表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/67

威力偵察(後編)


 メイドは道場入口の引き戸をガラガラと開け、中に入っていった。

 あまりにも堂々とかつ平然としていて、まるでそれが日常であるかと錯覚しそうになる。

 だからだろう。

 中にいた奴らみな、きょとんとした顔をしていた。


 メイドはゆっくりと、落ち着いた様子で奥に進む。

 そして――当たり前のように、正面の男をその一刀のもとに斬り伏せた。


「は?」

「え?」

「あ?」


 マスクを取りくつろいでいたであろう亜線の奴らは、あまりのことに呆然としていた。


 彼らの視点で言えば

 十秒ほどの間に、何故かメイドが現れ、当たり前のように中に入り、一閃を浴びせてきたというのが先の出来事だ。


 あまりにも、情報量が多い。

 実際、理解がまったく追いついていない様子だった。


 数秒ほど時間が経過し、メイドは彼らに微笑みながら丁寧にお辞儀をする。

 そこでようやく、彼らも現状を認識し、状況が理解出来たようだ。


 俺たちが、侵入者であると。


「うおぉぉぉぉぉ!」

 金属バットを片手に男がメイドに突っ込む。

 後ろの二人はあたふたと拳銃を取り出し、構えようとしていた。


 その状況を遠巻きに観察し、俺はどうしようか考える。

 援護の必要はない。

 むしろ邪魔となる可能性の方が高い。

 かといって、入口でただつっ立ったままというのもちょっと情けない気がする。


 そう思っていると……がたりと、何かが揺れる音を耳にした。

 俺は様子を伺うため玄関を出て、道場の裏手に目を向ける。


 そこで、道場から逃げていく数人の背を俺は目撃した。


 中にいたのは四人。

 外で逃げているのは三人。

 メイドの気配察知は正確だったらしい。


 四人は皆、バラバラな方角逃げていく。

 そこで俺は気づいた。


 気づいてしまった。


 逃げる彼らの一人の手に、刀が。

 その刀を、俺は知っている。


 柄も鞘も、紫の混じった禍々しくも美しさを感じる黒。

 重苦しくも麗しい恩讐のような雰囲気を持つその刀の銘は――『八つ噛』。


 一瞬で、頭に血が上り、即座に恐怖で冷え込む。

 吐きそうなくらい、心臓が鼓動していた。


「まずい!」

 俺は道場に駆け込む、メイドに叫ぶ。

「まずいまずい! 最悪だ!」

「ど、どうしましたか!?」

 拳銃を躱しながら、メイドは顔をこちらに向ける。

「あいつら、アラハバキから刀を盗みやがった!」

「刀を……ですか?」

()()だ! 前九条に見せてもらった霊刀を、あいつら持ってやがる」

 メイドの表情が一瞬で変わる。

 温度が消え、刃のような鋭さだけが残った。


 霊刀。

 それは俺たち剣士の先祖が扱った古い刀を示す言葉となる。


 誰もが持てるアマツやカムイとは違い、選ばれた者にしか扱えない。

 神が授けた秘宝――あるいは、神そのもの。


 現在の刀はこの霊刀を解析し、電子制御で誰でも扱えるようにしたものだ。

 つまり霊刀とは、言ってしまえばカムイを数百倍に凝縮したような代物である。


 そんなものをテロリストが持ったらどうなるかなんて、正直考えたくもない。

 しかも、霊刀『八つ噛み』はカムイに改修されている。

 使用者がほとんどいない純粋な霊刀と違い、使い手の幅は広い。

 亜線の中に使い手が居たとしてもなんらおかしくはなかった。


 そして、たとえ使い手がいなくとも、売れば軽く数億になる。

 弱小とはいえ、亜線は自爆テロも平然と行うイカレ野郎どもだ。

 大金を渡すなんて考えたくもなかった。


「どちらに!?」

 俺が指を差すとメイドは二刀流に持ち替え、道場の壁を破壊する。

 そのまま、腕を交差するような構えで突撃していった。


 取り残され、道場の中を確認する。

 動くものは、どこにも残っていなかった。

「……さすが。きっちりトドメ刺してるなぁ」

 しみじみと呟き、俺も外に出た。




 正直、最悪の事態を想像している。

 秘蔵の霊刀とテロリストなんてのは、あまりにも嚙み合わせが良すぎる。

 名のある剣士や政治家、海外の要人でも斬られようものなら一瞬で国が瓦解するだろう。


