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天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


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世界の敵(前編)


 授業開始で入っていた教師を見て、一瞬の皆の心が一つとなった。

 落胆七割、絶望二割、そして一割ほど"あんにゅーい"な感じ。


 清潔感のない服装に白衣。

 病弱な細身に瓶底眼鏡。

 まるでなりそこないのマッドサイエンティスト。


 そんなエキサイトした外見の奴なんて、このアラハバキにだって一人しかいない。


「幸運であったな蛆虫ども! 仕方なしに。そう仕方なしに来てやったぞ! 本日は特別に、小生の臨時講義だ! 喜べ! 歓喜に咽び泣き五体投地で平伏せよ! さあ、貴様ら無知蒙昧に薫陶を与え、多少はマシな生き物にしてやろう!」


 そう、教師の『螺旋院 刺郎丸九重(しろうまるここのえ)』は言った。


 予定では音楽の、それも弦楽器であったはずなのに。

 やったことないから、ギターとかちょっと楽しみにしていたのに……。


 俺は小さく、こっそり溜息を吐く。

 同じように、あちこちで溜息に近い声が漏れていた。


 なんというか……俺たちクラスの連帯感が強まったような……そんな気がした。


「さっそく感嘆の息が漏れているな脳足りん共め。ふはははは! 良かろう。一言一句聞き逃さず、すべてを拝聴すると良いわ!」

 俺たちクラスメイトの大半が、冷ややかな細い目となっているのに、螺旋院は欠片も気づいていなかった。


「そうだな……講義の前にまず報告だ。本来の講義である音楽担当の朝比奈教諭だが、妖異との戦闘で負傷した」

 がたっと席が揺れ、誰かが立った音がする。


 それが、自分だと気づいたのは、皆の視線が俺に向いてからだった。


「あ、朝比奈先生は無事なんですか?」

 皆の意見を代弁し、俺はそう尋ねる。

 俺としても、心配しないわけにはいかないくらい良い先生だった。


 いつもニコニコして、自分をおばさんと呼ぶ柔和な女性。

 つまり、数少ないまともな性格の教師ということだ。


 眉を顰め、不快そうに螺旋院は答える。

「無事と言えば無事だな。とはいえ、数日はアラハバキに来られないだろう」

「そんなに悪いんですか!?」

「いや、負傷そのものは大したことがない。軽傷だ」

「良かった……」

 俺は、いや俺たちはほっと安堵の息を吐いた。

 あの人の音楽授業は、この四組になくてはならない、癒しの時間だった。


「ただ、戦闘でテンションが上がりまくって、影を踏みつけながらエレキギターを掻き鳴らしてな」

「……なんて?」

「朝比奈教諭が、影を踏みつけながら、エレキギターを掻き鳴らした」

「……なんで?」

「知るか。そのままクライマックスでギターのボディを影に叩きつけて殲滅。その時壊れ跳ね返ってきたボディで顔面を強打。そこで鼻を負傷した」

 しーんと、静寂が広がる。


 俺たちの知る朝比奈先生と、話に出てくる奇行を行う人物が、まるで一致しなかった。


「それでもまだ朝比奈教諭は騒ぎ足りなかったらしくてな、闇夜の市民街でオペラばりの大絶唱をかました。鼻血を垂らしながらな」

「え……えぇ……」

「ビビった市民の通報で確保され、精神鑑定を終えたのが今朝の話。そしてこれからは薬物検査と尋問が待っている。それが終わるまでは学園には戻れん。先に言っておくが、あいつはヤクなんてやってない。そんなチャチなものに頼らず、素の状態でラリってるからな」

「……あの人だけは、まともな先生だと思ってたのに……」

 どんな顔であの人の授業を受けたら良いのか、ちょっとわからなくなってしまった。


「はっ! 随分と見る目がないな貴様は! このアラハバキにおいて人格者と呼べる者など、この小生たる螺旋院ただ一人! 他にいるわけがないであろう! ちなみに朝比奈教諭の趣味は、外道妖異の頭蓋でピックなどの演奏道具を作ることだ」

