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天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


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貴方を護る刀となるよう


 放課後、アセリアは一人作業研究室に籠っていた。


 長机をついたてで区切っただけの作業スペースは狭く、まるでラーメン屋の客席のよう。

 用意されているのは、性能の高くないパソコンと最低限の工具だけ。

 しかも無駄に騒がしい。


 それでも、一年生がすぐに使える作業部屋はこの程度のもので、そして今のアセリアにはこれで十分だった。


 その手にあるのは、伊織のためのハイエンドのアマツ。

 けれど、少しだけ違う部分もある。


 今、伊織が使っているものと同性能・同製品だが、このアマツには、『()』があった。


 通常、アマツに刃はない。

 それは武器であるが、同時に学生が扱うものであるからだ。

 物を断てないことはないが、指でなぞっても手が切れない程度に刃を潰してある。


 けれど、これは違う。

 今目の前にあるのは、大人同様の任務を遂行するために用意された、『実戦用の武器』だった。


 分解し、現れる抜き身の刃を見てアセリアは、静かに目を逸らす。

 綾華が一流の研ぎ師に頼み生み出された刃には、冷たい美しさが宿っていた。


「……改めて、よく出来てるなぁ、これ」

 一流メーカーのハイエンド機。

 それは最初からわかっている。

 そうではなく、純粋に道具として優れていた。


 分解、組み立てが用意であり、分解清掃もしやすい。

 中学生レベルのクラフト技術と取説があれば、初心者だっていじれる。

 改めて、本当に優れた道具とは何たるかを思い知らされた。


 いや、そうじゃない。

 玄宗という会社を、刀匠として考える方が違う。

 ここは、軍需企業だ。


「合理性の追求。道具としての洗練。これはこれで悪くない。けど……」

 武器としては、きっとこれで正しい。

 間違いなく傑作だ。


 だが、アセリアはこれが刀として優れているとは思えなかった。

 合理性以外の理こそが、扶桑における魂、『刀』であるからだ。


「……っと、今は集中しないと……」

 アセリアは刀匠思考になっていた頭を、メンテモードに戻す。


 この刀の仕上がりは既に最高の域にまで達している。

 汎用性という目で見れば、アセリア程度に改善する余地はない。


 だが、伊織の刀とするなら話は変わってくる。


 この汎用性の刀を、伊織の刀に仕上げること。

 それが、綾華に託されたアセリアの任務だった。


「防護に四割……。うーん、少ないような気がするんだけど……」

 パラパラと教本を見ながら、アセリアはモニターの数値を睨みつける。


 アマツを使うことで得られる効果は、大きく三つに分けられる。

 斬撃強化。

 身体能力強化。

 そして、全身の霊的保護。


 これらはすべて、霊力によって引き起こされる。

 三つの現象に対し、動力はたった一種類。


 霊力をどう配分するか。

 それもまた、長い扶桑の歴史における一つの命題であった。


 現在は『防護五割』『身体三割』『斬撃二割』が黄金比とされている。

 これが正解というわけではないのだが、防御を厚くすることが生存に直結するのは間違いない。


 一度霊力を籠めたらある程度維持できる他の二つと異なり、霊的保護は攻撃を喰らうほどに消耗する。

 継続戦闘力も兼ねていると言えば、偏重の理由も納得できるというものだ。


「……これ、ユーザーを剣豪で設定してるから四割なのか。いーくんの場合は五割……いや、五割五分に。でも……」

 伊織は霊力が高い方ではない。

 確かに、ここ最近で急激に成長した。

 綾華が感心するほどに霊力は高まった。

 アラハバキ一年の中では高い方に入るだろう。


 けれど、この刀が本来使うような存在と比べたら物足りないのは事実となる。


 だがそうなると、今度は別の問題が生じてくる。

 伊織の長所は天性の肉体による腕力。

 それを生かすため、身体強化に霊力を振りたい。