 そんな心配をしていたけれど、その不安はありがたいことに懸念に終わった。


 俺が現場に到着した時には、既に『八つ噛』を持つ男は倒れていた。

 メイドと同時に息を吐き、額の汗を腕でぬぐう。

 動きがシンクロしながら視線がぶつかり、今度は二人同時に笑みを零した。


「すいません。何人か逃がしてしまいました」

「いや、これを逃がすよりはいい。これは最悪だ」

「そう……ですね。確かに……これは……」

 メイドは男の手に握られた『八つ噛』を見ながら、確認するように呟く。


 本物は一目見ればわかる。

 そう言われているが、まったくもってその通りだった。


 この刀を見れば心がざわつき、奪われそうになる。

 綺麗であるのは間違いないが、それだけじゃない。

 自分の中にある衝動のようなものを掴まれるみたいな、そんな感覚があった。


「……曰く付きの霊刀なんて代物が、アラハバキに眠っていたのですね」

「メイドは知らなかったのか?」

「はい。……カムイ化した霊刀。何故そんなものが……それに、どうしてアラハバキでは誰も使わなかったのでしょうか……」

「わからん。かなり厳重に管理していたから、歴史資料として残してたとか?」

 "やる"と九条に言われたことは、本気の発言か怪しいから黙っておいた。


「そう……ですね。貴重な歴史資料にもなりますし、霊刀の時点で宝物ですから、それはわかります。それなら何故カムイ化したのでしょうか」

 不思議そうにぶつぶつ呟きながら、メイドはしゃがみ、八つ噛を取ろうとする。

 直後――刀がぴくりと動いた。


 伸ばす手を止め、距離を取る。

 二刀を構えながら、メイドは訝しげに男を見た。


「トドメは刺さなかったのか?」

 メイドは首を横に振る。

「いえ。確かに刺しました」


 だが――刀が動いた。

 一瞬、反射のように。


 もう一度、びくりと。

 今度は、はっきりと腕が動く。


 その直後――死体が、立ち上がった。


「なっ!?」

 メイドの口から、驚愕がこぼれる。


 それは、紛れもなく死人だった。

 生きているはずがない。

 喉も、心臓も、胴体も穿たれている。

 これで動くなら、もはや化け物だ。


 それなのに――動いている。

 だが、その動きは人のものではなかった。

 不規則に、無理やり関節を引き動かしたような動き方。

 宙づりの糸に操られた人形のように、生物としてありえない動作を取っていた。


 死体は器用に刀を抜き、構える。

 身体の動きはめちゃくちゃなのに、刀の動きだけは妙に洗練されていた。

 誰が見ても、刀が本体であるとわかるほどに。


「刀に……支配されている? そんなことあり得るのか?」

「聞いたこともありません。まるで呪いの刀ですね……」

 実際、曰く付きの刀と言われても何ら違和感はない。

 そういう、悍ましい美しさをその刀は持っていた。


 がくんと糸に引っ張られるような動きの後、死体は人ならざる挙動で俺に特攻をしかけてきた。

 刀に引っ張られるような、そんな奇抜な動き。


 メイドのカバーは間に合わず、死体は俺の傍に。

 俺は覚醒開放を行い、斬撃を刀で受けた。


 あっさりと受け止められただけでなく、手にかかる衝撃は驚くほどに軽い。

 正直、拍子抜けだった。


 死体を弾き飛ばそうとする直前、どこからか声が聞こえた。

『違う』

 地獄の底から聞こえたような、低く冷たいかすれた声。

 そして俺がどうにかする前に死体は俺から離れ、今度はメイドの方に。


「そっちに――」

「――大丈夫です!」


 死体は刀を振り上げながら、メイドにまっすぐ突っ込む。

 メイドは動かず、じっと見据えながら待ち構えていた。


 二つの点が一つに交わり、死体の刀が振り下ろさる。

 そして――崩れ落ちたのは、死体の方だった。


 避けたようには見えなかったが、メイドに傷はない。


 ほっと安堵の息を吐き、俺はメイドの元に近寄る。

 その瞬間――メイドの目が見開かれた。


「あ、ああ……嫌。いやああああああああああああああああああ!」

 轟かんばかりの絶叫。

 その手には、いつの間にか八つ噛が握られていた。


『貴様だ』

 深い不快、底の声は主として彼女を選んだ。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