丸眼鏡をかけて、いつもどこか自信なさげな表情。
自分より少しだけ年上のはずなのに、何故か、すごく頼もしい年上のおじさんのように振る舞う。
まだ彼とは、パパとママのような幸せな『夫婦』の関係にはなれていない。
――でも、今はこうして、彼のすぐ隣にいられる。
もう、絶対に離さない。
何があっても、ボクがこの盾で、彼を一生守り抜くんだ。




