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天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


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自分を大切にしてほしい


 弟子として扱われる、最初の放課後。

 これから訓練かと考えると、つい、俺は照れ笑いを浮かべてしまう。


 見てもいないのに『弟との初修行だ!』とはりきっているあやねぇの姿がありありと脳内に浮かんでいた。


 それは単なる想像に過ぎない。

 けれど、限りなく現実に近い想像でもあった。

 喜んでもらえることは、とても嬉しい。

 それでも、どこかこっぱずかしい気持ちになっていた。


 今回は初回だから、本格的な修行のような内容まではいかないだろう。

 それでも、きっと色々と学べるはずだ。

 正直言えば楽しみであった。

 あやねぇと一緒にいることも含めて。


「んじゃぴよこ。行こうぜ」

 そう俺が言うと、ぴよこは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「ごめん。私、用事あるんだ」

「何かあったのか?」

「ううん。バイトを始めることにしたの!」

 満面の笑みで、ぴよこは答えた。


「……お金に困ってるなら出せるぞ? いつも世話になってるし」

「それはいーくんのお金だから受け取れないよ。それに、自分で稼いでこそでしょ」

「そうか。どこでバイトするんだ?」

「カラオケ喫茶。……いや、個室のカラオケと喫茶店を併設したレストラン? そんな感じのお店。裏方で雇ってくれるって」

「なんか、色物っぽいな」

「ぽいんじゃなくて、色物だよ。がっつりと」

「……それ、許可証は大丈夫なのか?」

「うん。亜人就労許可証のあるお店だった」

「なら安心か。……いや、安心出来るのか? まあぴよこが選んだんなら大丈夫だろう。今度遊びに行くよ」

「その時は一声かけてね。割引券あるから」

「カラオケの?」

「ううん。大盛パスタの」

「そのメニューはちょっとカラオケと相性悪くないか?」

「大食いメニューも充実してるよ」

「まるで客層が見えん店だな。まあいいか。じゃ、ぴよこ。また明日な」

「うん、いーくん。また明日!」

 そう言って、満面の笑みで手を振る。


 いつも一緒だったから、ここでのお別れは少しだけ新鮮だった。

 ついでに、少しだけ寂しいと思った自分をぶん殴りたくなった。




「おやおや伊織ちゃん。随分とご機嫌斜めね」

 教室の外で、南雲はにやけ面をぶら下げ、俺に声をかけてきた。

「……そんな顔してたか?」

 南雲は手鏡を俺に向ける。


 そこには、小学生みたいに拗ねた仏頂面の俺が映っていた。


「ひでぇ顔」

「そうね。本当に酷い顔よ」

「んで、心配してなっちゃんは揶揄うふりをして話しかけてくれたと」

「……揶揄おうとしたのも本当よ」

「ははっ、良い友達を持てて嬉しいよ、俺は」

 そう言って俺は苦笑を見せる。

 南雲は困った顔で頭を搔いていた。


「それで、ついて行って良いかしら? 初修行」

「参加に関しては師匠に聞いてくれ」

 そう言って、俺が歩き出すと南雲はその横をついて歩いた。


「……それで、何がそんなに気に食わなかったの? 小鳥ちゃんが心配? それとも自分と一緒にいられないこと?」

「どっちでもない」

「あらそうなの? 束縛系DVでもしてるのかと心配しちゃったわ」

「そんなことするわけないだろ。……もしかして、マジでそれ心配してた?」

「あなた達は双依存のケがあるもの」

「……まあ、それは確かに否定できんが……」

「だから、怒ってる理由を教えて頂戴。その代わり、できるだけ手助けはするから」

「いや、必要ない。言ったところでどうにかなるものでもないし、俺の気持ちの問題だからな」

「言い直すわ。小鳥ちゃんが心配だから話せ」

 脅すような、そんな強い口調だった。


「……言い方は悪いけど、俺たちは金に困ってないんだよ」

「私も困ってないから別に良いわ。それともお金自慢勝負する?」

 そう言って南雲は自己主張するように、金細工を施された腕時計を見せる。


 女性物だが妙に似合っていた。


「言い方変えるわ。俺たちはあまり金を使う趣味がないから困ってないんだ」

「ふうん。それで?」

「そんなぴよこが何を目当てに金を集めようとしてると思う?」

「……伊織ちゃん。さすがに女の子のプライバシーに深入りするのは良くないわ。女の子は幾らでもお金がかかる生き物なのよ?」

 俺は立ち止まり、無言で南雲を見据えた。


「……何よ?」

「………………自分のことに金を使うなら幾らでも応援する」

「どういうこと?」

 俺は心底不快な気持ちで頭を掻き、答えた。

「わかってんだよ。長い付き合いだから。あいつが今、金を貯めてるのは俺のためだ」


 リムと話している時間が増えた。

 眼鏡をかけて本を読んでいる時間が増えた。

 色々な人の元に行って、教師に相談して、何かの準備をしている。


 あいつは、アマツを打とうとしている。

 俺のために――。


「そういう奴なんだよ。俺のことなんだから、俺の金を使えば良いのに。……通帳もカードも渡してるのに」

「何? 伊織ちゃんそんなことしてるの?」

 ドン引いた表情で南雲は俺を見据えた。


「食費やらだよ。よく飯の世話になってるから。あいつは一銭も手を付けてないが」

「でしょうね」

「おかしくないか? 俺の飯を用意するのに自分のお小遣い使ってるんだぞ? どれだけ渡しても受け取ろうとしやがらねぇ。通帳とカードだって緊急時用という名目でようやくだし……」

 ぶつぶつと愚痴っていると……突然、南雲は吹き出した。


「ぷっ。あはははは! つまりあれ? 小鳥ちゃんが伊織ちゃんを大切にしてるから怒ってるのね。小鳥ちゃんが大切な伊織ちゃんは」

 俺はその言葉に何も言い返さず、さっさと足を進める。


 その言葉が正しすぎて、あまりにもその通り過ぎて、俺は恥ずかしくて何も言えなかった。


ありがとうございました。

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