 さらに、短所である剣術を補うために、斬撃強化にもある程度霊力を振る必要がある。


 あっちを立てたらこっちが立たず、こっちを立てたらあっちが立たず。

 調整の初歩の初歩でしかない霊力分配に、アセリアは顔をしかめる。


 とはいえ、こうなるのは当然のこと。

 それは、刀扱う者なら誰もが一度は通り、そして立ち止まってしまう。

 そんな、答えのないジレンマだった。




 勉強机の上から、時計を見る。

 気づけばもう、夜の十一時だ。

 劣等生だから人より勉強する必要はあるだろうが、さすがにそろそろ効率が悪い。

 切り替える意味も兼ね、そろそろ寝ようか。

 そう思ったタイミングで、家の扉が誰かに開かれた。


 机を立ち、一階に降りる。

 誰かなんてのは考える必要さえない。

 俺が合鍵を預けたのは、あいつだけなんだから。


「どうした、ぴよこ? 何かあったのか?」

 玄関に向かいながら、俺は声をかける。


 そこにいたぴよこは、神妙な面持ちで刀を持っていた。

 メカメカしい、俺のと同系統のアマツ。

 いや、完全に同じデザインのもの。


「ごめん。遅くなった」

「いや、ありがとう。すまんな、苦労かけて」

 俺は刀を受け取り、軽く頭を下げる。

「いいよ。でももう少し調整がいるかもしれないから、試してくれない?」

「わかった」

 そう言って、俺たちは家の裏にある道場に向かった。


 水無川家はもともと剣術一門であるため、この家にも小さいながら訓練用の施設がある。

 ただ、ここはいろいろな意味であまり来たくない場所でもあった。

 俺が……というよりも、ぴよこがという方が正しいが。

 

「……綺麗だね。あんなことがあったなんて、信じられないほどに」

 ぴよこは呟く。

 その暗い表情の理由は俺にはわからない。

 けれど、泣きそうに見えて、俺はぴよこの頭をぽんぽんと撫でた。


「よく覚えてないけどさ、ここはそのままなのか?」

「うん。悲しいほどに……そのままだよ」

「そっか……」

 ぴよこはぎゅっと、俺の袖を握る。


 ここはぴよこのよく知る、思い出の場所に限りなく近い。

 けれど、近いだけ。


 ここにはもう、何もない。

 思い出さえも。


 この道場は騒動の際、完全に破壊され、その後に政府によって建て直された。

 だからここはもう、ぴよこにとっての思い出の場所でさえもなくなってしまっていた。


「……悲しい気持ちにさせてごめんな」

「大丈夫だよ、いーくん。それより早く使ってみてよ! ね?」

 わざとらしく笑顔を作り、ぴよこはそうせかす。


 俺は頷き、構えたまま覚醒状態に刀を移行させた。


 同じ武器だから、感覚は今までとほとんど変わらない。

 ただ……。


「重い……な」

「え? もしかして、重心が違う?」

「いや、そうじゃない。……不思議なものだな。がなくたって人を殺せるのに……。ただ刃があるだけで、こんなにも怖くなる」

「うん……。少しだけ、わかるよ」

 俺は意識を整え、刀を振る。


 上段の構えからの振り下ろし。

 下段から突きの構えへ移行。

 正眼の構えから、前後への移動。


 基礎的な動作をその場で緩やかに。

 感覚に違和感はない。

 むしろ……。


「だいぶ良い感じだな。今までより使いやすく感じるくらいだ」

「だったらパラメーターは、これまでのアマツにもフィードバックしておくね」

「ああ、助かるよ。……いつもありがとうな、ぴよこ。お前がいてくれて助かってるよ」

 俺の言葉にぴよこは目を丸くする。

 その後にへらっと笑い、ぺしぺしと俺をたたきだした。


「何改まってー。そんなこと言ってくれても、分解清掃メンテナンスくらいしかしてあげないよー」

「はは、至れり尽くせりだな」

「そう。至れり尽くせりなの、私は。だからさ……」

 ぴよこは俺の背に、顔をうずめた。


「ど、どうした?」

「ちゃんと、帰ってきてよ。危ないことをしてもいいからさ」

 背中に感じる手が、震えていた。


 強く、背中を抱きしめられたまま。

 俺はしばらく、なすがままにされる。


 静寂の中、背中の温かさが、妙に俺の意識に残った。


ありがとうございました。

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