 崩れるように席に着く俺を見て、螺旋院は「ふはははは!」と高笑いをあげた。




「さて、講義の前に、二つだけ言っておく。餌を前にした鯉のように小生の話を待つ貴様らの気持ちはわかるが、そういうルールだからな。つべこべ文句を言わず聞くが良い」

 誰も文句を言ってないし、何なら話も正直聞きたくないが、皆無言で螺旋院を見つめた。


「まず、これからの講義は本来二学年以上に指導する内容である。だが、まずそこの……篠宮有栖」

「私のことは、メイドとお呼び下さい」

 ほぼ反射のようにメイドはそう答えた。

「何をわけわからんことを言う。篠宮有栖!」

「メイドと」

「ええい! 話を聞かん奴だな! 良いから話を続けさせろ! 篠宮有栖!」

「メイドと」

「……この小生に意見するなど……不届き者めが! ええい駄メイド! これで良いんだろう」

 メイドは、にっこりと微笑む。

 あの螺旋院が、静かに顔を引きつらせながらドン引きしていた。


「次は、……貴様は南雲で良いよな?」

 恐る恐るの螺旋院に、南雲は微笑み、小さく頷いた。

「それで、後はリムヴェルト・ストール・リヴィングテッドか。以上の三人は入学段階で既に卒業レベルの実力があると判断されている」

 一瞬驚いたが、納得しかない。


 メイドは既にカムイ持ち。

 軍だろうと警察だろうと、もろ手を挙げて歓迎されるだろう。


 リムはカムイを打ったことがあると聞いた。

 それが事実ならば、既に刀匠そのものである。


 南雲に関しては良くわからんが、こいつは芸に対しての向き合い方が他の奴と違う。

 まず間違いなく本職だ。

 芸人か武芸者か、もしくは何等かの家元候補とか、その辺りだろう。


「最後に……アラハバキ序列一位の弟子が誕生したことで、重要な講義を先んじて指導することとなった。それが一つ目だ。良いな?」

 皆の目が、俺に注ぐ。


 さっきと状況は同じなのに、妙に照れくさかった。


「かーわうぃー」

 そう言って、肘で南雲は俺をつつく。

「やめろ。……いやお前の場合、マジっぽいから本当にやめてくれ」

「伊織ちゃんに本気になっても良いのよ?」

「勘弁してくれ」

「うぉっほん!」

 大きな声で、螺旋院は咳払いをし、注目を強引に自分に集めた。


「そして二つ目だ! 二つ目だ! 良いか! よく聞けよ!」

 しつこく繰り返し、若干うんざりした空気が流れた。


「……これより行う講義の中には『国家機密』が含まれる。その部分が出た時、改めてそれだと伝えよう。その部分の内容を"絶対"に外部に漏らすな。漏洩が発覚した場合、良くて退学。最悪、打ち首だ。比喩ではなくな」

 激しい抑揚のしゃべり方である螺旋院が、あえて淡々と。

 だからこそ、その言葉には思い説得力が宿っていた。


 緩んでいたけだるい空気が、張り詰める。

 まるで、冷水をぶっかけられたような気分だった。


「あの……」

 そっと、俺は手を挙げた。

「なんだ今度は?」

「それほど重要な話なら、どこか別の場所でした方が良いんじゃないでしょうか?」

 螺旋院は俺の言葉を聞いて、うんうんと頷いた後……全力で、鼻で笑った。


「はっ! 馬鹿め! 大馬鹿者の無能めが! しの……駄メイドを見てみろ。この挙動不審っぷりを!」

 俺はメイドに視線を向ける。


 ニコニコ微笑んではいたが、ぴくっ、ぴくっと身体が揺れている。

 表情もどこか嘘っぽく、心ここにあらずという様子だった。


「貴様は無能だから気づかないが、既に監視として一流の剣士が何人も教室の内外に紛れ込んでおるわ! 防諜と監視のためにな!」

 螺旋院の言葉の後、教室の外からこんと、小さなノックが一つ響く。

 しーんと、教室に静寂が広がる。

 一瞬で教室の空気が氷点下になった。


「しゃべりすぎたな。忘れろ」

 静かに螺旋院は呟き、誤魔化すように咳払いをした。


「さあ、待たせたな。小生の素晴らしい講義の時間だ! 本日の授業は――貴様らの【敵】についてを教えてやろう」

 そう言って、螺旋院はニチャっとした邪悪な笑みを浮かべた。


ありがとうございました。

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