#11-EX お風呂の三人
――クローバーが部屋で一人、女神様への報告を済ませていた頃。
宿の湯気の中、広めの浴槽に浸かりながら、ヘリオが少し真面目な表情でルピナスとハートに話しかけていた。
「二人とも、今日は覚悟できてる?」
ルピナスもハートも、その『覚悟』が一体何のことか分からず、お湯の中でキョトンと首を傾げる。
「ボクのパパとママが言ってた。人は死にかけたら、生殖本能が強くなるって」
「せ、せいしょく……っ!?」
ヘリオのあまりにも直球な単語に、二人がお湯を吹き出しそうな勢いで驚く。
「彼は今日、死にかけた。至近距離で右腕を石化させられて、本当はすごく怖かったはず。ボクは不意打ちの一瞬で固まったから平気だけど」
「……確かに、ご主人様は気丈に振る舞われていましたが、私たちに心配をかけまいと無理をされていたのかもしれません」
ハートが狐耳をシュンと寝かせ、無防備にナイフ一本で食い下がった主の背中を思い出して胸を痛める。
「だから、お風呂から部屋に戻ったあとで『大事な話がある』って言われたら、それはきっとそういうこと」
「私と……ご主人様が、よ、夜の……っ」
ハートは主人に情熱的に迫られる妄想を爆発させ、一瞬で自分の世界へと深く潜っていってしまった。
「で、ですがっ! 私は……ヘリオやハートと違って、まだクローバーに好意すらまともに伝えてないですし……っ!」
ルピナスが顔を真っ赤にしてお湯をパシャパシャと跳ね上げるが、ヘリオは無表情のまま淡々と告げた。
「大丈夫。クローバー、ルピナスの短パンをいつも無意識によくチラチラ見てる」
「ふぇっ!? ――み、見られてたんですか私の太もも……っ!?」
前世が三十代おっさんであるクローバーの、年頃の女の子に対する無自覚な視線のデータは、ヘリオの恐るべき観察眼によって完璧に看破されていたらしい。
「……でも、ヘリオは平気なんですか? もし、自分以外の誰か一人が選ばれたらって」
「それも大丈夫。クローバーと結婚出来るなら、ボクは何番目の奥さんでも気にしない。それに――今夜は三人同時の可能性もある」
「さっ、三人同時……っ!?」
ヘリオの猛烈な勢いに完全に呑まれてしまった二人は、入念に体を洗い、大急ぎで体を拭いて寝間着に着替えると、お互いの襟元や髪型を鏡の前で何度も何度も入念にチェックし合った。
そして――期待と、緊張と、抑えきれない高鳴りで心臓を高ぶらせながら、宿の部屋のドアを開けるのだった。




